#608 終盤の決戦。〈1組〉VS〈8組〉戦。開始。
「やってくれたなゼフィルス」
「何言ってんだ。点が同点だなんて狙ったわけじゃないぞ?」
肩をすくめて否定する俺に疑わしいという目を向けるメルト。
そんな目を向けられても、〈1組〉と〈8組〉が同点になったのは偶然だ。ラナには〈12組〉の防衛モンスターはなるべく狩るようにと伝えていたけれど偶然だ。
現在、場所は中央山の少し南西(図I-24)のマスにメルトと二人でいる。
他のメンバーもいないことも無いがお互い向かい側の隣接マスに退避してのリーダー同士の邂逅だった。
連合とのバトルが終わってひと段落し、全員がここに集まって今に至る。
なんで敵同士で仲良くしゃべっているのかというと、一つやっておかなければならないことがあるためだな。
「じゃ、さっさと始めるか」
「ああ」
「〈8組〉リーダーメルトよ、対連合共同戦線の協力に感謝する」
「〈1組〉リーダーゼフィルス。こちらこそ申し出を受け入れてもらい感謝する」
「じゃあ、ここに共同戦線の解散を宣言する。いいか?」
「ああ、もちろんだ。しかし、もうクラスは俺たちだけか。〈9組〉は残しておいたほうが良かったな」
「〈9組〉を落としたのは〈8組〉だけどな」
「は、そうだな。正直、落とすのを早まったと思ってる。もう少し防衛モンスターをひねり出させてから落とせばよかった」
「その場合は〈1組〉が奪ったかも知れないぞ?」
「違いない」
そこでお互い笑い合う。
「ゼフィルスー、何もたもたしているのよー!」
そこでラナの声が俺たちの元へ届いた。どうやら長話しすぎたらしい。
「さて、クラスメイトたちがお待ちかねだ。じゃあメルト。話はここまでだ」
「ああ。このマスから離れたら、もう敵同士だ」
そう言ってメルトと握手すると、俺とメルトはお互い背を向けて歩き出す。
自分たちのクラスが集まる陣営に向かって。
なんか学園のローカルルールでは同盟などを解消するとき、こうして代表同士が1対1で相対して解消するのが美徳らしい。なんか、かっこいいなこういうの。ちょっとやってみたかったんだ。
そうしてお互いの代表がマスから出たら、正式に解消。そこからはやり合ってもいいことになるらしい。ちなみに解消するのがイヤだからとずっとマスに居続けると、攻撃されても文句は言えないのだとか。それはちょっとかっこ悪いな。
こうして俺とメルトはマスを無事跨ぎ、自分のクラスへと合流した。
ここからは〈クラス対抗戦〉最後の決戦だ。
「待たせたなみんな。相手はメルトのクラス〈8組〉だ。今までで一番の強敵クラスだ。気合入れていくぞ?」
「まっかせなさい!」
俺が発破をかけると〈1組〉メンバーが大きく頷いた。
ここにいるのは、先ほど連合を打ち破ったときと同じメンツだ。
シェリア、ルル以外の〈エデン〉メンバー全員と〈マッチョーズ〉のギルドマスターアラン、アラン以外の筋肉さんたちは退場しているのでカウント外。ちなみに〈天下一大星〉も全員退場してしまった。
その他〈1組〉のクラスメイト女子も2人が退場してしまったため、現在ここにいるのは15人。
俺、ラナ、シエラ、エステル、カルア、リカ、セレスタン、シズ、パメラ、ミサト、サチ、エミ、ユウカ、アラン。そして【シャドウ】の女子だ。
対する〈8組〉もギリギリまで拠点からのリソースを引っ張ってきたのだろう。
13人もいる。
〈8組〉はここで勝たなければ後が無いため、なりふり構わない人数で勝利を掴みに来たようだ。ここで決める気満々だな。
「いいね」
俺はそう呟くと〈8組〉に向け進軍を開始する。
向こうもこちらへ向かってくるようだ。
「全員、最後の戦いだ。気合入れていけ! 攻撃、開始だーー!!」
俺の言葉と共にお互いのクラスが動き出す。
◇ ◇ ◇
「中佐、右の部隊の指揮を任せる」
「任せな」
「もののふは左の部隊の指揮だ」
「某に任せよ」
メルトがクラスメイトに指示を出す。
〈8組〉はカテゴリー持ちが多く在籍するクラスだ。
ほとんどの者が高の中以上に就いているという超エリートクラスである。
今のも「公爵」のカテゴリー高の中の【中佐】な男子。
もう1人は「侯爵」のカテゴリー高の中の【もののふ】な男子である。
ちなみにこの2人は敢えて名前より二つ名っぽく呼ばれたがっているため職業名で呼ばれていたりする。
あだ名が中佐ともののふなクラスメイトだ。混沌としたクラスなのだろうか。
「まともにぶつかるな! 誘いこめ! ノエルはバフと回復で味方を援護だ! 遠距離攻撃、行くぞ! 放て――『フレアバースト』!」
〈1組〉と〈8組〉が同じマスに入ると遠距離攻撃の集中攻撃が双方のクラスから放たれた。
メルトは陣形を整えつつ、クラスメイトに指示を送り、的確に攻撃と防御を操る。
「ラクリッテ防御だ! 狼狽えるなよ! 〈8組〉の強さをここで見せろ! 反撃! ――『フリズドスロウ』!」
貴族系のカテゴリー持ちは総じてバランスが良い。タンクを兼任出来る者が多く、〈1組〉の強力な攻撃にさらされても耐えられる。
問題は回復だ。
基本的に貴族は回復の使い手が少ない。貴族は回復してもらうことが当り前だからだ。
回復系を扱えるのは「男爵」系の職業、もしくはメルトのような「貴人」系統の職業持ちだ。数は多くない。
獣人系の回復持ちも、残念ながら〈8組〉には在籍していなかった。そもそも〈戦闘課〉ではヒーラー自体が少ないのだ。
「――『ヒールメロディ』! ――『ラブヒール・ボイス』!」
「――『オールヒーリング』!」
ノエルのパーティ回復がクラスメイトに飛ぶが、圧倒的に回復量が足りない。
本来なら高火力アタッカーであるメルトも回復役へと回らざるを得ず、攻撃の圧力が徐々に減っていく。
メルトは厳しい目をして〈1組〉側を見るが、そちらでは例の永続『カバーシールド』を発動したシエラが遠距離攻撃を防ぎまくっていた。さすがに四枚の盾では集中攻撃は完全には防げず、最初いくつかは後ろに通してしまっていたシエラだが、ゼフィルスたちがカバーしているために相手に被害はほとんど与えられていないように見える。
そうなると〈1組〉からの攻撃力がドンドン増していき、〈8組〉はたまらず後方のマスまで後退する。
こうなればマスの減退効果で遠距離攻撃はその威力を半分以下まで減らしてしまうため使い物にならなくなる。必然的にお互いの攻撃は止み、小休止、陣形を整える時間だ。
ただ、相手にはラナが居た。
「甘いわよ! ――『大聖光の四宝剣』! ――『聖光の宝樹』!」
〈白の玉座〉に座るラナの遠距離攻撃はほとんどその威力を減退しない。
ラナは今まで支援回復に回っていたが、小休止で余裕が出てくるとどんどん攻撃してくるようになる。【大聖女】は伊達では無い。
「守れ! 獣人組は乱戦の準備だ!」
しかし、メルトはラナの特異性を知っている。
故に後退してもタンクの緊張は解かず、ラナの攻撃を完全に受けきった。
被害は軽微だ。その間にどんどん回復し、立て直していく。
じゃないと、〈1組〉がすぐにマスを越えてくる。
「いっちばん槍デース!」
「あと一歩及ばずですか」
最初にマスを越えて飛び込んで来たのはパメラ、続いて〈蒼き歯車〉を装備したエステルだった。すぐに対するメンバーを送り込む。
「僕が相手するよ、忍者ちゃん」
「ほわ! ルルみたいにちっちゃいショタなのデース! メルトより小さい人、初めて見たのデース!」
パメラの前に出たのは「子爵」カテゴリー男子、【ショタヒーロー】に就いている子で、ルルの容姿の男バージョンだ。金髪ショタ。見た目の年齢が実年齢の半分に見えるほどのショタがパメラの行く手を阻もうとする。
「では奇妙な乗り物に乗る方は私が相手を務めましょう」
エステルの前に飛び出すのは「狼人」のカテゴリー持ち女子。【雷狼】の職業に就く〈雷属性〉の双剣使いだ。
ちなみに「狼人」と「犬人」は同じカテゴリーのグループ扱いだが、「犬人」はテイマー系など、「狼人」は近距離アタッカー系などとタイプが分かれる。
そしてメルトはパメラの物言いに怒りマークを浮かべながら指示を出す。
「無理をするな、少しずつ後退しろ! 絶対に倒されるな! ノエルはバフを密に掛けるんだ!」
しかしメルトはあくまでも冷静だ。
〈1組〉にはまだまだ余裕がある。〈8組〉のエリート部隊を相手に相変わらずとんでもないクラスだ。
カルア、パメラ、エステルは〈1組〉では突出して速い斬り込み隊長。
彼女たちに暴れられたらせっかくの陣形が崩れてしまう。
今回カルアはゼフィルスの側にいるようでパメラとエステルが飛び込んできたため、最小限の相手で足止めを目的としてメルトは【ショタヒーロー】と【雷狼】に任せた。
まだ勝負するときでは無い。〈8組〉はさらに後退していく。
パメラとエステルを足止めしているうちに〈1組〉本隊がマスを越えて侵入してくる。
ここからが勝負どころだ。
「中佐! もののふ! 今だ! ラクリッテ、レグラム、頼むぞ!」
メルトの指示で左翼の部隊と右翼の部隊が〈1組〉を囲うように左右から突撃する。
――包囲戦だ。




