#595 リーナの切り札の威力と時間稼ぎ!
所変わって〈51組〉拠点から東に1マスの地点。
「『結界爆発』!」
「うおっと!? 相手に箱使い居るだろこれ!」
「ジュガガガガァァァァァ!!」
「グウウオォォォォォンッ!!」
「連携してボスちゃんたち! 『統率』!」
「くっ、ボスが連携するとここまで厄介になるとは!」
「しかもバフ付いてるデース!」
「パメラ、片方ずつ引きつけるぞ!」
「デス! 『お命頂戴』デース!」
「グウウオォォォォォンッ!!」
「あ、待つデース!? なんで私を狙わないのデース!? リカを狙っちゃダメデース!?」
「パメラ、リカ、こいつらに挑発スキルは効かない、あの犬人の子が緩和してるからな」
「なんと!」
いやあ、さすがリーナだ。配置する者のことをよく分かってらっしゃる。
ここで「犬人」カテゴリーを入れてくるか!
現在ボスモンスターである〈キングダイナソー〉と〈バトルウルフ(第三形態)〉は共にリカを集中的に狙っている。一人狙いだ。
さすがのリカも2体のボスを一緒に相手をするのは経験が少ない。さらには連携されているとあってかなり苦戦している。1体のみを相手にする場合と2体同時は難易度が天と地ほども差があるのだ。
「この、ユニークスキル『双・――」
「グウウオォォォォォンッ!!」
「くっあ!」
「リカ!? 大丈夫デース!?」
「『オーラヒール』!」
リカが〈ダイ王〉に大技を出そうとしたところで〈バトルウルフ〉の突進に跳ね飛ばされた。すぐに『オーラヒール』で回復させる。
「その調子だよ! ――『合流』!」
「ジュガガガガァァァァァ!!」
「グウウオォォォォォンッ!!」
犬人の子がスキルを使うと2体のボスが追撃をせんとリカに迫った。
もうお気づきかもしれないがボスモンスターはあの犬人の子の制御下にある。
職業はおそらく【犬力者】、いや〈51組〉だったっけ? ならその下部である中位職の【群れの長】だろう。
お察しの通りテイマー系の職業だ。
自分でテイムしているモンスターを鼓舞して指示し、戦わせる優秀な職業だな。
そして、「犬人」のテイマー系はとても優秀なことに、支配下にある防衛モンスターを操ることも出来たりする。
支配下にあるのだから当然ヘイト緩和系スキルも持ってる。先ほどから2体のボスを別行動させられない理由だな。正直これが一番強力なスキルだと思う。さらにだ。
「『勇者の剣』!」
「ジュガァァァ!?」
「ウルフちゃん行って! 『傷なめ』!」
回復スキル『傷なめ』によってボスのHPの回復までできてしまう。防衛モンスターは防衛モンスター同士でのみ回復を受け付けることができるのだ。
犬人の子に指示された一匹の〈ウルフ〉が〈ダイ王〉をペロペロ舐めてHPを少し回復させた。うむ。
まさに適材適所だ。リーナの配置は素晴らしいぞ!
「『ソニックソード』!」
「キャイン!?」
まあその〈ウルフ〉には速攻で退場願ったけどな!
「『五法陣結界』!」
「よっと!」
五箇所から囲い込みをしようとする魔法陣の結界を俺はすぐに飛び退いて回避した。アレに捕まると壊さなくちゃいけないからな。
相手には多分「侯爵」までいる。おそらく魔法職の【箱入り娘】だ。さっきから動きを封じようとしてくるのが少し厄介。
良い人選だな。ここでカテゴリー増し増しで来ますか!
「リカは反撃をせずにタンクに集中しろ! パメラはリカが引きつけたところを攻撃だ! 焦るなよ、いつも通りやれば勝てるぞ」
「う、うむ」
「分かったデース!」
「リカ、我慢だぞー」
いやあ、ボスが2体、連携取ってくるとマジ厄介。リカは〈ダイ王〉1体なら大量に狩ったので自信あるだろうが、ここは攻めに出るのを我慢してもらう所だな。
いや改めて強い。これで犬人の子が【犬力者】でユニークスキル『犬力の犬』を使ってこられたらリカかパメラ、どちらかかもしくは二人共が退場していたかもしれない。
マジいいチョイスしてるなリーナ!
とはいえ、負けるのか? と言えば「はっはっは」と笑い飛ばせるくらいには勝てる。
まあ時間はかかるけどな。
しかしだ、〈51組〉の防衛メンバーさんが邪魔してくるのでボスモンスターに集中できなくて割と厄介。
多分、リーナに援護に徹するよう言われているな? 良い判断だ。
防衛メンバーさんに攻撃を仕掛けたいところだが、あの騎士の子が護衛かな?
大盾持ちだからタンクか? 倒すには少し時間が掛かりそうだ。
「ジュガガガガァァァァァ!!」
「秘技――『弾き返し』!」
「ジュガ!?」
「これは温存している場合ではないデスね! 行くデース! ユニークスキル、『必殺忍法・分身の術』!」
「グウオンッ!!」
パメラがユニークスキルを発動。4人の分身が現れ〈バトルウルフ(第三形態)〉を囲んで攻撃し始めた。
さて、リカとパメラも少し慣れてきたかな?
そろそろ時間も無さそうだ。見事に時間を稼がれてしまったな。
さすがリーナだ。万が一の備えが半端ない。
召喚盤はなんでも使っていいって許可出したのは俺だけど。
〈キングダイナソー〉は知ってたけど〈バトルウルフ(第三形態)〉の〈召喚盤〉がドロップしていたのは知らなかったなぁ。ひょっとしたらセレスタンめ、サプライズを用意していたな?
うむうむ。いいじゃないか。こういうの好きだぞ俺は!
そう考えていると、パメラが何かに反応して東の方に振り向いた。
「索敵に反応ありデース! 数5人!」
残念。どうやら時間切れのようだな。
「追っ手が到着か! 反転して2マス移動するぞ。防衛モンスターの行動範囲から出る」
「了解した」
「分かったデース!」
連合主力は予想通り、戦力を分散させてきたな。
俺たちが〈51組〉に行けばリーナは追っ手を出さずにはいられないだろう。
実は防衛モンスターが思いのほかすんごくて、もしかしたら追っ手が来ないのでは? とも思ったのだが、リーナはちゃんと追っ手を出してくれたようだ。
そして俺の予想通りであれば、ここで俺に差し向けられる相手は。
「南から敵影デース! あ、あの銀色の鎧は確かエステルとやりあっていた上級職の人デスよ!」
「予想通りだな。迎撃する! ここで討ち取るぞ!」
俺がここにいれば、リーナはラムダ君をここにぶつけるしかない。
ここでラムダ君が勝利すれば、〈12組〉の対応も出来るからだ。
とはいえ先ほどの実力を見る限り、俺を抜いて次にエステルに行ったとしても、ラナの回復を受けたエステルは多分抜けない。
とはいえ俺も負けるつもりはないけどな!
〈51組〉拠点から東へ3マスの地点(図D-1)でラムダ君たちを迎撃する!
「俺が上級職の相手をする。リカとパメラは、取り巻きを頼むぞ」
「うむ」
「分かったデース!」
リカもパメラもレベルカンスト。
〈1組〉の精鋭だ。
たとえ倍の敵を相手にしても、負けないぜ?
◇ ◇ ◇
「!! 前方に人影3人! 勇者です! 待ち構えています!」
「!!」
ラムダたちはその報告に緊張感を増していた。
もう視界には〈51組〉拠点を隠している山が見えている。そしてその山の横のマスでは勇者がこちらを待ち構えていたのだ。
ヘカテリーナ最後の切り札はボスモンスター。
出来れば〈51組〉の拠点テリトリーで戦闘をしたかったが、そうはいかなかったようだ。
あの位置では防衛モンスターは出てこられない。ルール上、防衛モンスターは拠点から2マスまでしか離れられないからだ。
自分たちでやるしかないと改めて覚悟を決める。
位置取りを調整し、ゼフィルスたちを〈51組〉拠点へ押し込めるよう南東に位置取りをして進む。
改めて勇者を見る。
何度も見かけた風貌。
常に自信に満ちていて余裕が有り、いつだって話題に事欠かず、様々な記録を更新し学園中を、いや世界中を新たな時代へと誘っていると噂される勇者が前にいた。
理想は短時間で勇者を打ち破り、自分が生存の形で〈12組〉も救出することだ。
なんとも難易度が高い。
できれば全員で勇者を囲み、制圧したいところではあるが、他にも2人いるのだからそちらを抑える必要があった。
ここは部隊を分ける。
「2人は俺に付いてきてくれ、勇者を倒すぞ! 2人は他の足止めだ!」
「「おう」」
その指示にすぐに了解の言葉が返ってくる。
ここに居るのは全員が〈5組〉のクラスメイトたちだ。
勇者と言えど、上級職を含む3人を相手にすれば苦戦せざるを得ないと考える。
勇者との距離が残り1マスに迫る。ラムダは先頭に出て大盾を構えた。
勇者は、未だに剣を抜かず、それどころか他のメンバーから距離を取り、1人で待ち構える体勢を取っている。
狙いは、先頭を走るラムダのようだ。
そして同じマスに入った直後、
「――『シャインライトニング』!」
まだ距離があるにも拘わらず唐突に勇者が剣を引き抜きそして振った。瞬間、雷の範囲魔法が扇型に迫った。
「速い! ――『シャインフォースシールド』!」
剣に手を掛けたと思った直後の魔法攻撃、攻撃の予備動作があまりに自然で分かりづらかった。
しかし、まだ距離はあったため攻撃が届く前に光の巨大盾を前方に顕現させる『シャインフォースシールド』を発動することに成功する。
周りのクラスメイトたちもラムダがこれを発動すると分かっていたので一早くラムダの後ろに駆け込んだ。
ラムダの『シャインフォースシールド』の利点は走りながらでも発動できること。
一度止まる必要が無いので接近しながら防御し続ける事が可能なのだ。
全員がそれを知っているため足を止めずに進み続ける。
範囲魔法攻撃が直撃した。前が真っ白に塗りつぶされる。
威力は、純粋な魔法使いの方が強いと感じる。
これなら行けると思ったその直後、
「――『サンダーボルト』!」
「ぐあっ!?」
範囲魔法が切れる瞬間に2発目の魔法攻撃が『シャインフォースシールド』を打ち砕いてきた。
左手の大盾に大きな衝撃を受ける。
間違いなく四段階目ツリーだとラムダが感じるほどの威力。
『シャインフォースシールド』は三段階目ツリーだ、砕けるのも納得する。
やはり勇者が上級職という話は本当だったのだと確信した。
「――『ホーリーヒーリング』!」
すぐに四段階目ツリー【カリバーンパラディン】の自己回復スキルで自分のHPの回復に努める。
足は止めない。
幸い今のはラムダの後方にダメージは行っていないみたいだ。
しかし、今のような失敗は許されない。
「反撃開始だ! ――『聖光剣現・真突』!」
盾で身を庇いながらラムダは、〈聖属性〉と〈光属性〉の二属性が込められた巨大な剣を顕現させ撃ち放つスキル。四段階目ツリー『聖光剣現』の〈突〉を発動する。
発動した直後、目の前の勇者がなぜか嬉しそうに笑った気がした。
後書き失礼します。
ユニークスキル『犬力の犬』は誤字ではありません。〈けんりょくのいぬ〉と読みます。(当て字)




