#593 ゼフィルス〈51組〉拠点到達とリーナの切り札。
所変わって〈51組〉拠点。
そこには3人の守護者と防衛モンスターが配置されていた。
拠点の上階から双眼鏡で監視していた1人、赤髪をサイドテールドリルヘアーにし、白を基調とした騎士鎧を着たロゼッタが、突如として双眼鏡から目を離し、目頭を揉む。
「ロゼ、どうかしたの?」
それを見た「犬人」のカテゴリーを持つ女子、肩に掛かる青髪を後ろに纏め、やや垂れた感じの犬耳を持ち、軽装を着た少女フラーミナが首を傾げて問うた。
聞かれたロゼッタはこれまた首を傾げながら答える。
「いやあ、私の見間違えかなぁ。いくら勇者君たちが来るかも来るかもって思ってても、本当に来ているように見えるなんて……。ちょっと目が疲れてるのかも」
「どういうこと?」
意味が分からずフラーミナが聞き返す。
その時後ろからもう1人が現れた。
「今勇者君って言った?」
「うわ! ビックリした! カタリナどっから現れたの!? 今休憩中でしょ!?」
最後に現れたのは美しい黒髪を背中まで流し、白のドレス風装備を着こなす少女カタリナ。
3人はローテーションで見張りをしているためカタリナは休憩中のはずだが、いつの間にか現れたカタリナにフラーミナがビクッとする。
「そんなこと、どうでもよろしいわ。それで、勇者君がどうしたの?」
「カタリナって本当にイケメンが好きだよね。なんかロゼが勇者君が見えるって言うんだよ――」
「ちょっとその双眼鏡貸しなさい」
「あ――」
フラーミナが言い終わらないうちにカタリナは目にも止まらぬ速さで双眼鏡をひったくった。
「!! 見える! 私にも見えるわ! 勇者君が見える、こっちに来る様子が見えるわ!」
「って、それって勇者君が実際に来てるってことじゃ無い!? というか肉眼で見えるよ!? ていうか、すぐ、そこ!」
まさか、である。
要塞があり連合がある限り〈1組〉は拠点まで到達できないと安心していたら、普通に勇者君が現れた件。
実はリーナは各方面に『ギルドコネクト』で連絡していたが、あまりに連絡箇所が多すぎて〈51組〉拠点まで手が回っていなかったのだ。現在クールタイム中である。
しかし、〈51組〉拠点はリーナの本拠地だ。ちゃんとこういう時のために見張りを万全にし、即時対応できるよう準備は万端にしてあった。〈51組〉拠点への連絡が最後に回された理由でもある。のだが、相手があの勇者なため願望と現実の区別が少し曖昧になってしまったようだ。よくあるミスだ。
フラーミナが慌てて見ると、もう肉眼でもこっちに駆けてくる3人が見えてしまった。
その中央にいたのは、以前夏祭りで会った勇者君に間違いない。
「ちょ、ロゼもカタリナも正気に戻って! プリーズ! 迎撃準備ー!」
「へ? ちょっと本気で!? あの勇者君って本物!?」
「大変! すぐに出迎えに行かないと!」
「だから待って、カタリナは本当に待って! あなた後衛でしょう! 時間稼いで! 防衛モンスターを指揮して!」
こうして〈51組〉拠点はハチの巣をつついたような騒ぎに包まれた。
一方、連合主力を躱すように抜けて〈51組〉までやってきたゼフィルスはというと。
「あれぇ、おかしいな。出迎えが無いんだが?」
〈51組〉の拠点を目前にし、戸惑っていた。
もう残り1マス。にもかかわらず攻撃も防衛モンスターの出迎えも何も来ない。
なんだか拠点が騒がしいので人は居るはずなのが……、隠れもせず正面から堂々と攻めに来たゼフィルスたちはやや困惑していた。
リカもゼフィルスの言葉に頷く。
「襲撃者の発見が遅かったのかもしれないな。防衛が間に合わなかったのではないか?」
「でも相手はリーナのクラスデスよ。油断させるための罠かも知れないデース。あ、罠発見デス」
「おっと『シャインライトニング』! ―――なるほど、油断させて罠で一網打尽を狙っていたのか」
狙いを探っていたパメラがかなり強力な罠を発見したためゼフィルスが『シャインライトニング』で一掃する。
至る所で大爆発が起こり、ゼフィルスたちの足が止まった。このまま〈51組〉へ突っ込んでいたら危険だったと改めて認識した。
「さすがはリーナだ。こんな拠点ギリギリで罠を仕掛けるとは。普通はもっと距離を置いたところから罠を仕掛けるはずだし、ここまで近づかれれば今度は罠より拠点の出方を警戒する。拠点の方が良く分からない行動をしているときは余計に拠点に気が向くだろうから足下の罠はより発見しづらくなる。パメラ、よく発見した。お手柄だ」
ゼフィルス、相手がリーナだからと深読みした。
実際は防衛組が勇者が攻めてきたことを飲み込めなかっただけだ。
罠も持ち込めた数が非常に少なかったためここにしか仕掛けられなかったに過ぎない。
が、リーナの評価が上がったので何も問題は無い。
「それほどでもあるデース!」
「となると、この罠の次は」
「ああ、ほら来なさった。防衛モンスターのお出ましだ」
この大爆発でゼフィルスたちの足を止めている間。なんとか〈51組〉の防衛の準備が整ったのだった。爆風の煙の中から防衛モンスターが顔を出す。
「ふえぇ。ギリギリだった。リーナさんが万が一って罠を仕掛けていなかったら間に合わなかったよ」
「フラウ、間に合ったんだからセーフだよ。ここから頑張ろう! 良いとこ見せよう!」
「ロゼはもうちょっと反省して! それでカタリナの方は?」
「こっちは問題無いわ。ちゃんとリーナさんに言われたとおりのモンスターを呼び出したわよ。でも、さすがに怖いわね」
守護者3人はなんとか間に合っていた。騎士のロゼと犬人のフラウは拠点の出入り口付近で防衛モンスターを待ち。
カタリナは召喚盤を操り、リーナの作戦通りのモンスターを召喚し、送り出す。
ズウン、ズウン。
召喚されたモンスターが歩く度に、地響きのような音が響いた。
「ひう」
現れたモンスターを前に尻尾を股下に隠すフラーミナ。
防衛モンスターは外に出ると、まるで自身を鼓舞するように咆哮を上げた。
「ジュガアアアアアッ!!」
そこに現れたのは中級下位の一つ〈丘陵の恐竜ダンジョン〉最奥のボス。
コスト40という中級下位最強の一角、
――〈キングダイナソー〉だ。
しかもそれだけに終わらない。
〈キングダイナソー〉の後ろからも巨大な二体目のモンスターが現れる。
そいつは黒かった。さらに赤くギラギラとした眼光二つが周囲を満遍なく見渡し、そしてゼフィルスたちへと向く。
「グウウオォォォォォンッ!!」
そいつも〈キングダイナソー〉に負けじと大きく吠える。
こいつは〈キングダイナソー〉よりもさらに強力な種。
コスト58を誇る中級中位の一つ〈猛獣の集会ダンジョン〉最奥のボス。
――〈バトルウルフ(第三形態)〉。
両方とも〈金箱〉産ボス。
ニーコの尊い犠牲による〈金箱〉乱獲中に、つい二日前に偶然ドロップした〈召喚盤〉から召喚されたモンスターだった。
これが〈51組〉、リーナの切り札。
防衛モンスターに選ばれしは、複数で倒すことが前提のボス。しかも2体。
ゼフィルスたちはたったの3人。
リーナは、この局面で最後の切り札を出してきた。