#591 ゼフィルス本命作戦、三拠点と主力へ同時攻撃。
「ここから展開が大きく動くぞ。〈1組〉〈8組〉は挟撃を回避しつつ南下する。だがそのためには〈3組〉が良い位置に居るな」
俺が南東方面を向くと、カルアとシズも同じほうを向く。
そこでは今まさに〈8組〉と〈3組〉がぶつかるところだった。
〈3組〉の先頭は、「狐人」のカテゴリー持ち、【百炎狐】か!
対集団戦において非常に相性の良い職業で、主に〈火属性〉の範囲攻撃を使う、集団戦のスペシャリストだ。
ただ非常に燃費が悪い特性上、育成の方向性がMPとINT特化になりやすく、打たれ弱いという弱点を持つ、後衛の魔法ダメージディーラーのはずだが、なんかガンガン前に出てるな! すごい自信だ。
ラクリッテが迎え撃ちに行ったが、倒すには火力が足りないだろう。
メルトがいない今〈8組〉にあの相手は厳しいかもしれないな。
「ミサト、ちょっと来てくれ」
「ん、何ゼフィルス君、今忙しいんだけど!」
「『エリアヒーリング』! これで少しは楽になっただろ。こっちはエミとシエラがいれば大丈夫だからちょっとあれの相手をしてきてくれ」
そう言って指を向けた側を見たミサトが、なんだか珍しく嫌そうな顔をした。
「あの人か~」
「大丈夫か? 無理そう?」
「ううん、確かに私なら対処できるしね。分かった、行って来るよ!」
「頼んだ」
こっちは正直シエラがいるので防御力は大丈夫。回復も、エミを重点的にヒーラーに回せば補えるだろう。
まずは〈3組〉撃破が最優先なので相性の良いミサトに行ってもらう。
その間に俺たちは連合の相手だ。
連合は陣形を組んだ後、次第に前に前にと進んできていた。
「連合の狙いは挟撃だ。つまり、連合主力と〈3組〉で挟み撃ちを狙っている」
「今のままですと、連合主力対〈1組〉、〈3組〉対〈8組〉なだけですね」
俺の説明に隣で射撃しているシズが相づちを打つ。
「そう、これでは挟撃になっていない。だから連合主力からの圧力が増すはずだ」
「「「―――うおおぉぉぉぉ!!」」」
「『カバーシールド』!」
俺の言葉が終わるのとほぼ同時に連合主力からおたけびが上がる。気合で士気を上げているのか。
シエラの声と同時に盾が次々に攻撃を跳ね返し始める。
「エミ、回復を頼む」
「はーい! ゼフィルス君のお願いなら何でも聞いちゃうよー。『魔本・ラージヒーリング』! 『魔本・オールヒーリング』! 『魔本・ビッグヒーリング』!」
エミは【魔本士】だが回復魔法を6つも覚えているためヒーラーとしても活躍が可能だ。シエラが優秀なタンクなので手が回るだろう。
その状況を見てシズが銃を構えたままで納得するように言う。
「なるほど、連合はこのまま〈1組〉を押し込みたいのですね。では私たちはあれらを抑えれば良いと」
「いやいや、人数差も有るんだからそれだと被害が増すだろう? もっとスマートなやり方がある」
「ん。ゼフィルス、スマートなやり方って?」
カルアが問うてくる。シズも意外そうな顔をしてこっちを向いていた。知りたいだろう。
「ほらそろそろだ。要塞が消えるぞ。俺たちはここに7人を残しつつ少数精鋭で〈5組〉〈51組〉の拠点も直接狙おう。カルア、パメラとリカを呼んできてくれ。さらに部隊を小分けにする」
俺の言葉にカルアがぱちくりする。
さっきの引くと言った言葉とは真逆のセリフが出てきてハテナマークというところだろう。
うむ、先ほどの言葉も実行する。〈1組〉〈8組〉の大多数は南へ向かう。ただ、俺、カルア、リカ、シズ、パメラの5人が強行突破して拠点を狙いに行くだけだ。
そうすれば、連合はどう対処してくるか?
「〈1組〉の強みは集団戦じゃない。少人数による個人戦だ」
俺には連合の動きが見えている。
◇ ◇ ◇
連合主力側ではリーナが素早く連合部隊を『号令』スキルによって立て直し、残り少ないポーションによる補給を早急に済ませた後、〈1組〉を押し込もうとしていた。
「どんどん攻撃して圧力を上げてくださいまし! 前線を押し上げますわよ!」
「聞いたな! 行くぞ!」
「遅れるな! 〈1組〉を押し込み、こちらに背中を見せている〈8組〉を討つのだ」
リーナの指示にラムダやハイウドが声を上げて部隊を鼓舞して突撃していく。
要塞は落ちてしまったが、〈3組〉が合流してきてくれた。
ならば挟撃で〈1組〉〈8組〉を追い詰めることは十分可能との判断だった。
しかし連合主力は〈1組〉が抑え、〈3組〉の相手を〈8組〉がすることで分断されようとしていた。ここは連合主力が無理矢理にでも押し込み、挟撃に持ち込む場面だ。
大きく混乱はあったがリーナが無事だったことで再び結束を見せた連合が攻めに出る。
要塞が無くなった以上、ここが最後の勝負だった。
「トモヨさん護衛を! 〈竜の箱庭〉を出しますわ!」
「いつでもいいよリーナさん!」
「わ、ワシらも出来る限り守るんだぞい」
「ぼ、僕も微力を尽くします!」
要塞が落ちてしまったため〈竜の箱庭〉は一旦リーナの〈空間収納鞄〉に仕舞われていた。
これはあまりに大きいため、持ち運びが不可のアイテムだ。そのため設置する場所は考えなくてはならない。仕舞う暇すら無く奇襲でもされれば、連合の生命線とも言える〈竜の箱庭〉を、下手をすれば鹵獲されてしまうかもしれないのだ。
しかし、今の状況、リーナの位置からではとても状況が見えづらい。
さらにはシズが急な襲撃をしてから、ろくに〈竜の箱庭〉を見れていなかった。
状況がどう変わっているのか、リーナはどうしても把握しておきたかったのだ。
トモヨ、ワルドドルガ、カジマルがリーナを囲むように護衛し、〈竜の箱庭〉自体を隠す。
ちなみに〈12組〉リーダーアケミはラムダに連れて行かれたためここにはいない。アケミはあれでリーダーに選ばれるほどの実力者なのだ。
「設置します。起動! 『人間観察』! 『観測の目』!」
リーナは素早く〈竜の箱庭〉を設置し、スキルを発動『人間観察』によってフィールド全体を索敵し、マッピングされたエリアに人の姿を立体的に写し出す。
『観測の目』によって敵味方が色分けされ、拠点と要塞、そして人の残存HPが表示された。
「――ええ!?」
そこでリーナが驚愕の声を出した。
「ど、どうしましたかリーナさん――へ? 何これ」
トモヨが声に反応して思わず振り向いてしまったが、そこで見たものが信じられずに疑問を口にした。
そこに写っていたのは、中央山の東から猛スピードの馬車が北西、第一要塞へと走っている様子だった。
「え、エステルさんの〈サンダージャベリン号〉、ですわ。このタイミングで第一要塞を取りに行きますの!?」
リーナはこれがゼフィルスの本命だとすぐに看破した。
第一要塞、第二要塞、そして〈3組〉ほとんどのメンバーがここ第四要塞と第三要塞に集結している。防衛担当は僅かしか残っていなかった。
簡単に第一要塞は落ちるだろうことは想像に難くない。
ゼフィルスは第四要塞や第三要塞、そしてリーナがユニークスキルを使った直後からリーナを直接狙うなどの作戦を使ってきたが、本命は第一要塞を陥落させることだったのだ。
第一要塞が破られれば、当然行くのは〈12組〉の拠点、もしくは〈51組〉拠点だ。
今連合は四クラスをあわせることで何とか〈1組〉〈8組〉と対抗している。もしどこかのクラスごと退場になれば、連合の勝ち目は大きく遠のくだろう。否、勝ち目は皆無と言っていい。
とんでもない作戦だった。
何しろゼフィルスはこれまで〈ダンジョン馬車〉はギルドバトルでも強い的なことを何度か口に出していたのにも関わらず今まで1度も使ってこなかった。それが今、このタイミングで使われるとは、リーナの頭の中がグルグルする。
この一手、詰みに近い。
これを防ぐには援軍を第一要塞――、はおそらく間に合わないので陥落するだろう。次に狙われる場所をなんとしてでも防がなくてはならない。
だが拠点が近すぎて〈12組〉拠点を守ればおそらく〈51組〉拠点が狙われる、逆も然り。
守るべき場所が多すぎるのだ。しかも、守るためには主力を引かせなければいけない。
この、〈3組〉との挟撃のタイミングで主力を引かせることは、絶対に出来ない。
つまりはこのまま〈12組〉が落とされるのを見ているしかない、となる。
しかもそれが終われば〈51組〉拠点が狙われ、最後は〈5組〉が落とされるだろうことは確実だった。
残れば詰み。
全力で引き返せば〈3組〉を見捨てることになって連合が勝つ最後の可能性を逃し、反撃されてやっぱり詰み。
リーナは究極の一手を迫られていた。
しかもそこにダメ押しの報告がなされる。
「へ、ヘカテリーナ殿! い、今、勇者と他4人が連合部隊を強行突破し、我々の拠点の方角へ向かいました!」
「な!?」
「何ィ!?」
ラムダからもたらされたその報告に、ワルドドルガとカジマルが目が飛び出さんばかりに驚愕する。
ゼフィルスたちはその突破力とも言える力とスピードで連合部隊の手薄な場所を突き破って、そのまま少人数で拠点へと向かったというのだ。
〈竜の箱庭〉には敵対している色の人物5人が突きぬけ、2人が〈5組〉拠点へ、3人が〈51組〉拠点へ目指して進んでいる様子が写っていた。
三拠点同時攻撃だった。
しかも相手はゼフィルス。
リーナは決断するしかない。
「部隊を分けて追撃隊を掛けます! ラムダさん!」
「!!」
「ゼフィルスさんをお願いいたしますわ。最後の切り札を使います!」
「―――承知した!」
リーナは決断する。
〈51組〉に向かうゼフィルスたち3人の部隊へはラムダを送る。
〈5組〉拠点にはハイウドの部隊。
そして〈12組〉の拠点にはトモヨの部隊を送ることを。
そしてリーナはここで、アケミたちと共に〈1組〉〈8組〉を打ち破るために残る。
 




