#585 連合VS共同戦線。第四要塞をありがたく壊せ!
ゼフィルスの活躍により〈8組〉は一時的にマスの向こうに逃れ、連合と距離をとることに成功する。
殿を務めたゼフィルスたちをシエラが守り、〈8組〉は陣形を整えた。
〈1組〉〈8組〉共同戦線、通称:戦線はマスの境目で陣形を再編成。
リーナのユニークスキルが切れるのを待って再侵攻する構えだ。
「バリスタ放てー! 今度は筋肉では無いわ! ちゃんと効くはず――!?」
リャアナの指示で放たれる攻撃は〈バリスタ〉による遠距離攻撃。
3マス圏内なら威力の減退を抑えられる。
さきほど筋肉に弾かれたのは気のせいなのだ、普通は効くのだとリャアナは声を張り上げた。しかし、ズドンと要塞に突き刺さった宝剣がリャアナの声を遮った。
「リャアナ隊長! 今のでバリスタが叩き壊されました! これで残っている〈バリスタ〉が全て無くなりました!」
元々先ほどの筋肉要塞大戦で四つが破壊されており、今ので全部破壊されてしまったとのことだ。
リャアナは頬がピクピク引きつった。
「相手はヘカテリーナ殿のユニーク効果が切れるのを待つつもりだぞ! 攻め立てろ! 突撃せよ!」
続いて下の部隊にいるラムダが攻撃指示を出す。
こうしてラムダたち主力がマスを越えて仕掛けてきたが、要塞上部にいる遠距離攻撃部隊はマスの減退によって援護が出来ず、陣形を整えた〈1組〉〈8組〉戦線によって主力は思うように戦果が上げられず、結局リーナのユニーク効果が切れるまで時間を稼がれてしまう。
そうなると先ほどまで後退を余儀なくされていた主力だ。攻めるのは難しくなる。
「効果が切れたか! ――『聖光剣現・真斬』! 全員、要塞まで後退せよ!」
「おっし、今度はこっちが攻める番だぜ!」
今度は〈1組〉〈8組〉戦線のターンだ。要塞まで撤退した連合に深追いはせず、今度は陣形をしっかりと整えてから攻める。
◇ ◇ ◇
「ラナ!」
「ノエル」
「「バフを頼む」」
俺とメルトの指示で戦線メンバーにバフを掛けなおしていく。
ラナは〈1組〉に満遍なく、ノエルは〈8組〉に大量に。
回復も完了して陣形も整い、まずはタンクからマスを越えていく。
「来たぞ! 攻撃放て!」
相手から遠距離攻撃だ。教本どおりの定石だな。
「シエラ、頼むぜ」
「任せて――『守陣形四聖盾』! ――『カバーシールド』!」
シエラのスキルの声が響く。
シエラの自在盾が、防御の陣形を取り、次のスキルによって相手の攻撃を防ぎまくる。
さすがに数が多く全てを弾くことはできなかったが、実に7割近いスキル魔法がシエラによって弾かれ、防がれ、たたき落とされたのだ。
連合側が大きくどよめく。
「そ、そんな!」
「あの数を、たたき落としただと!?」
「あ、あれが上級職! 〈盾姫シエラ〉か!」
一斉攻撃をたった1人のスキルによって防がれる。とんでもないことだろう。これが【操聖の盾姫】の力だ!
「みんなしっかりして! 見て、右翼では防ぎ切れず崩れているわ! 1人退場してるのよ!」
動揺する連合に活を入れるように声が響いた。
第四要塞の部隊長の声にその全員がハッとする。
そうシエラがたたき落としたのは7割だった。残り3割は通してしまったのである。
数にして40発中28発はシエラはカット出来たが12発は他の人員の場所に叩き込まれていた。しかもシエラがカバーできる範囲外に集中しているので、集中的に攻撃にさらされた〈8組〉のタンクが崩れ、1人に到っては退場してしまう被害が出ていた。
シエラが居なかったらと思うとゾッとする被害である。
連合側もそれを見て、全てが防がれたのではないのだと理解できた様子だ。いくら強力なスキルであろうと連発はできないし、あれほどの量を防ぎきることもできないのだと思い出したのだろう。姿勢が前向きになっている。
うむ、いい指揮官だ。
「第二射、準備! 撃てー!!」
さすがは決勝まで残った強者たち、ラムダの指示にすぐに準備して第二射を放った。
先ほどの『カバーシールド』はクールタイムで使えないだろうタイミングだ。
◇ ◇ ◇
先頭を進むシエラの上で陣形を取った盾が次々と魔法やスキルを弾いていく。
「「「おおお!?」」」
その光景に思わずといった調子で戦線側からも驚愕の声が上がっていた。
戦線側から上がった声のほとんどは〈8組〉からだ。
そりゃ次々盾が動いて魔法やスキルを弾きまくってくれる光景は圧巻の一言に尽きるだろう。
初めて見る光景という者も多く、この驚愕は当然だった。
「こ、これが上級職のタンクなのですか」
その中にはラクリッテも含まれていた。
ラクリッテは今回、シエラのスキルを初めて見たらしい。ポジションを同じとするラクリッテはダンジョンではシエラとほとんど組んだことが無い。
自分のスキルも非常に強力だと思っていただけにこの自在盾のオートガードとでも言うべき性能の差に驚愕しているらしい。
「第二射来るぞ。ラクリッテ、行けるな?」
「は、はい!」
俺が名指しで呼ぶとビックリするラクリッテ。
自分が期待されているのだと十分に伝わってくるその短い言葉にすぐに身を引き締めた。
シエラが防いだ次の攻撃、これはラクリッテに受けてもらう。
「スイッチ! ラクリッテ、今!」
「ポン! 来たれ幻影の巨人――『ミラージュ大狸様』!」
あらかじめこうなることが予想されていたためラクリッテがシエラより前に出て、攻撃をその身に集める大狸を顕現させた。
「おお!?」
「なんだあれは!?」
「巨大な狸!?」
「でも一瞬で粉砕されたわ」
「いやいやいや、俺たちの攻撃が持っていかれたんだけど!?」
突如として10m規模の巨大狸が二足歩行で立ち現れ、そしてその顔面に吸い込まれるようにして遠距離攻撃の雨がぶち抜いていき、そのままあらぬ方向へと消えていく。
大狸は顕現して2秒で粉砕されて消えたが、その効果は絶大。
一斉攻撃の約6割をたった一つのスキルで乗り切ったラクリッテもまた、要塞側と戦線側からとんでもない存在として見られるのだった。
そうして次々と攻撃を乗り切った戦線が、ついに反撃に移り始める。
◇ ◇ ◇
〈1組〉〈8組〉戦線がマスを越えて要塞マスへと侵入してきた。
接触もあと僅かというところでラムダが指示を出す!
「円陣を崩すな! 乱戦になるな! 要塞からの援護があると常に考えて動け!」
ラムダの主力部隊は一塊になり、要塞の中心部で円陣を組んで防御の構えだった。
要塞上部からは何かしらの遠距離攻撃が放たれている。
自分たちは巻き込まれないよう、円陣を崩さず、防御に徹しながら要塞へ来る者を止めるのだ。
そうしてしばらく戦線側と連合側から遠距離攻撃の応酬が行なわれた後、戦線側のタンクの脇を通るようにして近接アタッカーたちが前に出た。
―――先頭は、勇者だ!
「さあ、壊せ壊せ! 俺たちのために造ってくれた要塞だ! ありがたく壊すんだ! ありがとうリーナ! ――『サンダーボルト』!」
四段階目ツリーの一撃、それは陣形を組んだラムダたちをスルーして第四要塞に張られたバリアも粉砕して直撃した。なんとか防ごうとした要塞上部の者たちもさすがに〈四ツリ〉は無理だった。
せっかく7割にまで回復した要塞のHPバーががっつり削れ、上部から迎撃していた学生たちは涙目だ。
それに引き換え要塞を攻撃した張本人は感動しているような笑顔をしている。
「くそうっ! 勇者に壊させるために建てたんじゃないんだぞい!?」
「わしたち、まさか勇者が勇者するための踏み台にされてるぞい!?」
「ははははは。みんな俺に続けーー! ――『シャインライトニング』!」
ゼフィルスの雷による範囲攻撃が再び要塞を襲わんとする。
もう完全に楽しみまくり度マックスだった。
別に要塞は勇者のために造られたものでもないし、勇者に壊してほしかったのでもないのだが、ゼフィルスは完全に自分たちのために造られたと思っているようだ。
とんだ勘違いである。
「は、反撃して! 要塞が持たないわよ!」
「やってるよ! でも勇者がむっちゃ避けるんだ!?」
夏休みでプレイヤースキルがガツンと上がったゼフィルスの動きは、今までよりさらに洗練されていた。
攻撃の種類を見極め、時には避け、時には盾で受ける。
夏休み前まではまだまだ前世のポチポチ操作の意識が強く、リアル化して自分の身体で動かなくてはいけないプレイに慣れていなかった感のあったゼフィルスだったが、しかしレベルがカンストしてからは自分の実力、プレイヤースキルを向上させることに意識を置き、1ヶ月以上を掛けて修行パートを乗り越えてきていた。
今はどんな攻撃なのか、どういう範囲を攻撃し、どんな効力があるのかを瞬時に見極め、さらにどこに行けば安全で、どう対処するのが良いのかまで判断し、動けるようになっていた。
ゼフィルスはもう、今の自分のプレイヤースキルを試したくて試したくて仕方ない状態である。手がつけられない。
降り注ぐ攻撃に対処していく。次第に勇者ががっつり狙われ、攻撃できないくらいの弾幕になってしまったが、それはそれで囮として役立っているわけなので問題は無い。
ただ、その勇者の突撃に他の戦線メンバーが付いてこられているかは別だ。
「きゃああぁぁ」
「連合の攻撃に警戒しろ! 圧力が高いぞ! 上からの攻撃に常に警戒するんだ!」
レグラムが叫ぶ。たった数撃で1人が退場してしまったのだ。
リーナのユニークスキル『全軍一斉攻撃ですわ』は切れてしまったが、まだまだ連合側は数で勝り、バフだって掛かっているのだ。油断は命取りである。
連合側も戦線側も、徐々に被害を出し始めた。
そうした中で各人員に指示を出していたリーナは難しい顔で〈竜の箱庭〉を見ていた。
目に映るのは第三要塞。
そこにいる連合メンバーがめまぐるしく慌てだしていたのだ。まるで何者かに攻撃されているかのように。
しかし、――〈竜の箱庭〉に敵影は写っていない。




