#577 戦場を移す、〈1組〉VS連合の主力!
「ば、馬鹿な、筋肉が、敗れたというのか?」
アランと残りの筋肉たちが目を見張る。
ラムダのユニークスキルは、物理攻撃(STR)でダメージ判定を行ない、相手のVITかRES、どちらか低い値を参照して対抗判定を行なう光属性範囲攻撃。しかもこの時、相手に掛かっている強化、弱化を参照しないというおまけまで付いている非常に強力なスキルだ。
ステータスを上げる『筋肉こそ最強。他はいらねぇ』やラナのバフももちろん参照されずに対抗判定がなされて、RESが低く装備も無い筋肉たちはこれに打ち抜かれ退場してしまったのだ。
立っていたのは〈5組〉リーダーのラムダのみ。
筋肉が敗れるとは、この目で見ても俄かには信じがたいと筋肉たちが目を見張る。
それを確認したラムダが、黄金の光が消失した剣を掲げ、宣言した。
「――集中攻撃! 撃破しろ!」
「「「ううおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
その宣言を聞いた連合が一気に息を吹き返したがごとく圧力が増す。
「ぐっ!?」
「これは! 回復が間に合わない!?」
魔法攻撃を受け続けていたら回復が間に合わず、削り取られてしまうだろう。
「アランさん」
「ああ、一度引くぞ!」
「む、やむを得ないか」
「俺にもっと筋肉があれば……」
セレスタンと〈マッチョーズ〉は素早く撤退の態勢に移る。
「逃がすな! 一人でも多くを討ち取るんだ!」
「そこのマッド! あんたの出番よ!」
ラムダの声が戦場に響き、リャアナの指示が飛ぶ。
そして完全に筋肉が撤退に移った時、一人の【マッドサイエンティスト】が猛威を振るった。
「シャシャシャシャ!! 逃がさんよ筋肉くん――『アブダクション・ビーム』!!」
「何っ!? 体が、浮く? うおぉ!?」
「なんだと!?」
【マッドサイエンティスト】の両手から怪しい電波がビビビと飛び、筋肉の一人に命中したのだ。瞬間、筋肉は制御を失い、宙に浮かび上がる。
否、そのまま捕獲され、【マッドサイエンティスト】にアブダクションされた。
電波がウィンウィン鳴りながら筋肉を攫っていく。
「うおぉぉぉぉ――――――っ」
「筋肉が!?」
「一人攫われたぞ! セレスタン!?」
「……もう無理でしょう。距離が離されすぎました、今から救出に向かえば我々も退場に追い込まれるやもしれません。我々だけでも撤退するのです!」
「くっ、すまん!」
「お前の筋肉は忘れん!」
セレスタンの言葉に歯を食いしばり、アランと筋肉とセレスタンは撤退し南下していく。
◇ ◇ ◇
ちなみにだが、攫われた筋肉の一人はというと。
「うおぉぉぉ! 俺は負けん! ただでは負けん! せめて散るときは筋肉をひけらかしながら散りたい!」
などと世迷い言を言いながら〈マッスルポーズ〉を取って、連合に恐怖を振りまきながら退場していったという。
◇ ◇ ◇
一方、少し時間は巻き戻り、〈1組〉本隊。
要塞に攻撃を仕掛けている筋肉を援護しつつ、要塞に遠距離攻撃を送っている最中にそれは起きた。
「『索敵』に感有り、北東から敵襲デース! こっちに来てるデース!」
「ついに来たな! ラナ、目標変更、北東方面から敵が来るぞ。宝剣準備だ!」
「あと20秒で撃てるわ!」
リーナなら要塞攻略を見越して何かしら仕掛けてくると思っていたが、予想よりだいぶ速いな。
まあ、ここは〈竜の箱庭〉圏内だ。リーナなら絶対要塞攻略を防いでくると思っていた。
だが、要塞攻略は目標の一つに過ぎない。
俺たちの目標にはリーナの部隊を吹き飛ばすことも視野に入っているんだぜ?
別部隊の援軍が要塞にも向かったのが見えた。
〈マッチョーズ〉たちにも支援回復を送りつつ、やばそうなら離脱を言い渡してあるしセレスタンなら上手くやるだろう。筋肉が暴走しなければだが。
要塞の攻略は別に防がれていい。破壊できれば最高だったが、リーナは破壊される前に手を打ってきたのだから無理に拘る必要も無し。臨機応変に対応する。
ここは相手の数を大きく削るのが最善だ!
「全員ラナが撃ったら一度下がるぞ!」
この位置は北西の要塞(第四要塞)と北東側に広い視野を置いた地点だが、その代わり両方から攻められると挟まれて危険な地帯でもある。(図J-16)
故に要塞から〈マッチョーズ〉が撤退したあと、ここから南西へと下がり、〈竜の箱庭〉の圏外へと出つつ、ラナにはたびたび遠距離攻撃を撃ってもらう。
「ゼフィルス、クールタイムが明けたわ!」
「よっし、攻撃開始だ!」
「受けてみなさい!――『大聖女の祈りは癒しの力』! ――『大聖光の四宝剣』!」
ラナのクールタイム明けの言葉にゴーサインをすると、ラナが片手をタリスマンへ、片手を相手に向けるポーズで攻撃を放った。
狙いは北東から迫る、大体20~30人の一団。
まだまだ4~5マス離れていたがラナにとっては関係ない。
空中にデカイ光の剣が四本表れ、剣先を一団に向けると、ラナの意思のままに飛んでいき、大きく慌てる一団へと突き刺さった。
何人かが盾を翳し、防御した様子だが、防御ごと吹き飛んだのが見えた。
さすがは〈四ツリ〉、威力が高いぜ。
「まだまだ行くわよ! ――『聖光の耀剣』! ――『聖光の宝樹』!」
続いては先ほどとは威力が少しだけ低い〈三ツリ〉だ。しかし、先ほどとは違い一団の連携は崩れ、指揮系統が乱れているのが確認できる。誰か指揮官が落ちたのか、それとも不在なのか、いずれにしてもいいチャンスだ。
ラナが攻撃を放つと何人かの学生が吹っ飛んだ。
ちょっと楽しかったのは内緒だ。
「よし、ラナ少し下がるぞ! 〈白の玉座〉を仕舞ってくれ」
「うん!」
撃ち終わったところで撤退だ。
〈白の玉座〉は装備中移動が出来ない。
そのため一度装備を外し、〈空間収納鞄〉に収納してから移動する。
ラナの収納はもうお手の物だな。素早い収納からの即撤退。
要塞のほうもセレスタンと〈マッチョーズ〉は撤退行動に移るようだ。
戦場を移すぞ!
「―――――!」
「――――!?」
北東では連合の一団が何か騒いでいるが、うむ、予想通り足が止まっているな。
今のうちに速やかに戦いやすい位置へと移動する。
時々連合の一団が追ってきているかを確認し、ラナのクールタイムが明けたらまた〈白の玉座〉を取り出して装備、ぶっ放す。
撤退しながらなので相手は距離的に攻撃が届かず、ほとんど一方的に攻撃を受ける立場だ。悪く思わないでくれよ。
そうこうしながら、俺たち攻撃部隊は最初に決めていた通り、〈1組〉拠点のある場所、唯一の出入り口である要所まで後退し、待ち構える構えだ。(図E-23)
その場所は北と東の視界が良く、初動で俺とエステルが守っていた場所でも有り、重要な要所だ。防衛担当も戦闘に加われる他、リーナの〈竜の箱庭〉の圏外と思われるために、迎え撃つ場所として俺はここを選んだ形だ。
しかし、そうは上手くはいかないらしい。
要塞の真南の位置(図F-19)を通る際、北側の要塞から追っ手がかかったのだ。
北東の一団は足止めに成功しているが、要塞の部隊はすでに〈マッチョーズ〉とセレスタンが撤退し、フリーになっていたための追っ手だな。
本来であれば追っ手は大歓迎だ。
追っ手なんてものは各個撃破の格好のカモだ。
引き寄せて狩るなんて〈ダン活〉では当たり前なのである。
ただそれは、狩れる者ならば、と頭に付くんだけどな。
「ゼフィルス! 奴らは少数だ、我ら〈天下一大星〉に任せてくれ!」
要塞から来る部隊はたったの四人。
だからだろう、サターンからイキったセリフが出た。
うむ、今まで〈マッチョーズ〉ばかりが活躍しすぎでそわそわしていたからな。
自分も活躍の機会を、ということだろう。
〈天下一大星〉のメンバーが全員親指で自分を指しているぞ。
しかし、先頭を走る白銀全身鎧の男子はかなり強そうだが……、まあ足止めくらいならサターンたちでもできるだろう。
「よし、追っ手狩り、任せたぞサターン!」
「応! 大船に乗ったつもりで我らに任せろ!」