#566 〈9組〉〈10組〉戦決着。リーダーたちの結末。
キールを逃がすためジェイが殿を努めて1分が経過した。
〈10組〉リーダージェイは、HPがすでに2割を切り、ギリギリのところではあるが〈8組〉の主力、メルト、ノエル、ラクリッテを抑え、キールを逃がすことに成功していた。
「暴走しろ! 凌駕しろ! 超能力の巨手――『アグア・ララ・クレアハンド』!」
「! 吹き飛んじゃえ『マイクオンインパクト』♪」
「はっ――『ダークネスドレイン』!」
「――ポン! 燃え朽ちて、呪いの幻炎――『カースフレイム』!」
巨大な二つの超能力で出来た手を縦横無尽に操り破壊の嵐を吹き荒れさせるジェイ。
非常に強力なその魔法に対し、ノエルは衝撃を与える攻撃スキルで迎え撃ち片手を消滅させることに成功。
もう片方の手をメルトが闇属性魔法で屠り、デバフタンクのラクリッテが状態異常を付与する黒い炎を放ちキメようとする。
「踏み潰せ超能力の巨足――『アグア・ララ・クレアレッグ』!」
しかし、巨大な足が黒の炎を踏み潰し、攻撃を防いだ。
ラクリッテの『カースフレイム』が消えると、そのまま足も操りラクリッテを踏み潰そうとする。
「そのままやつらを踏み潰すのだ! アグアの足よ!!」
「身体の一部だけででしゃばるな! ――『フリズドスロウ』!」
そこへ割り込んだメルトが氷属性魔法を発動、そのまま巨足を破壊した。
「――はっ、こりゃ、予想以上だぜ、……ぜぇ」
暴走状態で生み出されたはずの奥の手が粉砕されたことで、肩で息をするジェイが悪態をついた。
メルトたちの能力はノエルのユニークスキルによってむちゃくちゃパワーアップしている。普通なら破壊するのに数撃必要な奥の手が簡単に破壊されてしまうのだ。
わずか1分でジェイがボロボロになった理由である。
「ふぅ、それはこっちのセリフだ。まさかたった一人でここまで粘るとはな……」
返したのはメルトだった。その言葉には少なくない称賛が混じっていた。
メルト、ノエル、ラクリッテ。
〈8組〉が誇る最強戦力と言っても過言ではない三人を相手にジェイはよく奮闘していた。
それも【超能力者】のユニークスキル『暴走超能力』のおかげだった。
――『暴走超能力』。
発動中は常にMPが減っていき、底を突くまで攻撃力と魔法の威力が大幅に上昇する強大なバフが掛かるユニークスキルだ。ちなみに暴走と書いてはあるが、意識が無くなったりはしない。
さらにこのユニークスキルを発動中のみ使用できる『アグア・ララ』系統の魔法が強力で、常にジェイの攻撃に対し、メルトたちは二人掛りでの対応を余儀なくされていた。
あの巨手だって二つ出されたものに対し、一つずつノエルとメルトで対応している。
「称賛しよう。だが、ここで終わりだ、ジェイ」
メルトが最後だ、とでも言うように杖を向けながら宣言した。
二人掛りの対応が必要とはいえメルト側にいるのは三人。徐々にジェイは削られていき、もうHPもMPもほとんど残っていない。
だが、闘志は失っていない瞳でメルトを見つめ返す。
「はっ、〈10組〉のリーダーである俺が簡単にやられるかよ! ――『ストーンヘッジサークル』!」
ジェイにとっておそらく最後の魔法。
『暴走超能力』により強力な力場のようなものが発生。周囲から浮いた石、岩がさらに増えていき、まるで空中に島が出来ていくかのように巨岩が展開していく。普段はもう少し細かな石しか持ち上げられないが、ユニークスキルの力によって岩を持ち上げ、空が隠れるほど展開させていた。
岩の数が多く、とても単体攻撃では防げそうにない規模だ。MPはもはや尽きる寸前だったが、最後は大技によってメルトを狙い、仕留めに掛かるジェイ。
「うおぉぉぉ! 決着をつけてやる! メルトーー!」
「いいだろう、俺のユニークと貴様のユニーク、どちらが優れているか思い知らせてやろう! 粉砕せよ、ユニークスキル――『アポカリプス』!」
ズドドドドンッ!!
――光の衝撃が走った。
メルトの杖から放たれた『アポカリプス』。メルト最強の攻撃魔法が空中の岩を粉砕しながら吹き飛ばしたのだ。
「ぐおおぉぉぉ!!」
猛烈な攻撃によって巻き込まれ、吹き飛ばされたジェイが叫びながら転がっていった。
「すごい……」
ラクリッテがそれを見て静かに呟く。
空中に浮かぶ島のごとく展開した巨岩を粉砕しつくし、メルトは自分に飛んでくる岩の全てを打ち落としていた。あまりに強力で、衝撃的で、圧倒的な光景がそこにはあった。
「ユニークスキルは俺の勝ちだ。ジェイ」
杖を向けてメルトが勝利宣言する。
衝撃と土煙が晴れたその場所には、ジェイの姿は無かった。
◇ ◇ ◇
一方、ジェイに助けられ仲間に肩を貸してもらい撤退中のキールは、ヒーラーに〈恐怖〉の状態異常を取り除いてもらい、なんとか一息ついていた。
「ぐ、まさか、タンクであれほどの強さを誇るなんて」
そうして思い出すのはあの両手盾の少女、一見オドオドしていて弱く見えるのに、ぶつかってみればとんでもなく強かった。
1対1ならばあの少女、ラクリッテに敗北していたかも知れないとキールは自分の不甲斐なさに悔しげに顔を歪ませる。
しかも、ジェイが殿に残ってしまった。相手はラクリッテを含む〈8組〉の代表的なメンバー三人だ。特にジェイのユニークは大きなデメリットと引き換えに強大な力を手にするタイプで、その能力は呪いにも近い。
あの三人を相手にして、無事で帰ってこれるのか、とても心配だった。
もしジェイが退場することがあれば、これからの作戦が根底から崩されかねない。〈10組〉や〈3組〉との仲にも亀裂ができるだろう。
しかし、それをふまえてもあそこでジェイが殿を務めたのは最善だった。
あの三人を止められるのは、LV67を誇るジェイしかいなかった。
キールが討たれれば、〈3組〉との仲が壊滅的になる、すなわち〈1組〉や〈8組〉に対抗する手段がなくなるに等しい。
今後の〈9組〉は非常に厳しい立場になるだろう。それでも上位にランクインするために自分がやられたときの作戦なども練っているのがキールなのだが。
しかし、自分が残っているのだからここから再起を果たせると、キールは顔を上げる。
――その時、突然横を走っていたヒーラーが退場した。
「な、に?」
「待ってたぞ、〈9組〉リーダー、キール」
振り返る先にはキラキラと光るエフェクト。貴族の貴公子が着るような装いの装備。そして盾無しの片手長剣。ホワイト寄りのブロンド髪に非常に整った顔立ち。
見間違えるはずもない、先ほど自分を斬って貴重な食いしばり系スキルを使わせた張本人、〈8組〉のレグラムがそこに居た。
「ふ、伏兵!」
キールに肩を貸していた男子学生が驚愕に目を見開いてそう言ったとき、レグラムはすでにすぐ近くまで迫っていた。
「遅い、『雷鳴剣』!」
「ぐああぁ!?」
「かはっ!」
〈雷属性〉の「ピシャァンッ!」と雷音がする光る剣が振るわれ、肩を貸した男子ごと、キールをレグラムが斬っていた。
キールに肩を貸していたせいで動けなかった男子はその一撃をモロに食らい、ダウンしてしまう。
キールも、まだラクリッテから受けた『ポンコツ』の影響で全ステータスが下がっていた。そのため今の一撃だけでせっかく回復したHPが半分以上のダメージを負って、さらにはダウンしていた。
レグラムは共にいた男子をそのまま放置し、キールへと接近する。
「ぐ、なぜ、どうやってここに」
動きが取れず、地面に突っ伏した状態でキールは問う。
非常に抽象的だが、それはなんでレグラムがここにいるのかを問うものだった。
「知れたこと、キールにとどめを刺すためだ。俺の戦いはまだ終わってはいない」
そこでキールは思いだす。
レグラムは自分を斬った後、そのまま東へ消えていったと。
東は自分たちの拠点のある方向、つまりレグラムは、そこに潜んでいたのだ。キールが撤退するのを見越して。とどめを刺すために。
自分たちの拠点のある東側は通るならこの要所を通らなければならず、大部隊が通ればすぐに分かる。東側は〈9組〉のテリトリーのためキールたちは索敵系スキルを使っていなかった。それがあだになったのだろう。レグラムの潜伏と接近に気がつかなかったのだ。
レグラムは待ち伏せから、キールたち三人が撤退しているのを確認。疾走からの一撃を放つ『電光石火』で近づき一撃、そして『刹那雷閃』で一閃し、まず厄介なヒーラーを屠ったのだった。
レグラムがキラキラしたエフェクトを放ちながらキールにとどめを放つべく剣を振り下ろした。
「さらばだ、キール。『バニッシュ』だ!」
「プランGだ――」
誰に残そうとしたのか、キールは最後にそう叫び、そしてレグラムに斬られて退場していった。
レグラムはそれを見届けると、もう1人の男子も退場させ、辺りに敵が潜んでいないか確認すると、メルトたちの居る場所に戻っていったのだった。