#547 祝勝会! インタビューで調査先輩初登場!
「みんな、ジョッキは持ったな? 準決勝進出おめでとう!! みんなよく頑張った! まずは勝利を祝おう! 乾杯だーー!!」
「「「かんぱーい!!」」」
〈戦闘課1年1組〉の教室で黒板の前に立ち、俺は乾杯の音頭を取る。
ジョッキを高らかに掲げて乾杯を告げると、教室内にいるクラスメイトたちから同じく「かんぱーい」と声が響き渡った。
ちなみに〈ダン活〉では乾杯するときはジョッキが主流だ。中は普通のジュースな。
学生は酒を飲めません。
グイッと飲む。
く~、美味い!! 勝利の味だ~。
現在この教室では、祝勝会が開かれていた。
まだ初戦を勝っただけなのに? と思うかもしれないが、勝利後は打ち上げ!
これは譲れない。
毎回勝つたびに打ち上げをするのだ。異論は認めない。俺がリーダーだ!
というのは半分が冗談で、実は1位クラスへの賞品の中には結構なジュースやお菓子も含まれていたからだ。これ、絶対打ち上げしろってことだよな。
学園も良く分かっているぜ。
実際はクラス対抗戦の時期は市場からお菓子やジュースが消えるので、市場を混乱させないようにしているという話だけどな。そりゃ2万人が同時期に祝勝会をしたら色々消えるだろう。買えなかったクラスは無念だろうからな。その辺の配慮で賞品にお菓子やジュースが含まれるようになったらしいと後でシエラから聞いた。
この打ち上げは料理の無い簡単なものだ。あるのはジュースとお菓子。まあ量はてんこ盛りだが。
みんな思い思いに手を伸ばしている。あ、あのチョコレートフォンデュ、一度食べてみたかったんだよな。俺も後で食べよう。今は女子が順番待ちしていて近づけそうにない。さて、ではどうするかな。
そんなことを考えていると次々とクラスメイトたちが話しかけてきた。
俺も楽しみながら受け答えする。
「ラナも活躍したらしいな。47人規模の大戦力に拠点を攻められたって聞いたときはビックリしたぞ」
「ふふん、私たちの敵じゃなかったわ! 拠点も一点のダメージもなかったんだからね!」
「みんな素晴らしい活躍だったな。1週間みっちり練習した甲斐があったぜ。これで俺たちも憂い無く攻勢に出られる」
「あ、ねぇゼフィルス、私も少しは攻めに出たいわ!」
「いや聞いたぞ! 〈58組〉の拠点に止めをさしたのラナだって! ガッツリ攻勢に出てんじゃん!」
まったく。ラナには困ったものだ。防衛は非常に大事だというのに。
後ろに控えているエステルも、うっとりラナを見ていないで助言くらいしてほしいのだが。いや、攻撃担当のエステルからは我慢しろなんて言えないか。
そんな感じで、クラスメイトたちと話しては褒め、何か問題点や改善点などを聞いて回った。
「ゼフィルスよ……」
「おう。サターン、お疲れ様だ」
しかし、1人だけ落ち込むものがいた。〈1組〉の中でも数少ない退場者の1人、サターンだ。
俺もサターンとはそれなりの付き合いだ。この感じは……うむ、プライドが根元からポッキリ逝っているときのサターンだな。
とりあえず話だけは聞いておこう。
「我の敗因はわかっている。調子に乗って前に出たのがいけなかったのだ」
「よく分かってるな」
まあ、誰が見ても分かることだ。甘やかすことはすまい。俺は肯定する。
何しろ【大拳闘士】にやられてたからな。
【大拳闘士】の武器はグローブ。つまり攻撃範囲が一番狭い超近距離戦闘型だ。そんな相手の手の届く距離に出たサターンが悪い。
「ぐっ、いや、うむ」
正直な俺の答えに、サターンは何度か葛藤し、そして頷く。素直なサターンだった。
「これで我は後が無くなった。このままではまずい」
「そうだな。後が無いな」
「今のままではダメなのだ。すでに我はジーロン、トマ、ヘルクからも引き離されている。このままでは我だけクラス落ちだ。そんなこと、我慢ならんのだ」
まあそうだろうな。今のままのサターンでは彼らに追いつくことは出来ないだろう。だって一緒に行動しているし。
そして、こうして俺に話しかけたからには何か頼みでもあるのだろうと察する。
「そこで頼むゼフィルス。切り札的なものは何かないだろうか! クラスで活躍できて、ピンチの状況でも一発で逆転できるようなすごい切り札は!?」
なんかずいぶん贅沢なこと言ってきた!
「サターン。そんな都合のいいものあるわけが――」
そこまで言って俺の言葉が止まる。
いや、無いことも無いか?
いやしかし、さすがにあれはまずいか?
まあ、選ぶのはサターンだし、とりあえず提案だけしてあげるか。
「そうだな、いくつか心当たりがあるぞ」
「本当かゼフィルス!」
「でも希望に沿う物じゃないかもしれないぞ? 効力が高いだけにデメリットも高いし」
デメリットが無くて強いものなんてあったら俺たちが使ってる。
しかし、逆に言えば能力は強いけどデメリットが強すぎて使えないものならあるのだ。
「構わん。言っただろう、我にはもう後が無いのだ。どれだけデメリットが高くても使えるものなら文句は無い!」
まるで悪魔にでも魂を売りそうな決意でサターンは言う。
俺は悪魔では無いので親身になって聞いてあげるのだ。
それなら後で用意しておこう。マリー先輩にも買い取り拒否されたし、格安で売ってあげようと思う。まあ、提案しておいてなんだが、あれらを使うとか正気を疑うし、おそらくサターンも手を出さないだろう。多分。
サターンとの話し合いが終わると今度はシエラとルル、シェリアが近づいてきた。
「ゼフィルス、話があるのだけど」
「お、どうしたんだ?」
「ルル、インタビューされるのです!」
「ん??」
「ルルがインタビューを受けることになったのです」
シエラに聞くとルルが元気よく右手を挙げて言い、それにハテナマークを浮かべるとシェリアが補足してくれた。それでも意味は良く分からない。
こういうときに頼りになるのはシエラだ。俺はサッとシエラの方を向く。
「実はインタビューの依頼が来ているのよ。受ける? 校内新聞や学園ニュースに載るわ。対象はゼフィルスと私、ラナ殿下、カルア、エステル、そしてルルね」
「ほ~」
インタビュー!
まさかそんなものがあるとは!
これがリアル〈ダン活〉なのか! ゲーム時代はそんなのなかったぞ!
もちろん俺は頷いた。こんな面白そうなことを逃す俺ではない。
「もちろん受けるぞ!」
「分かったわ。先方にそう伝えておくわね。時間は多分、すぐに呼ばれると思うわ」
「マジか。オーケー了解した」
まさかすぐにとは驚きだ。いや校内新聞やニュースに載るってことだから即日は当たり前なのか。楽しみだ。
その後、1時間くらい打ち上げを楽しんだところで俺たちが呼ばれたため打ち上げは終了という流れになる。
少し物足りなさもあるが、まだ準決勝、そして決勝と打ち上げの機会はあるのだ。
準決勝戦は木曜日、クラス対抗戦4日目だ。楽しみである。
俺たちはそのまま〈戦闘課1年生〉の校舎にある会議室の一つでインタビューを受けることになった。結局6人全員参加のようだ。
そこまでの道中、部屋に近づくほど前を歩くルルがきゃっきゃと楽しそうにする。
「なんだか緊張するのです!」
「そう言われてみると俺も緊張してきた!」
「嘘おっしゃい。楽しそうと顔に書いてあるわ」
シエラに見抜かれた。
でもドキドキするのは本当だぞ。
インタビューとか、初めてのイベントだ!
会議室に着くと扉をシエラがノックする。
「〈戦闘課1年1組〉です」
「どうぞ入って~」
とても明るい印象の女性の声が返って来た。
「失礼します」
中に入ると3人の学生が目に入った。
男子が1人、女子が2人。
その内、姿勢がよくプロポーション抜群で、身長も高くパープル系の長い髪をした女子が前に出てきた。襟に赤の刺繍が入った制服を着ているので三年生の先輩だろう。
「インタビューを受けてくれて嬉しいわ。今日はよろしくね」
そう言ってシエラに握手を求める先輩、しかし俺はそれよりも彼女の上に浮いている物の方が気になった。
浮いているのは黒い球体、掌に乗るような小さいサイズ。それが少なくとも9個。
俺は、これがカメラだと知っている。
「――〈メビウスの輪〉か!」
俺の口から漏れた言葉にシエラと握手中の先輩の目が光った気がした。
「さすが勇者君ね、これを一目見ただけで名称を言い当てるなんて、すごいわね。これ、私しか持っていないし、名称を誰かに話したことも無いのよ?」
そう言う先輩の視線と球体カメラ全部がこっちへ向いたのを感じた。
俺は瞬時にかっこいい勇者顔をキメる。キリッ。
――〈メビウスの輪〉。
上級ダンジョンのアイテムで〈金箱〉産。
とある職業専用装備で、ユニークスキルと組み合わせることでシエラの四つの小盾のように浮遊し、使用者の意思に従って自由自在に動く強力な激レア装備アイテムだ。
ゲーム〈ダン活〉時代、上級ダンジョンを丸裸にする上で必要不可欠とまで言われたアイテムが目の前にあった!
ということは先輩の職業はあれってことになるな。
そして、俺の予想は正解だった、先輩が自己紹介する。
「自己紹介するわね。私は〈調査課3年1組〉、校内ニュース〈学園の鳥〉所属、名前はユミキ、職業は――【フリーダムメビウス】よ」
――【フリーダムメビウス】。
専用装備〈メビウスの輪〉を操ることのできる上級職、高の下に位置する、索敵系の最強職だ。