#543 〈24組〉壊滅。逃げ遅れた代償は高い。
〈15組〉と〈58組〉の主力が壊滅した。
会場は凄まじく盛り上がり、〈1組〉防衛担当メンバーを大きく褒め称えていた頃。
南側での攻防にも勝負がつこうとしていた。
「なんで、ありえない。こんなことはありえない!! ありえちゃいけないんだ!! ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!」
癇癪を起こし大声で叫ぶのは〈24組〉リーダー、スタークスだった。
その嘆きは誰にも影響を及ぼすことなく空気に消える。
先程まで余裕はなく、ただただ今の現状に嘆くだけ。
それもそうだろう。
何しろ〈2組〉を撃破するために出撃した〈24組〉の精鋭15名はほとんどやられてしまい、今やリーダースタークスと大男ゴウだけになっていたのだから。
目の前にいる勇者とその仲間、あとお供のモブたちによって。
「ふふ、弱いよ。君たち」
モブが何か呟いた。
「くっ、〈天下一大星〉、最近落ちぶれたと聞いていたが、腐っても〈1組〉か!」
「腐ってねぇ!」
大男ゴウの言い返しに大斧を構えたモブが叫び返す。
〈天下一大星〉、一年生三強ギルドの一つとか言われて少し調子に乗っているギルドの名だ。
スタークスにとって取るに足らない相手のはずだった。
しかし、今は自分こそが取るに足らない存在に追い込まれていた。
なぜこうなったのか。
――スタークスはここまでの経緯を思い出す。
◇ ◇ ◇
始まりは〈2組〉による、思い上がりも甚だしい侵攻。
防御こそがこの〈拠点落とし〉攻略の鍵だと見抜き、優秀な頭脳の持ち主だと自負していたスタークスは、この侵攻で〈2組〉に格の違いというものを思い知らしめた。
〈24組〉は〈45組〉と手を組み、愚かにも攻めてきた〈2組〉を蹴散らして14人もの脱落者を出させた。
やはり自分の考えに間違いは無いと確信したスタークスではあったが、ここで少し誤算が起こる。〈45組〉が〈2組〉を追撃し、討ち取ろうとしたのだ。
もしこれが成功した場合〈45組〉が300点という巨大な点数を確保することになる。
こいつらは何をしようとしているのだ? とスタークスは思った。
自分の完璧な作戦のおかげで〈2組〉を潰走に追いやることができたのに、自分たちでは何もできないくせに、自分の成果をなに横から掠め取ろうとしているんだ、と。
このブロックで勝ち抜けるのは二クラス。つまりは〈24組〉と〈45組〉。
最強、優勝候補と名高い〈1組〉〈2組〉を下し、我々が勝ち抜けば、さぞ気持ちのいいことだろうと、スタークスは思っていた。
なお、ここには〈24組〉が1位で勝ち抜く、という意味が暗に含まれている。
〈45組〉が〈2組〉の300点をとった場合。もしかしたら〈45組〉が1位で抜けるかもしれない。
スタークスにとって、それはとても許容できないことであった。
スタークスの戦術は防衛重視。
守りきり、そして相手が弱体化したところで悠々と攻め込む。しかし、未だ敵は多く、攻めに出るにはまだまだ時期尚早だと考えていた。今は防御を固めるときなのだ、と。
しかし、〈45組〉は部下でも配下でもなくあくまで同盟。
弱った〈2組〉を前にして、このチャンスを棒に振ることはしなかった。
スタークスの命令なんて関係ないと、〈2組〉に突撃していったのである。
これに、スタークスは癇癪を起こした。
大男ゴウはやれやれと頭を痛めながら進言し、宥め抑え、しかしスタークスの癇癪は収まらず。
結局〈24組〉も〈2組〉への追撃を行なうことになったのだった。
そしてスタークスは本来の【参謀】としての能力をいかんなく発揮して〈45組〉より先に〈2組〉の拠点を落とすことに成功したのである。
北の防衛ラインでどこかのクラスが〈2組〉と争っていたのは僥倖だった。
拠点にまともな防衛戦力もおらず、犠牲は最小限で攻め落とすことに成功したのである。しかも優勝候補の〈2組〉を、だ。
さらに言えばこのブロックで最初の拠点落としを成功させたクラスとして〈24組〉の、延いてはリーダーのスタークスの名も上がるだろう。
これにはスタークスも高笑いだ。さっきまでの癇癪とは打って変わった言動に大男ゴウは疲れた様子だったが、ご機嫌なスタークスは気にならなかった。
しかし、快進撃はそこまでだった。
――〈1組〉の攻撃部隊が現れたからだ。
〈1組〉との遭遇。
想定していなかったわけではなかった。
むしろ一番警戒していたと言ってもよかった。
しかし、間が……、タイミングがあまりにも悪かった。
あの〈2組〉に勝利したという優越感の絶頂期に出会ってしまったのがいけなかった。
本来ならすぐにでも軍を引き、拠点まで戻って防衛重視で〈1組〉を迎撃する。
そのはずだった。
現に〈45組〉は〈1組〉と遭遇するなり、きびすを返し、なりふり構わない勢いでダッシュで撤退している。
しかし、〈2組〉に勝ったという優越感がその場に〈24組〉を留まらせてしまった。
優越感から、ひょっとしたら〈1組〉にも勝てるんじゃないかと思ってしまったのだ。
これは〈45組〉が拠点を落とせず、悔しい思いをしたのも起因している。
〈45組〉はただ大きい犠牲を出しただけで拠点が落とせなかった。犠牲とリターンがかみ合っていなかった。これ以上被害を出すもんかと、必死に撤退したのである。
つまり、端的に言えば〈24組〉は逃げ遅れたのだ。
目の前で〈2組〉の点を掻っ攫われてしまい、ピキッときている〈1組〉から。
これが致命的だった。
「だらっしゃぁぁぁ! 『サンダーボルト』! こんにゃろうめ! ――『ライトニングバニッシュ』!」
「お覚悟を。――『アクセルドライブ』! 必殺の――『戦槍乱舞』!」
「おのれ盗人め、容赦しないデース!! ――『暗闇の術』!」
「ふ、ふふふ。あなたたちは僕たちを怒らせてしまいました。ぜ、ゼフィルスになんと言い訳したらいいか……。全部お前たちのせいですよ! ――『滅空斬』!」
「やばいやばいやばいやばい! ゼフィルスが怒ったら、俺たち見捨てられる!? せめて首を取らなければ俺たちが危ないんだ! その首を寄越せぇぇぇぇ!!――『アンガーアックス』!」
「俺様を忘れてもらっても困らないぞ――『オーラオブソード』!」
その戦闘は、蹂躙と言ってもよかった。
ほぼ一方的な展開だった。
リーダースタークスは最初こそ優雅な姿勢で指示を出していたが、勇者と騎士風の女子によって6人がほとんど一瞬で撥ねられ、吹っ飛ばされ、雷に呑み込まれ、宙を舞い退場していってからは余裕が消えた。
〈1組〉は全員が〈24組〉より強かった。というよりむちゃくちゃだった。
勇者なんか『近づくな危険』レベルで大暴れだ、誰にも止めることはできない。
次々と勇者の攻撃によって退場していく〈24組〉に観客席は大盛り上がりだ。
逆に〈24組〉は絶望感がすごかった。
さらに騎士風の女子も頭抜けていた。
スタークスでも見たことの無い二輪の装備で、誰も追いつけないほどの速度で走り回るのだ、遠距離攻撃はまず当たらない。さらに攻撃力はバカみたいに高く、近づけばその槍に吹っ飛ばされて宙を舞う。貫かれたり轢かれたりすれば退場だ。
すぐに撤退を叫ぶスタークスだったが、その判断は遅すぎた。勇者を恐れた〈天下一大星〉3人も普段以上の実力を出し、勇者の攻撃も合わさってさらに追加で7人が退場してしまう。
〈1組〉と〈24組〉という構図は、圧倒的なまでに〈1組〉の勝利だった。
そして冒頭へと戻る。
なんとかここまでスタークスを守り切ったゴウだったが、もう自分たちしか生き残りはおらず、ここから2人で生還することは不可能だと諦めていた。
「スタークス。ここは俺がなんとしてでも抑える。だから、振り返らずに全力で離脱することだけ考えろ!」
「くっ、くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「拠点にはお前が必要だ! 行け! ――うおぉぉぉぉ『千手闘拳』!!」
「ゴウ! ――うがぁぁぁぁぁぁ!!」
残り2人。
その内の1人は勇者へと挑み、もう1人は背を向け、自分の拠点へと必死に走り出す。
そうして1分後。
その場には勇者率いる〈1組〉しか残っていなかった。
後書き失礼します。
〈拠点落とし〉の説明で漏れがありました!
〈空間収納鞄〉について、
第336話で「ギルドバトル〈城取り〉では〈空間収納鞄〉の持ち込みは禁止」となっておりますが、
〈拠点落とし〉ではその性質上〈空間収納鞄〉の持ち込みは数量限定でありとなっています。
第520話の〈拠点落とし〉ルール説明に、
>〈召喚盤〉など、アイテム持ち込みのルールがあるために〈拠点落とし〉では〈城取り〉とは違い、〈空間収納鞄(容量:小)〉までの持ち込みが認められている。
今回はクラス対抗戦のため、1クラス10個まで持ち込むことができる。
という一文を追記しました。