#538 〈1組〉防衛戦。2方面からの同時攻撃。
ここは〈1組〉の南防衛ライン。そこへ〈58組〉が突入しようとしていた。
「行くぞ! 回りこめ! ここからは死地と思え! タンク隊、前へ出ろ!」
「「「おおおおっ!!」」」
大盾を構えたタンクたちが道を進み、その後ろから〈58組〉が駆け足で防衛ラインに侵入した。すると、
「来た来た。来たよー。団体さーん!」
「うわー、すごい数ー」
「向こうも本気みたいだね。いくよサチ、エミ」
「「「『魔装武装』!」」」
南の防衛ラインを最初に防ぐのは4人。仲良し3人娘のサチ、エミ、ユウカだ。
そして、
「任せるのです! ヒーローが全て倒してあげるのです。とう!」
〈エデン〉の【ロリータヒーロー】、ルルだった。
サチ、エミ、ユウカが戦闘態勢を執っている間に、ルルがぴょんと跳んで単騎で〈58組〉の前に飛び出し、そのまま片手剣を上げるかっこいいポーズを取る。
「ヒーローのルル、ここに見参なのです! 敵はみんな懲らしめてあげるのです!」
「な、なんだこの小っこい子は!?」
「か、かわいいー」
「だ、騙されるなみんな! この子だって〈1組〉の生徒――」
「ここは通さないのです! みんな遅くなっちゃえなのです、『キュートアイ』!」
ルルの可愛さに一瞬進行が遅くなりかける〈58組〉だったが、ルルが物理的に遅くした。
「うわ、身体が!?」
「デバフだ! 誰か回復!」
「遅いのです! ゼフィルスお兄様なら対策万全で攻めて来るのですよ! 『ジャスティスヒーローソード』!」
「ぐわぁぁぁ!?」
「なっ!? この子、この見た目で強いぞ!?」
「反撃するわ! 相手は1人よ!? 『バスターソード』!」
「遠距離攻撃は使うなよ! 同士討ちになるぞ!」
「お、おい邪魔だ。剣が振れないだろ!?」
「とう『ローリングソード』! でんぐり回避なのです!」
「ぐあぁぁぁ!?」
「ち、小さすぎて攻撃当たらないんですけど!?」
躊躇なく集団へ突っ込んできたルルに〈58組〉全体が度肝を抜かれて大混乱した。
これはまずいとアトルトアがすぐに指示を出していく!
「構うな! ここに数人を残して前進するんだ!」
「あ、指示してる人発見なのです! 『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』!」
「あびゃばらぁぁぁ!?」
「「リーダー!?」」
そしてアトルトアは素早く転がってきたルルにぶっ飛ばされた。鋭い突きが腹部に激突し、放物線を描いて飛んでいく。
「指示している人は偉い人なので真っ先に倒せって、ゼフィルスお兄様とシェリアお姉ちゃんから教わったのです!」
「このロリっ子凶悪なんですけど!?」
「お、おいどうする!?」
「私はリーダーの介抱に行ってくる! まだやられてはいなかったわ!」
「俺たちは前進だ! ロリっ子は無視しろ、進め進め!」
「次の指示している人はあなたなのです! 『ヒーロースペシャルインパクト』!」
「あびゅるばーー!?」
また1人ルルによってドカンされて吹っ飛ぶ男子。
「こんの! 『オーラ・ソード』!」
「あうち、なのです!」
「あ、当たったわ!」
「って回復した!? スキル!? いえ、使ってなかったのにどうして!?」
「反撃なのです! ――『セイクリッドエクスプロード』!」
「「ああーーー!?」」
ルルへの反撃に成功したと思った女子だったが、すぐにルルのHPは回復してしまう。
驚愕している間にさらにルルの剣が振られ小範囲攻撃スキルが炸裂、2人の女子が吹っ飛んだ。
それを遠目で見て感心する仲良し3人娘。
「うわぁ。ルルちゃんつっよ!」
「少しずつダメージ貰っているみたいだけどね。でもラナ様の遠距離回復と継続回復を貰ってるからものともしてないし、ノックバックもしないし。あれってどうやって止めるの?」
「味方だと心強いな。――む、ルルちゃんを無視して飛び込んでこようとするやからがいるな。陣形は完全に崩壊しているが」
ルルが全力でかき乱したため防衛ラインを進んでくる敵は完全に崩れていた。
〈58組〉がバラバラにルルへ対応したり、攻撃したり、あるいは無視したりして数人が拠点へ向かおうとする。
しかし、そこへ待ち構えるのはサチ、エミ、ユウカ。
「ルルちゃんの残り物は私たちの担当だもんね」
「まさかこんなにお客さんが来るとは思わなかったけどね」
「さすがに全部抑えるのは無理だから、各個撃破、できるところだけやるよ。後は撤退しつつ後ろの5人に任せる。2人とも行くよ、気をつけてね」
「「うん!」」
サチ、エミ、ユウカの職業は【魔装】系。3人が揃ったとき【魔装】はその真価を発揮する。
さらに彼女たちのHPバーには、大量のバフと継続回復を示すアイコンが光っていた。
◇ ◇ ◇
〈1組〉拠点の南防衛ラインでルルたちが健闘している頃、東防衛ラインでも攻めてきた〈15組〉は苦戦を強いられていた。
「『サイレントスナイプ』!」
「ぐあぁ!?」
「くそ、また狙撃だ!」
「どこから!?」
「山の方からだ!」
「『グレネード』!」
「うぎゃぁぁ!!」
「今度は爆発が! よ、横からだと!?」
次々寄せられてくる苦々しい報告に、〈15組〉リーダーナイヴスは、奥歯を割りそうな勢いで噛み潰していた。
「ぐぐぐ、おのれこしゃくな! 奴らはこの付近にガンナーを置いているぞ! 対応するな! 構わず走り抜けるのだ! 数は我らが有利である! 拠点さえ落とせばいいのだ!」
東防衛ラインは北側の崖山と南側の山脈に挟まれた渓谷状の細いルートだ。
故に集団で山を登るのは不可能で、侵入口は1つしかなく、何かしら罠を仕掛けるにはうってつけの地形をしていた。
そして北側の崖山にはスナイパーライフルを構えたミューが、南側の山脈にはシズがアサルトライフルの見た目をした銃で狙撃をしていた。
両側から狙撃で一方的に狙われた〈15組〉はたまったものではない。
片方を防御しようものならもう片方から狙撃されるのだ。反撃しようにも、ミューもシズも斥候系。遠距離から攻撃されれば居場所はほとんど分からない。
しかも〈15組〉にあわせて移動までしている。
闇雲に反撃しようものならその隙に撃たれる。
いくら隣接マスからの狙撃でマス越えによる威力減退を受けていても、こうも一方的に攻撃されては士気に関わった。
しかし、威力自体はさほどでも無いため、リーダーナイヴスは反撃を捨て、この防衛ラインの強行突破だけに絞り込んだ。
「抜けられる……かも。その前に倒せるだけ倒す『ヘッドショット』!」
「あぁぁぁ!? 嘘だろぉぉ――――」
「な!? 1人やられたぞ!? 頭をやられた!」
「なるべく盾を上に翳せ! アタッカーは影に入れ! スキルを使って切り抜けろ!」
ミューの狙撃が1人を退場に追い込んだ。動揺する〈15組〉。初の退場者が出たのだ。それも当然だろう。
しかし、さすがは高位職クラス、すぐに対応を改め、防御を固め、素早く前進することで被害を抑えに掛かった。
こうしてミューの狙撃を切り抜けるかに思われた〈15組〉だったが、さすがにそこまで甘くはない。
山脈側にいるシズの目が怪しく光る。
「これでチェックです。『弾幕』!」
「何!? ぐっ、右へ行け! あそこだ!」
『弾幕』は散弾の連射の銃撃スキルだ。防御スキルでもあるため威力はさほど大きくは無いが、視覚情報的には大きく打撃を受けているようで非常によろしくない。
すぐに攻撃にさらされていない安全地帯へと向かおうとする〈15組〉の1チーム。しかし、それは狙撃手に誘導されていた。
「!! 足元に何か反応があります!!」
「何―――」
斥候系を齧っていた男子が報告したが時すでに遅し、シズの目が怪しく光る。
「チェックメイトです。地雷罠、発動です」
直後に衝撃。「ドカンッ!! 」という爆発音が連続で起こった。
シズのスキル『地雷罠設置』によって仕掛けられた罠アイテムで引き起こされた爆発だった。
悲鳴もかき消されるほどの爆発と衝撃が巻き起こり、踏み込んだ〈15組〉の1チームを丸々飲み込んだのだ。
「なんだと!?」
リーダーナイヴスが驚愕に目を見開く。
上からの攻撃に気を取られ、さらに防衛ラインを抜ける寸前というタイミングで、一番油断しやすい足元からの罠による攻撃。
しかも威力から、この罠が本命だったことが分かる。金に糸目をつけないほど、大量に強力なアイテムが仕掛けてあったのだろう。そして、それを隠すための隠蔽工作も万全だった。〈15組〉の学生が寸前まで気が付かないほどに。
それが、ほぼ直撃したチームがどうなったかなど、見るまでもなかった。しかし、煙が晴れるまで、ナイヴスはその跡地から目が離せない。夢であってくれと願わずにはいられない。
そして煙が晴れたとき、罠の中心地にいた6名の姿はどこにもなかった。