#534 〈1組〉VS〈2組〉 奴は俺たちの中で最弱。
カルアからの手紙だが、いやぁ予想以上にいい報告がたくさん書いてあった。
各クラスの拠点の位置情報。
どこのクラスとどこのクラスが戦わずに手を組み合っている、などの勢力図。
現在〈1組〉の近くにある拠点に不穏な動きがある情報。
そして潰走する〈2組〉の本隊と、それに追っ手が掛かったという追撃隊の情報。
正直マジかとビックリしたぜ。
こう言ってはなんだが……、カルアがこんなにも良い仕事するとは、という驚きも大きい。
これも上級職【スターエージェント】に就いた補正の可能性があるな。
以前のカルアではここまで素晴らしい報告書は上げられまい。
俺はまた黒猫をなでなでした。
「ニャー」
黒猫は一鳴きして、影に沈んで消えていった。どうやら制限時間で消えてしまったみたいだ。ああ、残念。本当の猫みたいで良い感触だったのに。仕方ない。
さて、頭を切り替えて現在の状況。
カルアの報告が本当ならそろそろ潰走中の〈2組〉本隊が戻ってくるはずだが。
と思っていたらバリケードの向こう側がにわかに騒がしくなる。
「緊急事態! 緊急事態! ―――ほんた――――きか―――――した!!」
「なんですってー!?」
遠いのでよく聞き取れないが、ハリセン女子の悲鳴にも似た叫び声だけはよく響いた。
いつの間にか報告書を覗き込んでいたミサトが言う。
「ねぇねぇゼフィルス君。ここは攻めておいた方が良いんじゃないかな?」
うむ。言わんとしていることが手に取るようにして分かるぞ。俺もそう思っていたところだ。
追撃隊が来ているということは、このままでは〈2組〉を取られる可能性がある。
黙って見過ごすよりもここは差し込みを狙う場面だ。
「ああ。幸い相手はほどよく混乱している、チャンス到来だ! 〈天下一大星〉、行ってこい、援護してやる! ここで最大の障害を叩くぞ!」
「何!? ふははははは!! ついに我らの出番か! 皆の者、このサターンについてこい! 突撃だーー!!」
「ふふ。待ちわびましたよ。新調したこの剣の錆にしてあげましょう。もうキノコ剣豪とは言わせません!」
「やっとか! 〈2組〉が〈1組〉に劣る理由を思い知らせてやるぜ!」
「俺様も忘れてもらっちゃ困るぜ! 俺様こそが真の〈1組〉だ!」
散々舌戦していたくせにゴーサインした途端疲れも見せず元気に突撃していく〈天下一大星〉。
多分、〈2組〉にはボロボロな本隊が戻ってきたのだろう。今頃大混乱しているはずだ。
そこへ追い打ちを掛けるがごとく〈1組〉が攻めてきたらどうなるか。
答えはすぐに出た。
「ヤバい! 〈1組〉が攻めてきているぞ! 迎撃しろ!」
「おい、早く指示をくれ、どうすればいい!?」
「とにかく撃て! 撃って撃って撃ちまくれ!」
「〈1組〉に舐められるんじゃねぇ!」
聞こえてきた声を察するに指揮系統はバラバラのようだ。
〈2組〉を制御していた例の女子の声は聞こえない。もしかしたら拠点へ向かったのかもしれないな。先ほどより防衛ラインにいるメンバーも少ない気がする。
バラバラの遠距離攻撃が放たれ〈天下一大星〉に向かうが。
「ミサト、援護してやってくれ」
「まっかせてよ! 『プロテクバリア』! 『スピリットバリア』! ついでにこれも掛けちゃうね――『リフレクション』!」
ミサトの防御力バリア、魔防力バリア、そして1度だけ魔法を反射するバリアを掛けて援護する。
サターンたちは持ち前の動きで攻撃をなるべく回避しながら進んでいたが、全てを回避することは不可能でそれなりに当たる、しかし援護のおかげでサターンたちの足を止めることなくどんどん進んでいった。
「回復も任せてね! 『オールヒール』!」
「くっ、止まらない。このままじゃ取り付かれるぞ!」
「状態異常にしろ! デバフを優先するんだ!」
「たはは~。私は【セージ】だよ? 状態異常なんて全然効かないからね! 『レジストベール』!」
ミサトが状態異常の耐性を上げて掛かりにくくする『ベール』系を使って〈天下一大星〉を援護する。
次々と降る〈麻痺〉〈拘束〉〈鈍足〉〈束縛〉〈睡眠〉などの状態異常攻撃をまったく寄せ付けず〈天下一大星〉が進む。
「あ、素早さ下げられちゃってるね。『クリア』!」
ただ、能力値を下げるデバフは防げないのでその都度『クリア』の魔法で打ち消した。
その援護も有り、とうとう〈天下一大星〉がバリケードまで組み付く。
「ふはははははっ! まずは我の先制攻撃を受けよ! 『フレアバースト』!」
サターンが持つ杖から放たれた火炎の光線が〈バリケード〉の一部に直撃する。
ドガーンッという音と土煙を出し、〈バリケード〉のHPを大きく削る。
この〈バリケード〉というのは〈防壁〉系アイテムだ。こうした〈拠点落とし〉の防衛ライン構築に使われたりする立派なアイテムである。〈防壁〉系にはHPが設定されており、これがゼロになるとアイテムが壊れるのだ。
【クラフトマン】系のアイテムで、1マスを通行止めにするのに10個のアイテムを使い、さらにかなり値が張る。また設置数に制限があるなど色々使い勝手は悪いものの、その分強力なアイテムとなっている。
これを用意できる〈2組〉にどれだけ本気や意気込みがあるのかが分かるな。
ただ残念なのが、この〈バリケード〉は下の中くらいの品物なのであまりHPは高くないのと、〈防壁〉系と組み合わせて使うあれこれをまったく使ってこないところだな。つまりアイテムの使い方が初心者のそれなのだ。せっかくの〈防壁〉アイテムがまったく活かせていない。
「ぐお!? まずい、このままじゃバリケードが保たないぞ!」
「反撃しろ! 奴らが攻撃する間を与えるな!」
「ふふ、僕たち〈1組〉を侮ったのが悪いのですよ! ユニークスキル『奥義・大斬剣』!」
「格の違いというのを教えてやるぜ! ユニークスキル『大爆斧・アックスサン』!」
衝撃に〈2組〉が怯んでいるところに素早く入り込んだジーロンとトマがユニークを放った。これにはたまらず、〈バリケード〉の1つが破壊された。防衛ラインに穴が空いたな。
「な、何ぃぃ!?」
「防げ防げ! 穴から入ってくるぞ!」
10個の内1つが破壊された。指揮系統の乱れた〈2組〉はすぐに空いた穴に戦力を向かわせるが。
「俺様を忘れてもらっちゃ困るぜ。『オーラ・オブ・ボディガード』!」
まず突入したのは【大戦士】、タンクのヘルクだった。
思いっきり手を広げるように「さあ来い」といったポーズを取る。
そこへ〈2組〉が集中攻撃を放った。
「撃てー! 撃って撃って撃ちまくれ!」
「食らえ、『フリズドバースト』! な、効いていないだと!?」
「ダメージが少ないだけだ! 集中しろ!」
しかし、ヘルクはミサトにより何重にもバフとバリアと回復を貰っている。
最初の集中攻撃くらいは防げるだろう。
攻撃が途切れたタイミングを見計らい、サターン、ジーロン、トマが防衛ライン内に侵入する。
「ふはははは!! 『メガフレア』! 『フレアインパルス』! ユニークスキル発動! 『大魔法・メテオ』!!」
「ふふ、隙だらけですよ。『滅空斬』! 『斬岩剣』! 『一文字』!」
「俺を止められるかよ! 『アンガーアックス』! 『破壊斧』! 『スイングトルネード』!」
「ぐああぁぁぁ!! くそう、〈天下一大星〉なんかに、こんな……」
〈天下一大星〉が大暴れしていた。
吹き飛ばされた男子の1人が退場する。
「ぼ、防衛ラインを突破されたぞ!?」
「ヤバい、1人やられた!?」
「ふははははは!! この我を止められると思うな! ふははははは!!」
サターンがむちゃくちゃ絶好調だった。
しかし、調子に乗っている時こそ良くないことが起きるもの。
1人の影が、サターンに全力疾走する。
「止めてみせる! これ以上好き勝手にはさせん!」
「ぬ! 誰だ!?」
声に反応したサターンだったが、しかし致命的に間に合っていない。
懐に飛び込んだセーダンの拳が思いっきりサターンの鳩尾をぶん殴る。
「吹き飛べ――『一撃必殺拳』!」
「ぐばらぁぁぁぁぁ!?」
「「「サタァァァーン!?」」」
その拳の一撃は高笑いしていたサターンの腹へ見事に抉り込み、そして吹っ飛ばした。
バウンドすることもせずにくの字で防衛ラインの穴から外に放出されるサターン。
そしてそのまま退場してしまう。
「「「サタァァァン!?!?」」」
それを見て〈2組〉が歓声に包まれた。
「リーダー!」
「帰ってきたんだなセーダン!」
「みんな悪い。よく持ちこたえていてくれた! ここから巻き返すぞ!」
「「おおおおお!!」」
リーダーと呼ばれた男が〈2組〉に手を挙げて全員を鼓舞すると、〈2組〉全体の士気が上がる。
さっきまで混乱していたはずが、見事な鼓舞だった。
「思い出した……」
そういえば俺は彼を一度見たことがあった。確か4月の上旬、シエラをスカウトした時に見かけた覚えがある。
「あの時、キリちゃん先輩がスカウトするか悩んでいた【拳闘士】系の男子か。〈2組〉にいるってことは無事【大拳闘士】に就けたんだな」
スタートダッシュが遅れるも自力で〈2組〉のリーダーになるとは、あの時のキリちゃん先輩たちのお眼鏡は確かだったようだ。
さて俺たちも行くか。サターンを一撃で屠ったのだ。彼はジーロンたちには荷が重いだろう。
サターン……あいつなんで前に出たんだ?
俺たちもバリケード内へと侵入すると、さっきから〈2組〉を制御していたハリセン少女が目にとまる。
「みんな、反撃するわよ! ちょっとセーダンを迎えに行っている間にバリケードまで突破されて、〈1組〉に啖呵切っていた勢いはどこ行ったの!」
「へ、ここからが本番よ! 本当に〈1組〉にふさわしいのは俺たちだと、あいつらに分からせてやるぜ!」
女子に背中を蹴飛ばされて勢いを増す〈2組〉が反撃に出る。
「ふふ!? こいつら、急に勢いを増して!?」
「くそう、サターンを倒した程度でいい気になってるんじゃねぇぞ」
「あいつは俺様たちの中で最弱! 俺様を舐めてもらっては困るぞ!」
ジーロンたちが立ち向かうが、人数差がありすぎるし、体勢を立て直した相手ではさすがに無理だ。
そこへ俺たち〈エデン〉組も突入する。




