#517 褒め方が雑と言われたので本気を出してみた。
ダンジョンの攻略は順調に進み、俺たちは11層から20層まで一気に進んだ。
もちろん〈馬車〉は使わずに徒歩で、モンスターを蹴散らしながら、今までのように練習しながら進む。
やはりボスはいい。
楽しいのはもちろんだが、今は歯ごたえのある戦闘をしたかった。強い敵を相手にすると反省点が見つかるからな。
道中は、その改善をしながら進んでいったのだった。
途中途中で行き止まり探索や隠し扉発見なんかももちろんしながら回る。
ここ中級上位ダンジョンは、上級ダンジョンである上級下位の一個手前。
隠し扉で手に入る装備は上級下位でも通用する物ばかりだ。
是非手に入れておかなければならない。
「毎度のことながらよく隠し扉の場所なんてわかるわね?」
「ん。私でも見つからない」
「カルアは『隠し扉発見』のスキル、持ってないじゃん」
「……ん。そうだった」
「それを言ったらゼフィルスも持っていないのだけどね」
おっと、やぶ蛇。
シエラの問いを誤魔化そうとしてさらに疑惑を生んでしまった。
なあに問題は無い。
こういうときは勢いで押し切る。
「【勇者】だからな。いや、今は【救世之勇者】だからな」
秘技、勇者だからなを発動。
すべてはこれ一つで解決できる。
「……私も本気で聞きたいわけじゃないからいいけどね」
ほら。追及を回避したぞ!
セーフだ。
「もうゼフィルス! お宝を無視しておしゃべりなんていい度胸じゃない! 中身が気にならないのかしら」
「ゼフィルス殿、こちらの鑑定をお願いいたします」
隠し部屋の入り口で話してたら、宝箱を任せたラナとエステルが戻ってきた。
ラナはいつも宝箱に食いつくはずの俺が食いついてないため、どういうこと? という態度で中身を見せびらかす。
だって俺、隠し扉の宝箱は中身知っているしな。
隠し扉の中身はゲームの時と同じなのだ。
しかし、興味が無いわけではないんだぞ。
「いや、悪かったって。よし、張り切って鑑定するぞ!」
「お願いします」
エステルが見せてくる物をじっくり観察する。
ゲームでは画面上でしか見られなかった物が実物にあるんだ。
毎度のことながら興奮するぜ。
「こいつは『HP+100』が付いて魔防力の高い頭装備の〈魔払いのかんざし〉だな」
一見アクセサリーかなと思うが〈ダン活〉では頭装備の種類は豊富で、シュシュやかんざし、リボンやカチューシャなどの所謂髪留め系は大体が頭装備に分類されている。
これもその一つだ。ステータスも口頭で説明する。
――――――――――
・頭装備 〈魔払いのかんざし〉
〈防御力11、魔防力50〉
〈『HP+100』〉
――――――――――
「魔防力がすごく高いわね」
「魔防特化装備だな」
「それでも高いわよ。中級上位ダンジョンになるとこれほどの数値になるのね」
「上級下位ダンジョンなら通用する数値だからな」
上級ダンジョンは上級職で進むダンジョンだ。
上級職に〈上級転職〉すれば、当たり前だがSUPも上がる。すんごく上がる。
それに対応しなくてはいけないため、上級下位でも通用する装備は今までより数値が高く設定されている。
「このかんざしは誰が着ける?」
「そうね。数値的にタンクの装備にしたいところだけど、ラナ殿下もいいわよね」
誰でも装備できるからな。優秀な装備だし。
後衛のラナの守りを上げるも良し、タンクのシエラをさらに硬くするも良し。万が一に備えカルアにつけても良い。もちろんエステルだって可だ。なお、俺は拒否する。
「じゃあ、ラナに装備させようか」
「私? いいの、ゼフィルス?」
「おう。というか消去法だけどな。シエラとカルアはすでにしっかりした頭装備あるし、エステルもある。着けてないのはラナだけだからな」
ラナは頭にシンボルの〈銀のティアラ〉をつけている関係上かは知らないが、頭装備を身に着けていない。
今まで必要にならなかったし、今のラナの見た目がいいのであえて着けていなかったのだが、そろそろ装備を着けさせる時期だな。
そんな判断をしたのだが、ラナは俺の言葉が気に入らなかったみたいだ。
「もう少し似合いそうだからとか、そういう言葉が欲しかったわ」
「お、おう。それは悪かった。でも似合うと思うぞ?」
「取ってつけた感があるからNGね」
厳しい判定。
いや、これは俺が悪かったのかもしれない。ゲームと同じ感覚で言ってしまった。
前にも褒め方が雑と言われた俺。ラナにはつい軽く言ってしまうクセのようなものがあるようだ。――このままではいけない。
俺の本気を見せてやる!
「――ラナ――」
「な、何よ」
真剣な表情で名前を呼ぶと、ラナがたじろいだ。
「この〈魔払いのかんざし〉はラナが一番似合うと思うんだ。ラナが着けたら今までよりもっと魅力的になると思う。俺は――この〈魔払いのかんざし〉を着けたラナが見たいんだ」
「ふ、ふあ――!!」
ラナの片手を取り、その手に預けるようにして〈魔払いのかんざし〉を渡し、真剣にラナの表情を見つめると、――ラナの顔が沸騰した。
「ちょ、ちょっとゼフィルス、離して、離れて。分かった、凄く分かったから! ――ふう、ふぅ。――うう、まだドキドキが収まらない……」
ラナが慌ててばっと身を引いたかと思うと俺に背を向けてしまった。
想像以上の手応えだった。これは自信あり。
それでどうだろう、ちゃんと褒めることができただろうか? 今度はOKもらえるか?
「ゼフィルス」
「ゼフィルス殿」
「ん、ゼフィルス」
「ど、どうしたみんな、そんな顔して」
なぜかジト目のシエラ、ニコニコ顔のエステル、ついでに無表情のカルアが近づいてきて俺の名前を呼ぶ。
なんだろう、今のは結構自信あったんだが。
「ゼフィルス、やり過ぎよ」
「え?」
「いえ、とても良いと私は思います。是非これからもお願いしたく思います」
「おや」
「ん、ゼフィルスはゼフィルスだから」
「だからいったいなんだ」
よく分からないが今のはOKということで良いんだよな?
見ればラナは手に乗った〈魔払いのかんざし〉を見つめながら耳まで真っ赤にしているし、喜んでいるみたいだし、ちゃんと褒めることは出来たと思う。
しかし、これ以上この話題を続けると、なんだかよくなさそうな気配がしたので話題を変えよう。今は〈魔払いのかんざし〉だ。
〈魔払いのかんざし〉は銀製で、チェーンで繋がった二本で構成されており、付け根が太陽のような形をしている。使い方はただ着けるだけで良いようだ。ゲーム時代もかんざしなどをつけたからといってキャラの髪型が変わるということは無かった。
かなりおしゃれな装備だ。
これは、間違いなくラナの髪に合うだろう。想像してみる。
かんざしを入れ、髪をちょっと押さえるような感じで「どう……かしら?」と聞いてくるラナ。
「可愛いじゃんか……」
「――はう。も、もういいわゼフィルス! 十分だから、これ以上は顔が爆発しちゃうわ」
思わずポロッと漏れてしまった声に、ラナがあわあわしながら反応した。
顔は真っ赤だった。
その後、〈魔払いのかんざし〉をエステルに着けてもらったラナが「その、どう……かしら、ゼフィルス?」とか聞いてきたので親指を立てて「すげぇ可愛い」と言っておいた。マジでグッと来た。仕草なんかも含めて、色々と、尊い。
照れたラナが顔を赤くしてポカポカ叩いてくる一幕もあったがSTR初期値なので効果はゼロだ。
なお、その光景を微笑ましそうに見るエステルとは対照的に、シエラがジトッとした目で俺を見つめていた。




