#514 カルアの猫耳は魔性の猫耳? フワフワだぞ?
「ボス、見つけた」
「よしよし。よくやったぞカルア」
「ん」
超スピードで帰ってきたカルアが俺の正面にピタリと立ち止まり報告してきたので思わず頭をなでなでしながら褒めてしまった。
この猫耳のフワフワ感がたまらんのです。
「ん、ゼフィルスの手は優しいから好き」
しかし、この行為に物申す者が現れた。
「ゼフィルス、ちょっと待ちなさい」
「そうよゼフィルス、一人だけそれはずるいわ! 私にもやらせなさい!」
「いえラナ殿下、それも少し待ってほしいわ」
しまった。
以前同じことをしてシエラにお説教食らったんだった。なぜ俺はシエラの前で同じことを!? 全てフワフワの猫耳が誘惑してくるせいなんだ!(誘惑していません)
い、いかん。ごまかさなくては。
「し、シエラもずいぶん自在盾が上手くなったな! 複数の遠距離攻撃を防ぐのもずいぶんさまになってきたし、実際よく防げている。攻撃もだ、今まで攻撃する機会はさほど多くなかったはずなのにもう使いこなし始めてる! いや、さすがシエラだ。さすがは〈エデン〉のトップ盾! シエラがいれば上級ダンジョンだって何も怖くはないな!」
「…………それで誤魔化しているつもりかしら?」
しまった、褒め言葉の連打でごまかそうとしたのがバレたか!?
だが、俺の目に狂いが無ければ満更でもなさそうなのだが?
少し顔が赤いぞシエラ?
「ちょっとゼフィルス、私にはないの?」
「も、もちろんあるさ。ラナもすごいな、本当にすごいと思うよ」
「褒め方が雑だわ!」
そんなこと言われても急にそんなぽんぽん思い浮かばんのです。
俺にプンプンしていたラナが今度はカルアに向かう。
「もう。カルアはなんでゼフィルスだけ猫耳触ってもいいの? 確か前に家族以外触っちゃダメ的なこと言ってたじゃない」
「ん。あれは方便。あの時みんな、目が怖かった」
ああ……。確かカルアを初めてみんなに紹介したときそんなこと言ってたっけ?
そういえばあの時は全員の視線がカルアの猫耳にいっていた気がする。あれで了承していたらどうなっていたか想像に容易いな。確かに怖いかもしれない。
「でも気安く触ってはダメ。ゼフィルスの手は優しいから好き」
「そ、そうか? じゃあもう一回」
「ゼフィルス?」
「っとその前にボスの準備しなきゃな~〈MPハイポーション〉は~っと」
「ねぇねぇカルア、私は?」
「ラナは……ちょっとだけならいい。でも後で」
「やった! 約束よカルア!」
ラナがカルアの猫耳を触る権利を得て喜んでいた。
エステルも少しうずうずしているように見える。
カルアの猫耳は魔性の猫耳だ。フワフワだぞ。
そんなこんなで事態はうやむやになったので咳払いして話を真面目な方向に移す。
「こほん。とりあえずパーティの絆も実感できたし、ボス戦へ移るとしようか。カルア、案内頼む」
「ラジャ」
場所は分かるが道中の罠はランダムなので俺も発見できないことがある。
カルアに安全な道を選んでもらい、時には罠を爆破してボスがいるエリアまで進んだ。
「あれがボスね。道中に出た〈ブルオーク〉のボス型かしら?」
下の階への入口付近に陣取るのは、体長2m半の大きさの〈ブルオーク〉。右手に鉈のような形の大剣を持ち全身に甲冑鎧を装備した武将のようなモンスターだ。
シエラの問いに俺は深く頷いた。
「だな。名称は〈ジェネラルブルオーク〉。特徴は〈ブルオーク〉系を呼び寄せる〈仲間呼びの角笛〉を持っていて、それを使われるとフィールドからランダムに〈ブルオーク〉系が二体から四体戦闘に加わってくるのが手ごわいボスだ。さらに『闘魂のおたけび』で仲間をパワーアップさせるバフなんかも使ってくる」
「ということはボスも含めて最大五体が敵になることに加え、お供は補充も効く、ということね?」
「そのとおりだ。今までお供は倒せば消えるだけだったが、中級上位からはたまに倒しても復活したり、補充されて再登場するようになる。さらに〈ジェネラル〉本体も強力な鉈や鎧で防御スキルを使い、攻撃を弾いてくるから気をつけろよ。弾かれたところに攻撃を食らえばダウンを取られることもある。その時は距離を取るか――」
「フォローするか、ね。私の盾を差し込む機会が多そうだわ」
シエラが冷静に自分の小盾に視線を向けた。
シエラの今の姿は〈盾姫装備一式〉に加え、腰の左右と腿の後ろに白を基調とした四つの小盾を装備してパワーアップした姿になっている。正直、浮かばせてなくてもかっこいい。
この小盾たちはクラス対抗戦を踏まえ用意した物で、名称を〈雪狼の盾〉と〈月の盾〉と言い、これらを二つずつ装備している。両方とも中級中位〈銀箱〉産の優秀な装備だ。この盾の数値の2分の1が能力値に加わるので実質盾二つ分の能力値が追加されている形となっている。凄まじいぜ。
なお、この四つの小盾は別枠装備という位置づけになるためステータスのみしか反映されず、スキルは反映されないためシエラは能力値の高さで盾を選んだみたいだな。
まあ、そうアドバイスをしたのは俺だが。
「シエラの盾の差込はマジで期待しているから、頼むぜ」
「微力を尽くすわね」
「ちょっと、シエラだけなの?」
シエラに期待を向けていると少し唇を尖らすようにしてむくれたラナが訴えてきた。
見ればエステルも、ラナ様に一言声をかけてくださいとでも言うような視線を向けている。
「そんなことはないぞ。ラナの回復とバフがなければボスに挑戦することすら難しいからな。いつもの回復、期待してるぞ」
「んふふ、任せてよ!」
ラナにも期待を向け、こっそりエステルに視線を向ければ笑みを浮かべて二度頷いていた。エステルはラナの保護者ですか? いいえ、護衛です。
ついでにカルア、エステルにも声をかけておく。
「カルアは相手がスキルを使い始めたら回避に専念しろ。カルアのスピードならそれで大体の攻撃はかわせる。後はお供をスピードで翻弄しながら処理してくれ」
「ん」
「エステルは、攻撃を弾かれたら歯車を動かしてバックして〈ジェネラル〉から距離を取れ。あの〈竹割太郎〉の動きを思い出すんだ。それ以外は特になし。エステルに任せる」
「了解です。任されました」
アタッカーの二人だが、お供はカルアがメイン、ボスはエステルがメインで相手をする形だ。
エステルは〈蒼き歯車〉が装備されている。攻撃を弾いてくる〈ジェネラル〉とは相性が良い。初級上位ダンジョンで竹製のセグウェイに乗っていたボス〈竹割太郎〉は、弾かれるとそのままスーっと下がっていって追撃ができないほど遠ざかってしまう厄介なボスだったが、エステルも同じことをして追撃を上手く回避することが可能だ。
後は任せる。みんな信頼しているからな。
「ゼフィルスは何するのよ?」
「俺は基本遊撃だな。タンクが足りなければお供を担当するし、アタッカーが足りなければ参加する。ちなみに回復については心配していない」
「も、もう。そんなに褒めても何もでないわよ」
【大聖女】はマジ強いと暗に言うとラナが照れた。
髪を少しいじる仕草をしながら胸を張る。
「とりあえず、作戦は以上だ。後はいつも通りだな。質問がなければ、ボス戦――行くぞ!」
「「おおー!」」
俺の宣言にラナとカルアが乗ってくれた。
そのまま俺たちは悠々とボスへ向かって歩き出した。