#508 ニュース。ギルドバトルの戦法に変化が?
「〈テンプルセイバー〉がCランクに落ちた?」
俺は聞き間違えかと思い、正面にいるアイギスに再度確認する。
「はい。〈ホワイトセイバー〉のダイアス先輩からの連絡です。ニュースなんかにもトップの見出しに出ていますよ」
俺の問いにアイギスは落ち着いた態度で深く頷いて答えた。
――〈テンプルセイバー〉。
元Aランクギルドにいた、学園でも最高峰に近いギルドの一角―――だったところだ。
加入する学生に「騎士爵」のカテゴリーの職業、【騎士】系や【ナイト】系が多く非常に羨ま――ではなく、手強いギルドであったはずだ。
また、アイギスの元いたギルド、〈ホワイトセイバー〉の親ギルドでもある。
元Aランクという実力もあり、上級職11人を抱えるギルドということもあって、Bランクギルドの中では〈筋肉は最強だ〉ギルドに並ぶ頂の一つという話だったはずだが……。
夏休みが明け、ギルドバトル〈ランク戦〉が解禁されたのが今日のこと。
〈ランク戦〉は一ヶ月のインターバルがある。〈ランク戦〉を受けてから一ヶ月は申し込みの受け入れをしなくても良いというルールだ。しかし、夏休みでそれの期間は解けている。
例年、この夏休み明けは〈ランク戦〉激戦期間の一つだという話は聞いたことがある。
帰省から戻ってくる学生が間に合わないこともあるため、その隙を突く形でギルドバトルを挑むところが多いらしい。
何それ、ちょっと卑怯じゃない? と思うかもしれないが、そうしてランクが上がったギルドは大体一ヵ月後にはランクは下がるらしい。
それはともかく、今年は来週急遽クラス対抗戦が加わったため、さらに混乱は加速したと思われる。
俺たち〈エデン〉もCランクへ挑むのはクラス対抗戦の後になるだろうしな。
それで、慣例に則ったのかは分からないが、さっそく解禁と同日にギルドバトル〈ランク戦〉が行なわれた。
そして〈テンプルセイバー〉は敗北した。今ここ。らしい。
「どうして敗北したんだ? というかどこに負けたんだ?」
「それはこれを見たほうが早いかもゼフィルス君」
「ミサトか」
いつの間にか近くにミサトがいて、手に持つ〈学生手帳〉を見せてきた。
中身はニュースのようだ。
ちょうど速報として〈テンプルセイバー〉と〈サクセスブレーン〉が〈ランク戦〉で戦い、そして〈サクセスブレーン〉が勝利したことが書かれていた。
「〈サクセスブレーン〉?」
「頭脳派ギルドだね。リーダーのカイエンは上級職【ブレイン】の持ち主で、リーナちゃんと似たようなことが出来るみたい」
「なるほど……、【ブレイン】か」
【ブレイン】は上級職、高の下に位置し、指揮系に特化した支援職だ。
下級職の【姫軍師】とほぼ同様なことができる他、上級スキルも侮れない強力な職業だ。
まあ、【姫軍師】が上級職に〈上級転職〉すると悲しいことになる下位互換ではあるが、ノーカテゴリーなので一般人でも使えるのが利点だな。
「夏休み前は下級職だったはずなんだけどね。どうも夏休み中に〈上級転職チケット〉を引き当てたみたい」
「それでBランクに挑んだのか。しかし、それだけで勝てるか? 相手は上級職が11人もいたんだぞ?」
「うーん。なんだか〈サクセスブレーン〉は大きく様変わりしたんだって。いろんな所から上級職を引き抜いて、今は上級職9人を抱える、Bランクでもかなり上位のギルドになっているみたい。今勢いが急増しているギルドの1つだね」
「……なるほどな、夏休みで勢力図が変わってるのか。――リアルではこんな変化もあるのな」
ミサトの説明に俺は関心を示す。
ニュースにはこんなことも載っていた。この〈サクセスブレーン〉は夏休み前までCランクギルドで、〈ランク4〉の中級上位ダンジョンをクリアしている程度のところだった。
しかし、リーダーが上級職に就き、それを機に多くの上級職の人たちにアプローチを掛け、上級職を集めたのだとか。
「これ、ゼフィルス君のギルドバトルを参考にしているんだと思うよ」
「あ、やっぱりか?」
【姫軍師】を公開したのは一度だけだったはずだが、その一度でかなり研究されたらしい。
さすがに〈竜の箱庭〉は持っていないだろうが、似た地図アイテムというのはそこそこ存在する。ほとんどは下位互換だが。
せっかく手に入った〈上級転職チケット〉を戦闘職に使わず、支援職の【ブレイン】に〈上級転職〉させた柔軟な発想、そして同じ考えの同志を集めギルド全体を強化し、怯まず元Aランクギルドに挑み、そして乗り越える手腕。
新しく進出してきた〈サクセスブレーン〉はなかなか強かなギルドのようだ。
「それでギルドバトルの様子がこれか」
ミサトがスクロールしてページを送るのをアイギスと俺、ミサトで見る。ちょっと狭い。
「罠を仕掛ける【トラッパー】、デバフ担当の【闇神官】、索敵系の【レーダーマン】に隠密系の【トリックスター】か。なるほど、まともに当たっては勝てないと踏んで搦め手を使って各個撃破で屠ったのか。やるな……」
「〈テンプルセイバー〉の戦い方はその強力なステータスと突進力を活かした突撃戦法です。本来なら遠距離からの回復でそれを援護し、無敵の騎士団を作っていましたが……」
アイギスが憂う。
回復役が居ないんじゃなぁ。突撃してくるだけの相手なんて対策してくださいと言っているものだ。状態異常でも受けたら即ピンチに陥るだろう。
実際、回復手段が半減以下になっていた〈テンプルセイバー〉は回復が追いつかないほどに翻弄、分断され、各個撃破されてしまったらしい。
「〈獣王ガルタイガ〉の時は騎士にも負けないスピードで本拠地を強襲して回復役を撃破。後は混乱した騎士たちを各個撃破、だったよね」
「回復役がいない弊害か? 今回も〈テンプルセイバー〉が実力を出し切れずに負けた印象を受けるな」
今まで遠距離回復が送られてきていたから自由に動けた、いや暴れられた〈テンプルセイバー〉だったが、ニュースを見る限り、翻弄されて崩されるのが早すぎる、そして立て直しが拙すぎる印象を受けた。
おそらくそんな経験がほとんどないのだろう。自己回復に手間取ったところを次々と討ち取られている。ポーションを飲むのは非常に隙が大きいんだ、飲むタイミングと場所取り、そして味方がその時間を稼がなくてはいけないはずだが、それが全然なっちゃいない。
「しかし、見事だな〈サクセスブレーン〉は……」
この手際、〈サクセスブレーン〉が〈テンプルセイバー〉の弱点を熟知していたとしか思えない。俺は〈サクセスブレーン〉を大きく評価した。
そして〈ランク戦〉の結果、ランクが入れ替わり〈テンプルセイバー〉がCランク落ちした。
「〈テンプルセイバー〉はDランクの下部組織持ちだが、短期間に二度落ちは厳しいな」
Aランクは上限人数が40人までだが、Cランクは20人までだ。つまり、ギルドメンバーの半分を脱退させなくてはならない。
救済処置であり、脱退者を受け入れるための下部組織は以前18人も在籍していた。
確実に路頭に迷う脱退者が出ることになる。
そんな心配をしていたのだがアイギスが首を横に振った。
「そこは大丈夫かと思います。〈ホワイトセイバー〉にはダイアス先輩たちがいますから」
「そっか。確かにあの人たちなら安心だな」
確かに、あの人の手腕なら大丈夫か。アイギスのようにちゃんと受け入れ先を用意するだろう。
何しろ、俺に会うために朝から晩まで待っていたほどの男だ。
とりあえずはそこで話題は終わり、今日も上級職の手応えを確かめにラナ、シエラ、エステル、カルアと共に、また中級上位ダンジョンで訓練をすることにして解散した。
 




