#053 勧誘終了。ギルドメンバーも決まって万々歳!
「まさか……、本当にあんな方法で?」
再びやってきた測定室。〈竜の像〉の前へ戻ってきて王女が手を翳したところ、ばっちり【聖女】は現れていた。
それを傍目に呆然とした口調で呟くエステル。
王女はすでに放心状態だった。
「な、言ったとおりだっただろ?」
「言ったとおりだっただろ、ではないです! こ、この情報がどれだけの波紋を生むか分かっているのですか!?」
そんなもの、いくらでも生めばいいのだ。
むしろこの世界の住民は自分たちのことなのに何故知らないのかと問い詰めたいくらいなんだぞ?
強引に部屋へ連れ込んだあの後、反論の機会を与えないレベルで【聖女】の発現条件から試させた。王女はなんか暴れるレベルで抵抗していたが「【聖女】になりたかったらだまされたと思ってやってみろ」と真剣に言ったところしぶしぶ従った。何故か顔を赤くしながら…。
途中、女子生徒が男子に拉致されたという誤報を聞きつけたフィリス先生が尋ねてくるトラブルがあったが、勉強会を開いていると言って乗り切った。
エステルがやけに慌てて俺を弁護していたのも手伝ってフィリス先生は納得し、「勉強もいいけれど夕食は食べなさいね、もう19時よ」と言って帰っていった。
焦ったぜ。誰だ通報したのは!
その後三人で食堂に出向き食事を取ってから続きを行い、現在21時過ぎ。
【聖女】は下部職である【神官】【司祭】【巫女】【祈祷師】【医者】【薬師】【メディック】【回復術士】【白魔道士】【ホーリー】と、計10職の職業条件を満たさなければ取得できないので時間が掛かったが、なんとか今日中に達成することができた。
日にち跨いで冷静になられても困るからな。間に合って良かったぜ。
そのスピーディで、よ~く考えられている職業発現までの段取りに、エステルは脱帽といった様子だ。さっきまで形式上でゼフィルス殿と呼んでいたものが、今では敬意を感じるようになったほどだ。
ふふふ、すごいだろ。俺たち〈ダン活〉プレイヤーの財産は。
【聖女】なんて【勇者】の次点で最強の職業だったから、それはそれは多くのプレイヤーが使ったさ。同時に〈最速で【聖女】になる方法〉もずいぶん研究された。
〈ダン活〉にはタイムアップがあったからな。速さや合理的な思想が常に求められていた。
故に、俺からしたらこれくらい慣れたものだ。
これで【聖女】はゲット。
「エステル、別にこの情報、王家とやらに伝えてもいいぞ?」
むしろ積極的に広めろ。でなければ最上級最上位ダンジョンとかキツイだろ。
「………いいえ。この情報はゼフィルス殿のものです。私が勝手に伝えるわけには参りません」
「別にこれくらい……。いや、ならこのままでいいか。面倒な事になるっていうなら黙っておこう、もしバレそうになったら王女が自力で見つけたとでも言っておいてくれ」
【聖女】は「王族」「姫」しか取得出来ない特性上、就ける奴はほとんどいないしな、話しても問題ないと判断した。下部職全部満たすのは自力でがんばれという話。
「……わかりました」
困ったようにエステルはそう了承する。
俺として情報を少しやるくらい問題は無いが、面倒なことで時間を取られるのは避けたい。
楽しいことや、ちやほやされるなら構わない、むしろ歓迎する。
〈ダン活〉はスカウト出来る「人種」の上限は決まっている仕様だった。「王族」1人まで、「侯爵」2人まで、「騎士爵」5人まで、といった感じだ。
そのため、さすがに【姫騎士】は明かせない。「騎士爵」のカテゴリーを持つ奴はすんごい多いのだ。
ま、しばらくは内緒だな。いつかは公開してもいいが。
さて、そうだった次は【姫騎士】だな。
「次はエステルの番だが……、【近衛騎士】の条件満たしていたって事は、乗馬はできるんだろ?」
「本当によくご存知で。はい、幼少の頃より叩き込まれております」
「となると、残りは④の〈ドレスアーマーを装備してモンスター100匹倒す〉でクリア出来そうだな。さすがにドレスアーマーは持っていないが、どこからか調達出来るか?」
「はい。明日までには」
「よし。俺は朝から初級中位に潜る予定だ。終わったら合流しよう。覚悟はできたんだろう?」
【近衛騎士】から鞍替えして【姫騎士】になる覚悟が、だ。
「王族」が近くに居ないと真価を発揮できない【近衛騎士】は、俺から言わせてもらえれば欠陥職だ。まあコンビを組む事で互いに能力を底上げする職業はいくつかあるが、やはり単体だと弱いという弱点を抱えている。
その点【姫騎士】は非常に有能だ。
騎士系の職業は大きく分けてタンクの【騎士】系とアタッカーの【ナイト】系の二種類がある。
【重騎士】【近衛騎士】【聖騎士】などが【騎士】系。
【チャリオット】【ペガサスナイト】【ワイバーンライダー】などが【ナイト】系。
名前で察しは付くかもしれないが、【ナイト】系は騎乗して戦闘するアタッカータイプだ。
【騎士】系も馬には乗るが移動系スキルが主で戦闘には直結しないタイプが多い。
そして【姫騎士】はその両方に適性を持っている。アタッカーもタンクも一流に成れる素質を秘めていると言えばその有能さが分かるだろうか。
【姫騎士】は「騎士爵」の娘からすると憧れの対象だ。
【騎士】系でもアタッカーに就いて華麗に活躍し、大成したいと考える騎士の子は多いらしい。
エステルも例外ではない。その答えだって当然。
「はい。ゼフィルス殿のギルドにお世話になります。ラナ様も、それでよろしいですね?」
「うえ!? う、うん。まあいいけど……」
「とおっしゃられていますので、ラナ様共々、よろしくお願いいたします」
エステルが深々と頭を下げて笑顔で言った。
王女様はよほど【聖女】が出たのが衝撃だったらしい。
まだ思考が定まってないように見えるのだが本当に大丈夫か?
「ラナ様も、ご遠慮なさらずに、どうぞ」
「う、よろしくね」
「おう。歓迎するぜ。これからよろしくな」
良いらしい。
よっし。これで【聖女】に加え【姫騎士】までゲット。ギルドを作る上で最低人数もクリアできたし、万々歳だな!
ポジション的にも、アタッカーの【姫騎士】、タンクの【盾姫】、ヒーラーの【聖女】、オールポジションの【勇者】、生産の【錬金術師】とバランスが良い。
こりゃ、明日の初級中位は張り切らないと。
上手くいけば明日中にギルドを結成出来るかもしれないからな!
やっべ、ギルドの名前、考えておかないと!




