#491 クラス対抗戦と迫るクラス替えの危機。
メリークリスマス! 本日4話目! まだ今日は読んでいない方はバック!
「〈クラス対抗戦〉が、来週だって?」
フィリス先生の話を聞いたクラスメイトたちが大きくざわめく。
――〈クラス対抗戦〉。
それは学園の大きな行事の一つで、球技大会や体育祭に近い。
名前の通り、クラス全体がチームとなり、ギルドバトルの競技の一つ、〈拠点落とし〉を行なって勝利を目指す、という学園の大きなイベントだ。
ゲーム時代、これで優勝すると〈名声値〉が爆上がりするほか、いくつかの豪華な賞品が貰えた。ここでしか手に入らない限定装備やアイテムなどが貰えたのでがんばったものだ。
クラスで戦うというのがネックで、自分のギルドメンバーじゃない人たちを操るのは、結構難しかった覚えが強い。
しかし、今回は安心だな。何しろクラスの半分近くが身内だしな。
ふはははは! 楽勝!!
だが、来週か。
本来なら10月の終わり頃にやるはずだったこのイベントが、まさか早まるとは。
〈転職〉してしまうとLVもゼロになってしまうので繰り上げた形だろう。
しかし、早まったことで急遽決めなければいけない事が出来たな。
「以上で連絡は終わりよ。質問がなければ〈クラス対抗戦〉のリーダーを決めてしまいましょうか」
「はい!」
と、フィリス先生が締めに入ったところで挙手する男子が一人、いやすでに立ち上がっている。
それはサターンだった。
さっきまで土気色だったのにずいぶんと血色が良くなっている。
「立たなくていいわよサターン君。何かしら?」
「はい! 来週から〈クラス対抗戦〉とのこと、是非そのリーダーを我に任せていただけないでしょうか!」
その言葉をサターンが発した瞬間、すぐに反応した者が三人。
「ふふ、待ってくださいサターン。抜け駆けは見逃せませんね」
「その通りだ。俺を出し抜こうだなんてそうはいかんぞ!」
「俺様を忘れてもらっては困るぜ。リーダーをするなら俺様をおいて他にいないだろ?」
出た。〈天下一大星〉だ!
なんか前にも似たような光景を見たことがある気がする。
あの時は確か、どうしたんだっけ?
ふとラナのことが視線に入った。
目が合う。
するとラナが溜め息を吐きながら立ち上がった。
「まったく、うちのギルドマスターを差し置いて、何を言っているのかしら」
注目を浴びるラナだったが、そんなこと意に介さず〈天下一大星〉へと堂々と告げる。
「〈クラス対抗戦〉のリーダーはうちのギルドマスター、ゼフィルスが務めるわ。負けたくないのなら、優勝したいのなら従いなさい」
おおう、なんだかすごい王女っぽい口調。
すでに議論の余地などどこにもないかのような、王者の決定がそこには見えた。
サターンたちもその言葉に圧倒され、何も言えないでいる。
いや、サターンが動いた。さすがはサターンだ。この圧倒的な状況でも自分を突き通すつもりか? 無謀極まるぞ。
「ぐっ……、しかし我らだってそれ相応の実力はあると自負して――――」
「私たちの〈エデン〉に、いえ、ゼフィルスに何度負けたのだったかしら?」
「「「「ぐはぁ!!」」」」
案の定、皆まで言わせずラナがトドメを刺した。
まるで吐血したような仕草をしてサターンが椅子に座り込む。
巻き添えで他の三人もズンッと沈んだ。
勝者はここに決まった。
「フィリス先生。そう言うことなので、クラス対抗戦は私たち〈エデン〉が主導で進めたいと思うわ」
「はい。先生は構いませんよ。――ゼフィルス君、どうでしょう?」
「俺はもちろん構わない。任せてくれ。優勝させてみせるぜ!」
「頼もしいですね。他に異論のある人も居ないようなので、決定で良いでしょう。本当は明日にでも決めようと思っていましたが、早く決まって良かったわ」
そういうことになったらしい。
俺は何も言っていないけど。〈クラス対抗戦〉のリーダーになる事に決まった。
まあ最初からやる気だったのでオールオーケーだ。
任せてくれ。
ラナがドヤ顔でグーしてくるので俺もグーを返した。
ナイスだラナ。
ロングホームルームも今度こそ終わり、解散する。
さて、シエラと一緒に帰ろうか、と思ったところ、なんだかすごい圧を放っているサターンたち〈天下一大星〉組と〈マッチョーズ〉組に捕まった。
「ゼフィルスよ、頼みがある。もう我にはゼフィルスに頼むしか希望が残ってないのだ!」
「おおう?」
おいおい、暑苦しい男子たちに囲まれたぞ。全然嬉しくない。
「我が筋肉たちからも頼む。このままでは筋肉が萎んでしまう!」
〈マッチョーズ〉のリーダーさんが何かを頼んでくるが、内容はよく分からない。
それよりだんだんと、にじり寄ってくる方が気にかかる。
「まあまあ落ち着け? それ以上近づくなよ? それで、どういうことだ?」
「ふふ、僕から説明しましょう。あなた方の説明では、ダメでしょうからね」
「くっ、ジーロン、任せたぞっ」
俺が待ったを掛けると面白いように素直に従う男子たち。
軽く手を挙げて挙手するのは、この中では比較的まともな、本当に比較的に見てまともなジーロンだ。
〈マッチョーズ〉たちも異論はないようすだ。
俺も話すのを一人に絞ってもらうのは助かる。
「それで、これはなんの騒ぎなんだ?」
「ふふ、分かっているでしょう? 先ほど説明のあった〈クラス対抗戦〉、それで僕達を大きく活躍させて、いえそこまでは言いません、しかし活躍の場を設けて欲しいのですよ。もちろん対価は払います」
「…………なるほど。クラス替えの起死回生の一手か?」
「ふふ、僕は帰省も無く、補習もすぐに満了しましたが、僕以外はそうもいかなかったみたいでしてね。このままでは彼らは別のクラスになってしまいそうなので哀れに思ったのですよ」
「くっ、おのれジーロンめ……」
悪い笑顔でサターンたちを見つめるジーロンに、サターンが苦虫を噛んだような表情だ。
ちょっと面白い。
その後ジーロンの話を要約するとこういうことだった。
赤点を取ったことでただでさえピンチになっていた〈天下一大星〉と〈マッチョーズ〉。本来なら実力主義のこの世界、レベルの差があるので〈1組〉は安泰だが赤点常習者となると話は変わる。
学生の本分は勉強だ。いくらレベルが高くても、勉強という名の能力が低ければ実力は下に見られてしまう。つまり、〈1組〉だって安泰ではない。
しかし、それでも本来ならまだ2学期期末テスト、3学期期末テストという3段階のテスト方式で、後半に点数を上げれば改善することができた。能力を上げてきた、とみなされ〈1組〉に残ることもできただろう。
だが状況は変わり、名誉挽回する機会も無しにクラス替えが目前に迫ってしまった。
焦る〈天下一大星〉、焦る〈マッチョーズ〉。このままではクラス落ちが待っている。
しかし、そんなところに一本の救いの糸が垂らされる。
それが〈クラス対抗戦〉。
ここで活躍し、良いところを見せる。
能力があり実力があり、〈1組〉にふさわしいと思わせることができれば何とかなる。
そう思った彼らは、そのためまずリーダーに立候補したようだな。
しかし、その目論見は潰れてしまったため、リーダーの俺に助けを求めてきたという訳だ。
あのプライドの高かったこの四人が、丸くなったものだ。
いや、本当に切羽詰まっているんだろう。
「それで、どうなのだゼフィルス!」
「待て」
「ワン! って何をやらすのだ!」
サターンが詰め寄ろうとしてきたので手で制止、俺は今一度考えを巡らせる。
一瞬サターンが犬に落ちた気がしたが、きっと気のせいだろう。
でも、別にいいかな? 〈エデン〉が主導でやると言ってもクラス全体を指揮するのには変わりないんだし。
うん。決めた。
「分かった。なら〈クラス対抗戦〉の目玉、対人戦に多く配置してあげよう」
「!! ゼフィルスよ、我は今までゼフィルスを誤解していたようだ」
俺たち〈エデン〉が前に出ると、多分相手にならなそうだからな、レベル的に。
相手が可哀想だ。
そんな考えがあったが、サターンが感動しているので黙っていることにする。




