#481 大規模オークション。目玉商品チケットの行方。
メリークリスマス! プレゼント+3話!!
こちら本日5話目です。本日まだ読んでいないという方はバック!
後書きに素敵なプレゼントを記載しております。
8月も終わって今日は9月1日、日曜日だ。
夏休み最終日ではあるが、締めの夏祭りが終わったためになんとなく夏休みという感じがしない。
やっぱ夏休みっていったら8月ってイメージだよなぁ。
「ゼフィルス君、ギルド行こっか」
「おう」
そんなことを考えながら今日もハンナとギルドへ向かう。
すでに夏休みでやりたかったことは全てやったため、今日は明日、二学期の方針を決めようということになっていた。
レグラムやラナたち帰省組も戻ってきて〈エデン〉は再びフル稼働状態だ。
やることが山積みだぜ。
「ねえねえゼフィルス君聞いた? 今日の大規模オークションにはとんでもない目玉商品が出るんだって」
「目玉商品か~」
「あれ、あんまり興味ないかな? 超すごいって話だよ? なんでも最低価格が5億ミールって見積もられているんだって」
「それ学生が買えない値段じゃんっ」
学生個人に5億とか無理だよ。うん。
まあこれはギルド単位でのオークションになるんだろうな。
もしくはギルド同士が組んで共同で購入させるとかなのかな。
「でも最低でも5億ミールってすごいよね~。大金持ちだよ~」
さっきからすごいしか言っていないハンナ、目が完全にミール状態だ。
うん、完全にお金の魔力に取り憑かれているな。確かに5億は欲しい。
ちなみに大規模オークションとは、毎月行なわれているシングルオークションをさらに大きくし、別枠な大イベントにしたもので年に3回ほど行なわれる、そこに並ぶ商品は全てがシングルを大きく超えた金額で落札される超ビッグオークションだ。
ゲーム〈ダン活〉時代、第一回目である夏休み明けの大規模オークションは資金不足で参加出来ないことがほとんどではあった。それほどデカい金額が動くのだ。無理に参加することはない。破産してしまうぞ!
なんでもないことを話題にしてハンナとギルド部屋に向かうと扉を開けて中へと入る。
「おはよう~」
「あ、おはようゼフィルス。待っていたわ」
「おう? シエラどうしたんだ、そんなそわそわして」
ギルド部屋に入ると、なんだか部屋の様子が変だった。
なんだか微妙にみんなが落ち着いていないのだ。
シエラですらそわそわしている事が分かるレベルである。
とりあえず入室し、いつもの席に座ってセレスタンが淹れてくれたお茶を飲んで一息吐くと、シエラが一枚の紙を俺の前に置いた。
「とりあえずこれを見て頂戴。今学園中で大きなニュースよ」
「あ、ああ。――えっとなになに……、『大規模オークションの告知、9月1日朝10時から――』」
「そこは読み飛ばして。重要なのは、ここよ」
普段はあり得ないような、シエラの急かしに目をパチクリさせつつ、シエラが指さした部分を読み上げる。ずいぶん気が急いでいるようだ。
「お、おう。えっと――『今回の大規模オークションの目玉は、なんと全ての人類の切望の一品、〈上級転職チケット〉だーー!!』って〈上級転職チケット〉かよ!」
俺はそこでようやく事態を飲み込めた。
「なんだ、引っ張るからどんなもんかと思ったらただの〈上級転職チケット〉かよ」
「ただの、じゃないでしょ、とても重要なことだわ」
あり?
シエラの方を見るとなんだか知らないがジト目だった。
あれ? ここはよろこんでも良い部分なのかな?
あ、ダメっぽい。シエラが真面目な声で説き始める。
「〈上級転職チケット〉は非常に貴重で高価なものよ。ギルドの資産なら落とせる可能性が高いわ」
どうやらシエラはこの〈上級転職チケット〉のオークションに参加したいらしい。
っと、そこに横からメルトが現れた。メルトも珍しくそわそわしている。
「これはチャンスだぞゼフィルスよ。ここで〈上級転職チケット〉を手にすればSランクへの道に大きな前進になるだろう」
〈エデン〉の頭脳陣の2名が俺を説得する。
いや、まあそうだけどな? 〈上級転職チケット〉とはそれほど重要な物だ。
だが、ちょっと待って欲しい。まずは一番重要な事を聞いておきたい。
「えっと? それでどのくらいの価格になりそうなんだ?」
「最低5億ミールと言われているけれど、実際は100億を超えてもおかしくは無いわね」
「しかし100億もの大金は学生が捻出するのは不可能だ。そこで学生が、ギルドが出せるギリギリの金額まで見積もった結果、おそらく15億くらいで決着がつくのではという結論に到っている」
「いやいやいや、いくらなんでも高すぎるだろう!」
シエラとメルトが大真面目な顔をしながら語った内容にビックリだよ!
はい? 100億? 15億? なんで〈上級転職チケット〉がそんなに高いの!?
と、そこで気がついた。
そういえばこの世界、上級職が少ないんだった、と。
もしかしなくても〈上級転職チケット〉の価値が超高騰しているのか!
いやいやいや、ちょっと待って欲しい。
いくらなんでも高すぎだろ。エデンの資金を考えれば払えるし、むしろ今後もっと大量に稼ぐ予定なので別に破産はしない金額ではあるけれど、高い物は高い。
もし本当にそんな金額で取引されているのならゲットした奴が迷わず売るだろう。
それだけで一生遊んで暮らせるぞ?
だが、俺は今日までリアルで〈上級転職チケット〉が売りに出されたという話を聞いたことが無かった。
「そんな高いのに、どうしてみんな売らないんだ?」
「知らないの? 〈上級転職チケット〉はその膨大な価値から売ることが禁止されているのよ」
「今回のように売られるのは特別な例だな。学園や国だってまったく売らないとなると世の鬱憤が溜まるというのはよく分かっている。だから特別な催しなどの時に〈上級転職チケット〉を国が用意したりするんだ。売るには特別な許可がいるという認識でいい」
「なんでそんなルールなんだ? 好きに売っちゃダメなのか?」
「そうすると好事家や、お金持ちばかりに流れてしまうでしょ。〈上級転職チケット〉のドロップ率はそんなに低すぎるということはないし、学生生活の中でも1度は目にするものよ」
「そうなると売った学生パーティは生涯遊んで暮らせるほどの金が手に入る訳だ。〈戦闘課〉の多くの学生が働かなくても食っていけるとなったら、王国はどうなる?」
「あ~」
なんとなく2人が言いたいことが分かった。
みんな働かなくなったら人材不足になって国が終わるな。
お金持ちや好事家だって上級職になったからといってバリバリ働くとは思えない。
だからそんな変な法律があるのか。
そういえば今思い出したが、ゲームでも〈上級転職チケット〉は売れない物扱いだった。あれは重要アイテムだからというわけではなかったんだな。
とりあえず納得した。
ここ、ゲームの時とかなり違うな。
あまり気にしていなかったが、オークションで〈上級転職チケット〉が売られるのってゲームでは救済処置って扱いだったからな。普通はドロップを狙うものだ。
だってオークションの品って高いし。普通にドロップ確率上げて周回していれば、いつかは手に入る……からな。とはいえ、ゲームの〈上級転職チケット〉はどれだけ高くても1億に届かなかったんだが。
「それでゼフィルス。オークション、どうするの?」
「これはチャンスだぞ。こんな機会は滅多に無い」
シエラとメルトが詰め寄ってくる。
なんか仲いいな二人とも? メルトは後で顔貸しなさい? なんちゃって。
とりあえず話は分かった。とてもよく分かった。
みんな上級職に就きたいんだな。
なら俺のすること、答えは決まっている。
「オークションに参加するのは、却下だ」
俺は〈上級転職チケット〉の購入を却下した。




