#447 いつの間にか〈エデン〉受付担当が出来てた。
「ハンナさんは素材の調達をどこでしているのでしょうか?」
「うーん。みんなが取ってきてくれた素材を使ったり、足りなければ自分で取ってきたりですね。後はたくさん使う素材なんかは依頼して纏まった数を入手していますよ」
「なるほど、依頼というのは?」
〈エデン〉のギルド部屋に向かう道でマリアがハンナへ色々質問していた。
経理、アイテム管理としてはその辺気になるよな。
「〈採集課〉への依頼ですね。主に〈上魔力草〉を依頼してます。〈エデン〉では本当にたくさん使いますから」
マリアが素早くメモしているが、歩きながらメモるとは器用だな!
ハンナの言うとおり、〈エデン〉では〈上魔力草〉、というかその素材から生み出される〈MPハイポーション〉を大量に使っている。
正直、採取班が別に必要なレベルで。
ゲーム〈ダン活〉時代は買えば良かった。
購買……は高すぎるので、他の〈採集課〉系のギルドや、【薬師】系ギルドなどで購入できたからな。
しかし、リアルだと、ゲームの時は無かった購入制限が立ち塞がるのだ。
ゲーム時代は無限にあった在庫も、当り前だが現実では無限にある訳がない。
つまり、購入できないのだ。
しかも、リアルではあまり買い占めしすぎると迷惑が掛かる。
以前とあるギルドが〈ハイポーション〉を買い占めしすぎて学園全体で品薄が起こり、学生のダンジョン攻略に支障が起きたことがあった。
その時は、なんかハンナパワーが炸裂してすぐに解消されたらしいが、普通はそんな簡単に解決できる問題ではない。
一度起こったことがある問題を再び起こして他人に迷惑を掛けるのはゲーマーとしての矜持に関わる。
ゲームをするときは他人に迷惑を掛けないようにしましょう。ゲーマーとしての心得だ。
では、大量に使う〈MPハイポーション〉の素材をどこから入手しているのかというと、ハンナの言うとおりクエスト依頼をかけることで解消していた。
以前、選択授業を決めるときに知り合った【ファーマー】のモナつながりで〈採集課〉の上級生さん方に周知し、彼ら彼女らの良いお小遣い稼ぎとして常設依頼に組み込まれ、毎日かなりの数が納品されていた。
〈採集課〉の人たちにとって、夏休み期間中の良いアルバイトみたいな扱いになっているらしい。
依頼はQPでの支払い。ゲーム時代より多少勿体ないが、〈MPハイポーション〉が使えないと攻略に支障をきたすので必要経費だな。
「あ、〈エデン〉の部屋に戻る前に〈総商会〉に寄ってみますか? ここからそんな離れていませんし」
「ありがたい申し出です! お手数お掛けします」
「大丈夫ですよ、私もあとで行くつもりでしたから」
ハンナの提案で〈総商会〉に行くことになった。
正式名称:〈総合買い取り商会〉。
買い取りもやっているが、納品依頼などの窓口としてもここが使われている。
俺も一緒に付いていった。
「あらハンナ様、ようこそ〈総商会〉へ! 依頼の品ですか? たくさん届いていますよ」
「も、もうメリーナ先輩、様付けはやめてくださいよ」
ハンナたち一行が〈総商会〉にたどり着くと、窓口に向かう前に声を掛けられた。
相手は2年生のメリーナ先輩だ。
初めてここに来たとき、〈初心者ダンジョン〉の素材を買い取ってもらってから俺やハンナの担当的なポジションに収まり、ここを利用するときは大体彼女が相手を務めてくれるようになった経緯がある。
担当者が同じということで手続きが凄くスムーズだし、助かっている。
しかし、ここでもハンナは様付けなのか。
いや、むしろここでは当然の扱いなのかもしれない。あの時一番困っていたのは間違いなくここだっただろうからな。
「こんにちは、メリーナ先輩。これから出かけるのか?」
入口でばったりと出会うとは珍しいと、俺は問いかける。
「あ、ゼフィルスくん、久しぶり! 今食事から戻ったところだったのよ。ちょうど良いタイミングだったわ、21番窓口に来て、そこで受付するわ」
どうやら食事休憩から戻ってきたところにばったり出くわしたらしい。
ちなみにハンナは敬語なのに俺は違うのは、ハンナが純粋に敬われているからである。
まあ、ハンナは前みたいにフランクに話したいみたいだが。残念、恩を売りすぎたな。
メリーナ先輩に連れられて21番窓口に行くと、窓口の向こう側に回りこんだメリーナ先輩が早速とばかりに手続きをしてくれた。
そこで、今後は受け取りの作業を手伝ってもらう〈助っ人〉のマリアを紹介する。
「紹介するよ、こちら〈エデン〉に〈助っ人〉制度で来てもらったマリアンヌだ」
「今後〈エデン〉で経理、アイテム管理等を主に担当させていただきますマリアンヌです! これからよろしくお願いいたします!」
「私は〈エデン〉〈アークアルカディア〉の窓口担当のメリーナです。こちらこそよろしくお願いします」
なんかメリーナ先輩の発言に聞き逃せないセリフがあったな。担当的ではなく本当に担当になっていた?
しかし、今更としか思えない不思議。しかもハンナは不思議にも思っていないという顔をしていてさらに不思議。
また、マリアには敬語なのはビジネス相手だと最初から判断しているからだろうか?
早速メリーナ先輩とマリアが手続きを行なう。
「今集まっている〈上魔力草〉は合計1220本ですね。頂いているQPからこの分は引かせていただきました。こちらが明細となります」
「ありがとうございます! 思った以上に多いですね」
「今は夏休みで多くの学生がダンジョンに潜っていますから。やっぱり時間があると戦果が違うという声をよく聞きます」
「なるほどです。それにしても〈エデン〉ではこれだけの数を集めてもまだ足りないのですか?」
「全然足らんな」
「全然足りないよね?」
俺とハンナの心が1つになった。
お互い顔を合わせてうんと頷く。
これっぽっちの数、特に今の時期は数日で吹き飛ぶ数でしかない。
マリアが珍しくキョトンとした顔をして、その後サラサラとメモを書いていた。
何やら「メモメモ……」という言葉が口から漏れている。
勉強熱心だなぁ。
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今後も楽しみにしていてください。これからも頑張ります!