#047 メンバー勧誘中! だが【イケメン】お前は爆ぜろ
キリちゃん先輩が残念ながら帰ってしまった。
見るべきものは見た、ということだろう。
俺はまだまだ見足りないのでその後も勧誘候補を見ていく。
上級生の先輩たちに混じって授業を受ける一年生を観察。
俺も一年生なのに何故かこっち側にいる不思議。
周りの先輩たちも心なしか複雑そうな顔をしていた。
キリちゃん先輩のおかげで勧誘してくる先輩がいなかったのは助かった。
さすがにAランクギルドを蹴った俺を自分のギルドに誘うほど自惚れている先輩はいないようだ。
キリちゃん先輩ありがとうと感謝しながら薫陶を受ける一年生たちを見ていくと、あることに気がついた。
「俺、誰が良いとか全然わかんないじゃん…」
そういえば、と。
俺はゲームの〈ダン活〉は知っている、この世界の人たちの誰より知っている自信がある。
しかし、実際にこの人才能があるとか、全然分からない。
おおう、一気に暗礁に乗り上げた。
スカウトするとして、何を基準にして見たらいいかわからない。
キリちゃん先輩は筋が良いとか言っていたが、俺にはさっぱりだった。
となると、出来る事は限られてくる。
「いっそ見た目で選んじゃうか?」
〈ダン活〉はキャラクターをメイキングして目的の職業に就かせていた。
そこに才能なんてものは無く、あるのは「見た目」と「職業」の二種類だ。
ならば、職業には俺が就かせられるんだから才能とか関係なく、自分が良いと思ったキャラを採用する方が俺に合っている気がする。
よし、とりあえずそっち方面でやってみるか。と思った時、背後から近づく気配に気がついた。
「また会ったわね」
声を掛けてきた方に振り向くと、そこにいたのはジョブ計測の時、後ろに並んでいた気品ある女子、シエラだった。
「シエラ! なんか久しぶりに会った気がする」
「そう? 入学式のジョブ計測以来だからまだ一週間よ?」
相変わらず気品に満ち溢れたしぐさがこれでもかと似合う。
久々だと思ったが、まだ一週間しか経っていなかったか。
濃い生活してたんだなぁと実感する。
「今日は何しに来たの? あなたもう職業には困らないでしょ?」
ジョブ計測の時に見せた大量のジョブ一覧。それを特等席で見ていたシエラが問うてくる。
ここは一年生が職業の発現条件を満たすための校舎だ。【勇者】になった俺がここにいるのが不自然に映ったんだろう。
咎めるような口調に思えるが、彼女の顔を見れば純粋に不思議がっているのが分かる。
「スカウトだよ。ギルドを作ろうと思ってな。同級生を誘いに来た」
「ギルド? ずいぶん気が早いのね。一年生がギルドを作れるようになるのはまだ先じゃない?」
「いや、明日初級中位に潜るし、もうすぐ条件は満たせるんだ。後はメンバーだけ」
「え? もうそんなに進んでるの? レベルは?」
「【勇者LV20】」
「嘘…」
何故か目を大きく見開いてシエラが絶句した。
なんだ? 俺の様子を窺っていたのか一年生たちも今の話を聞いてざわめきだした。
中にはすごい羨望の眼差しやキラキラした視線を送ってくる奴までいる。
そこで俺は気がついた。
あれ? これってもしかして「俺、何かやっちゃいました?」ってやつなのか?
やっべ、異世界転生物のテンプレネタを無意識にぶっ放してたらしい。
勿体無い! 狙ってやっていればもっと楽しめたのに!
「……さすがね。私ももたもたしていられないわ…」
「ん? そういえばシエラはタンク希望なんだよな?」
「そうね。でも残念だけど私が目指す職業はまだ発現していないのよ」
そう言って息をつくシエラは少し憂いが見え隠れしていた。
察するに、職業の発現がどうもうまくいっていないらしい。
「そうか。ちなみに、何を目指しているのか訊いてもいいか? もしかしたら力になれるかもしれないぞ?」
「…………」
シエラが黙った。なんだ? 何故か言いにくそうな様子だが。
「……大丈夫、よ。それに特殊な職業だし、あなたが知っているとは思えないもの」
「ほう?」
俺が知っているとは思えない、ね。
俺はその含みある言い方に、平民が知らない職業であると当たりをつけた。なんと言うか、すがっても訊きたいというような雰囲気をシエラからは感じるんだ。なのに訊くことをしないというのは多分、特殊な系統の職業ってことなんだろう。
〈ダン活〉には「人種」というカテゴリーがある。職業の発現条件の中にはこの「人種」が含まれているものもあり、その職業には特定の「人種」でしか就く事ができない。
有名どころで言えば【プリンセス】。これは「王族」「姫」のカテゴリーを持つ人種でしか取得することが出来ない。
そして「人種」は貴族などの特権階級に多く見られるカテゴリーだった。
例えば王侯貴族は7種あり、それぞれの爵位でしか獲得できない、特殊な職業が存在する。
「騎士爵」なら【騎士】系の職業全般。
「男爵」なら【イケメン】【アイドル】系。
「子爵」なら【ショタ】【ロリータ】系。
「王族」なら【プリンス】【プリンセス】系。
と言った感じだな。どれも下級職の中でも上位に君臨する優良職業ばっかりだ。
だが【イケメン】、お前は爆ぜろ。
そして、シエラは見たところ、伯爵家の令嬢。
「伯爵」のシンボルマーク〈白の羽根飾り〉が確認出来る。
「伯爵」「姫」でタンクになりたいって言ったら、俺は一つの候補が思い浮かんでいた。
もしシエラが俺の思っているとおりの職業に就くのだとしたら、是非うちのギルドに来てほしい。
発現条件を教えてもいいと思う。
しかし、シエラが断っているのに無理矢理押し付けるのも恩着せがましいか…。
教えた後はシエラにギルドへ入って欲しい。無理矢理はいけない。
さてどうしたものか。
とりあえず、説得を続けてみるか。
「俺なら力になれるかもって言うのは本当だぞ? 俺は、……いや、少し場所を変えるか」
説得しようかと思ったところ、いつの間にか注目を集めていたようだ。
俺はシエラの手を引いてその場から立ち去った。