#445 ついにハンナがスキルを超えたらしいぜ?また?
「ふぃー。良い仕事したでぇ。ゼフィルス兄さん見てやこの剣、良い出来やと思わへんか?」
「〈水流紋の短剣〉か。普通のドロップ品より攻撃力の値がかなり高いな。すげぇ良い出来だ」
「せやろ~」
完成したばかりの短剣、水流を思わせる文様が入った〈水流紋の短剣〉をアルルとハンナが自慢げに見せてきたため、『鑑定』アイテム〈解るクン〉で見てみると、数値が高く、素晴らしい出来だというのがわかる。
生産品はドロップ品と比べ、作製者の技量で数値が変動する。腕が悪ければドロップ品より数値が低くなるし、よければ数値は高くなる。
そしてこの〈水流紋の短剣〉はかなり高かった。
今回の目的、マリアの仕事の1つに生産の作業工程の把握というものがあったため、あの後ハンナは何をしているのか不思議に思いつつ、そーっと見学していたらこれが出来た。
ハンマーで叩いて炉に入れてスキル使ってを繰り返したら、あるときシャキーンと出来上がった。
作業工程、20分くらい?
途中まで俺の知っている鍛冶だったが、後半は不思議な光景だったぜ。
ここはEランクギルド〈アークアルカディア〉のギルド部屋の一室。
そこをアルル専用の鍛冶工房に改造していた。炉とか金床とか色々揃っている。
どうやらアルルとハンナはここで、中級中位ダンジョンでたまに〈銀箱〉でドロップするレア装備の〈水流紋の短剣〉を作っていたらしい。
〈金箱〉産はまだアルルの技量的に難しいらしく、今はこれが精一杯とのことだ。
まあ、それはいい。
アルルの仕事のひとつに俺たち〈エデン〉と〈アークアルカディア〉の装備の生産や売り物の生産などが含まれている。だからそっちは分かるのだが、
なんでハンナまで鍛冶やっているのと。そっちは分からない。
「いやー、ハンナはん本当に凄いわ。鍛冶に興味あらへん?」
「ええ? いえ、私は錬金が専門なので、鍛冶に移るのはちょっと」
「そんなん勿体無いで! ハンナはんが鍛冶し始めたらうちなんて簡単に抜かせるで、ドワーフより凄腕になるで!?」
「そ、そう言っていただけるのは嬉しいけれど、ゼフィルス君には錬金たくさん教えてもらっているから」
「そうか……、そうかぁ……。うーん、おしいなぁ。ハンナはん、鍛冶がしたくなったらいつでもうちに声掛けてや、力になったるで」
「えっと。ありがとうございます?」
なんかアルルのテンションがむっちゃ高い。
いやいや、我がギルドの錬金担当を引き抜くのはやめてもらおうか。
「アルルそこまでだ。ハンナは俺のだ。やらんぞ」
「お、俺の!?」
「むー、さすがにゼフィルス兄さんを敵に回すのは得策やあらへんかぁ」
ハンナが何か目を見開いて驚いているが、何を驚いているんだと言いたい。当たり前だ。
最初からハンナに目をつけていたのは俺である。絶対に他にはやらんぞ!
と、それは当然として、まだ事態が把握できていない。
なんでアルルはハンナを鍛冶に引き抜こうとしていたんだ?
「というか、なんでハンナはアルルと鍛冶してたんだ?」
「よく聞いてくれたわゼフィルス兄さん! 聞いてや! もうな、ハンナはんが凄いねん。何が凄いのかってもうハンナはん、金属を打つの、凄く上手いねん。もう信じられへんよーあはははは――!」
「あぁ~」
なんかそれだけで全てに納得しそうになった。アルルの熱弁は続く。
「うちはな、スキルの恩恵もあるし補助も多いし、何より本職なんや。なのにな、なぜかハンナはんの方が打つの上手いんや、的確なんや!」
ついにハンナがスキルを超えた!?
ハンナの打つ腕は達人の域に達しているのか?
ただのLV差であってほしい。
ハンナのDEXは400を突破しているし不思議ではない、そう思おう。
「ある日うちは見た。ハンナはんがメイスを振り下ろしている光景を! 感銘を受けるとはまさにあのことや! それでその打つ腕を見込んで『相槌』を頼んだんや」
やっと全貌が見えてきたぞ。
すべてはハンナの打つ腕のせいらしい。なんでそんなに腕が上がっているのかは不明。
そう、不明だ。気軽に触れてはいけないぞ?
「そしてこの〈水流紋の短剣〉がその証拠! ゼフィルス兄さん、こっちと見比べてみてや、ちなみにこっちの〈水流紋の短剣〉はうちが1人で作った作品な」
「ほほう。どれどれ?」
目の前に出されたのは2本目の〈水流紋の短剣〉。こっちはアルルが1人で作ったというが、〈解るクン〉で見てみると。
アルル作。
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〈水流紋の短剣〉:〈攻撃力65〉
〈氷属性攻撃10%上昇〉
〈『水流マッハ斬りLV3』『斬氷剣LV3』〉
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ハンナとの相槌の合作。
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〈水流紋の短剣〉:〈攻撃力70〉
〈氷属性攻撃15%上昇〉
〈『水流マッハ斬りLV3』『斬氷剣LV3』〉
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攻撃力、そして属性攻撃の値が伸びているのが分かる。
下の合作の方なんて中級中位〈金箱〉産の性能に足を踏み入れている。
これはいったいどういうことだろうか?
確かに、【鍛冶師】系等の〈スキル〉には『相槌』スキルというのが存在する。
しかし、これは同じ【鍛冶師】系等の職業持ち同士が4人まで同じ装備を打つことが可能という効果で、相槌した4人のステータスやスキルLVによって出来上がりの品の数値が大幅に変動するというすんばらしいスキルだ。
非常に強力な装備を始め、難易度の高い装備を作るときなど『相槌』をすると成功率も上がり、能力も上がったりする。もちろん、その【鍛冶師】たちの能力にもよるが。
逆に質が大きく下がるということもあるので【鍛冶師】はしっかり育てよう。
話が脱線した。
というか、多分アルルは『相槌』を使ったのだろう。それはいい。
【鍛冶師】でもないハンナでも装備の能力値が上がっているのと、それが一番聞きたい。
なんで?
ゲームではそもそも『相槌』スキルを持っていないと鍛冶の工程に参加できない仕様だった。
ということはだ。もしかしたらリアルでは、スキル『相槌』を持っていなくても参加すれば武器の良し悪しに影響が出る、そういうことなのか?
これは検証してみなくてはならない。
もし本当にそんなことが可能であれば、可能であれば……、あれ? 可能であればなんだ? 何が出来る? 別に【鍛治師】4人居れば事足りる気が……。まあいい。それはのちのち考えればいいのだ。
とりあえず今は、新たな〈ダン活〉の可能性に飛び移ろうではないか!
ちなみに〈水流紋の短剣〉はカルアのメインウェポンになる事に決まった。




