#046 教えてくださいキリちゃん先輩!
「そういえばキリちゃん先輩も、ここへは勧誘のために来たのか?」
「うむ。今年の1年生は粒ぞろいと聞いたのでな。ゼフィルス君のような人材が埋もれてないか実際に確かめに来た」
「俺みたいな、か。でもキリちゃん先輩、俺のことどこまで知ってるんだ? 言っちゃなんだが、Aランクギルドのサブマスター様が直接勧誘を掛けるにはイマイチ格が足りてないと思うんだが…」
俺の感覚で言えば、Aランクギルドとは精鋭中の精鋭が集まるギルドだ。全て上級職で固めるのは当たり前だし、下級職が混じっているだけでBランクの連中に足を掬われかねない。
たとえ俺が【勇者】だとしても下級職ではお話にならないのだ。せめて俺が上級職に上級転職してから勧誘するのが普通のはず。
しかし、ここはリアル〈ダン活〉。上級職が満足に居ないというのを以前聞いた。
すると俺の感覚とかなり齟齬があるだろう。正直、リアル〈ダン活〉のAランクがどんな状況なのか、その感覚だけでも掴んでおきたかった。
「何を言うか。【勇者】という希有な職業もさることながら、そんな伝説でしかお目にかかれないような才能に胡座をかかず、精進する心際がそなたにはある。聞いたぞ、同期最速の速さで〈初心者ダンジョン〉を攻略。同じく最速で〈初級下位ダンジョン〉を二つも攻略し、もうすぐ〈初級中位ダンジョン〉に挑むだろうとな」
わお。そこまで広まってんのか俺の噂は。
さすがについさっき〈静水の地下ダンジョン〉を攻略し終わったということは話に出てこないが、どうやら俺は自分が思っている以上に注目されているようだ。
さらにキリちゃん先輩の話は続く。
「そんな才気煥発な人物。どうして勧誘せずにいられようか。話してみても思ったが、そなた慢心とは無縁だな? いつまでも走り続けられる人物は壁で止まらぬ限り大成すると決まっている。そしてそなたは壁をまったく壁とも思っておらないだろう?」
うわ、すっげ。キリちゃん先輩の褒め殺しとも取れる言葉の連打に加え、キリちゃん先輩の観察眼も超すげえ。
というかAランクギルドのサブマスターがそんなにべた褒めしちゃって良いの?
なんだこの人? 俺を有頂天にさせたいのか? そんなに褒めると調子ノルよ? マジで。
この褒め殺しに俺はどう返せばいいのか?
謙遜するか? 受け入れるのか? 俺の出した答えは。
「あ、さっき〈静水の地下ダンジョン〉も攻略し終わったわ。明日から〈野草の草原ダンジョン〉に挑んでくるぜ。もしかしたらそのまま攻略しちゃうかもね」
調子にノルだった。
だって仕方ないよ。べた褒めされるの気持ちいいもん。
ゲームの時は誰も褒めてくれなかった。むしろ灰ゲーマーは白い目で見られる側だったし。
ゲームやって褒められるとか最高じゃん!
「ほれ見たことか。入学して一週間程度で初級中位ダンジョンまで攻略するなんて聞いたことが無い。私はゼフィルスくんを勧誘出来なかった事が残念でならないよ本当に」
しかしキリちゃん先輩は特に気にした様子も無く褒め言葉を続けるせいで、俺はとても気分が良くなった。
なんかその後も持ち上げられまくって当初の目的を半分忘れてしまったくらいだ。
キリちゃん先輩が、「ほう、あの子はなかなか筋が良いな」と言って俺じゃない一年生を褒めたところで、そういえば俺も勧誘に来たんだったと思い出した。
「キリちゃん先輩、良い人材がいたのか?」
「ああ。元々ギルドメンバーが目を掛けていた一年生がいてな。今日は私が直接見てギルドに勧誘するか決めようと思っていた」
ああ、なるほどAランクギルドのサブマスターがなんでいるのかと思ったら最終面接みたいな感じだったのか。それで、その人はお眼鏡には適ったのかねぇ?
「あの手前にいる背の高い男子生徒だ。名前はセーダン。闘士系の職業でも中の上ランクと言われる【剛力闘士】の条件をすでに満たしているそうだが、彼はその上の【大拳闘士】を目指しているらしい」
【闘士】系は主に素手で戦う体術系の職業だ。アタッカーよりだが、自己バフ、自己回復、さらに避けタンクまでこなせるなかなかの職業だ。
キリちゃん先輩の視線の先には角刈りで日焼けした肌が目立つ高身長のボクサーみたいな男子学生がいた。
へぇ。なるほど。全然分からん。
さすがにゲームとリアルでは全然動きとか違うので筋が良いと言われても分からない。
でも彼、あの特訓の仕方じゃダメだな。【大拳闘士】に就きたいならモンスター相手に特訓しないと…。でも素手だと危険だから【大拳闘士】に就きたいなら一度別の職業に就いてから転職する方法が推奨されていた。もしくは高い金に物言わせて中級以上の拳系武器を装備するとかな。
「【大拳闘士】は成り手が特に希少だという。彼は筋が良い、是非頑張ってほしいものだ」
そう言ってキリちゃん先輩は締める。
どうもキリちゃん先輩は褒めて伸ばす方針のようだ。他人を褒めることに躊躇が無いというか、抵抗が全くなく実直に褒めてくれるからだろう。本当に褒めてくれている実感が湧いてきて気持ちいい。
ふむ、彼は手助け候補に加えておこう。Aランクサブマスターが認める実力者だ。もしかしたら将来共にギルドメンバーになることもあるかもしれないからな。
その後もキリちゃん先輩から何名かの優秀な一年生を聞くことが出来た。
俺ばかり教わっては悪いので何かお返しをすると言ったのだが、「上級生は下級生を導くものだ、気にしなくて良い」と男顔負けのイケメン台詞で封印されてしまった。
しかし、俺の気持ちが収まらないので、いつか何か役に立つ情報でもリークしようと思う。
キリちゃん先輩から教えて貰った優等生を見ていき、ギルドメンバーに加えるべきか検討していく。
誤字報告ありがとうございます。とっても助かります!