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#045 Aランクギルド240人の1席に誘われる。だが断る




 マリー先輩の店を出たらもう16時だった。


 わりといい時間かもしれない。

 その足で俺は校舎に向かった。



 やってきたのは運動系施設の集まる校舎だ。

 多くの1年生が職業(ジョブ)取得のために選択授業を受ける中で、ここは主に〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉を希望する学生が多く集まる場所だ。


 迷宮学園は、ダンジョン関係の仕事に着く事を目指す学生を育成する機関だが、収容人数が2万人という超マンモス校という事もあってそれぞれの専攻課目ごとに学舎を分けている。

 〈ダンジョン攻略専攻〉とは、そのままダンジョンを攻略し、その資源や情報を持ち帰る専門家を目指す専攻だな。その中でも戦闘課ならモンスタードロップを獲得するのが専門だ。

 他にも〈採集課〉や〈調査課〉、〈罠外(わなはずし)課〉などの部門があるが、それはまた別の校舎だ。


 ここに来た理由は単純で、ギルドメンバー、それも戦闘関係を希望する学生を勧誘するためだな。


 いくら俺が好きな職業(ジョブ)に就かせられると言ってもまったくその気が無い人を戦闘職にするのはダメだ。せめてやる気のある人じゃないとな。

 ゲームならともかく、ここはリアル世界で、彼ら彼女らにも人生が掛かっている。良いジョブがその人の幸せとは限らない。


 という事で、出来るだけその人の希望に沿う形でメンバーを集めたい。

 手始めとして〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉にやってきたわけだが…。


 回りを見ると、俺と同じ目的だろう制服に緑と赤の刺繍をした上級生たちがいるわいるわ。

 上級生たちも将来有望な人材を探しに来ていたようだ。皆考える事は同じだよな。


 俺が入ったとき一瞬上級生全員の視線がこっちを向いた。

 しかし、その半分がすぐに目を逸らし、残り半分がこっちを向きながら仲間内でヒソヒソと何か話している。


「もし、君は【勇者】で相違(そうい)ないか?」


 と、周りを観察していたら、何やら古風な話し方で声をかけられた。

 振り向くと、袴姿で黒髪ポニーテールをした、多分先輩だろう。身長が高めでスラリとした美少女が立っていた。

 彼女に話しかけられたと理解したところで周りがざわめいた気がしたが、しかし俺はそれより目の前の美少女が可憐過ぎて気にならなかった。


「ああ、確かに俺は【勇者】で相違ない…」


 おっと、見惚れて釣られて変な事を口走ってしまった。恥ずかしい。

 しかし、先輩は気にした様子無く話を続けだした。スルーありがとうございます!


「失礼したな。私はキリエ、三年生だ。どうかキリちゃん先輩と呼んでほしい」


「キリちゃん先輩……」


 生真面目な堅物かと思ったら愉快な先輩だった。


 少し呆気に取られていると、キリちゃん先輩がジッと俺を見つめてくる。

 なんだろうか? 美少女にそんなに見つめられると照れるんだが……、ってああ、俺の自己紹介待ちか。


「これは丁寧にどうも(?)。俺はゼフィルス。今年入学したばかりの一年生だ。ゼフィルスでもゼフィでも好きな風に呼んでくれ」


「ではゼフィルスくんと呼ばせてもらおう。よしなに頼む」


「こちらこそ。よろしく」


 とりあえず自己紹介を済ませると、キリちゃん先輩は用件を語りだした。

 と言っても、ここにいる以上用は一つしかない。俺も誘われる側の一年生という事だ。


「私はAランクギルド〈千剣フラカル〉のサブマスターを務めている。単刀直入に言おう。我々のギルドへ入らないか?」


 キリちゃん先輩が勧誘を掛けたとたん、また周囲にざわめきが起こった。


 Aランクギルドのサブマスターが直接勧誘とはなかなかにすごいことだ。

 先ほどヒソヒソ話をしていた連中なんて「先を越された!」みたいな顔をしている。

 なるほど、あれらは俺に勧誘を掛けようとしていた連中か。そしてもたついている間にキリちゃん先輩という大物が話しかけてしまった。もう勧誘の目は無い。


 俺は少しだけ驚いた。

 Aランクギルドというのは極一握(ごくひとにぎ)りのエリートだけが昇ることができる、かなり狭き門だ。


 Cランク以上のギルドはハウスの関係上、数に上限がある。Aランクギルドはその数、僅か6ギルド。

 Aランクは最低人数10人最大40人参加可能だ、つまりは最大で240人しかその地位に就く事を許されていない。

 迷宮学園に通う2万人の中の240人というエリート枠、その一つの席に俺を勧誘したというのだから俺が驚いた理由も分かるだろうか。


 俺を買ってくれる事は嬉しいが、しかしそれを受け取るわけにはいかない。

 いきなり高ランクから始まる育成RPGなんて、つまらないからな。


「大変ありがたい誘いだが、すまない。俺は自分でギルドを作りたいんだ」


 俺が断ると、また周りがざわめいた。耳を澄ませば「ありえない!」という声が多数聞こえる。

 しかし、先輩は少し残念な顔をしただけだった。


「そうか。いや、いきなりですまなかった」


「いいや。誘ってくれた事は嬉しかったよ。それに光栄にも思う。だけど、これは俺のこだわりなんだ」


「ふふ、そうか。いいな。ますます気に入った。しかし本当に残念だ、5月までならまだ枠がある、もし気が変わったら尋ねてきてくれないか?」


「期待には応えられないと思うがな」


 俺がにべもなく断ったというのに、キリちゃん先輩は何故か可笑しそうに微笑んだ。





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