#044 クエクリア!優しいスコップとアーリクイーン黒
『クエスト〈流通が滞っている品を納品せよ〉が達成されました』
「助かったわぁ。兄さんおおきにな。もうしばらくは手に入らん思ってたんや、これで色々捗るわぁ」
「こちらこそ、思ったより高値で買い取ってもらえて助かるぜ」
二人してホクホクとした顔で微笑む。
今回〈石橋の廃鉱ダンジョン〉の販売額は310万ミールになった。やはり『発掘』が効いたな。
寡黙な先輩は、必要な物以外あまり手を付けなかったので素材はかなり余っていた。マリー先輩に【勇者】が素材を卸しているという噂もだいぶ広がったようで、今回はすべて買い取りとなった。いやぁ、ありがたいありがたい。
ついでに今まで買い取ってもらえなかった素材も、欲しがっている奴がいるとのことでそれも再度査定に出すことになった。
素材を渡してマリー先輩から、ミールを〈学生手帳〉に入金してもらう。
初級下位素材なんてしばらくすれば大きく値下がるだろう。今のうちに大きく稼げてラッキーだったぜ。
そして、クエストを達成したため、追加でもう一つ報酬があった。
「ほな、これがうちら〈ワッペンシールステッカー〉の利用権10枚や! 受け取ってくんな兄さん」
「おう。確かに頂戴した。今は用事も無いから、また今度使わせてもらうぜ」
利用権を大事に〈空間収納鞄(容量:大)〉へ収納する。
よっしゃ! タダ券ゲットだぜ!
心の中でガッツポーズを取る。
それと一つ思い出した。
「明日からは初級中位行く予定だけど、素材は買い取ってくれるか?」
「ええよー。ボス素材、多めに卸してくれはるんやろ? なら大歓迎や」
「おーけー。それじゃ、ボス素材マシマシで持ってくるわ。〈野草の草原ダンジョン〉に行く予定だから」
「お! んじゃ『採取』系のアイテムがいるんやない? うち良いの持ってんで」
裏に引っ込んだマリー先輩が持ってきたのは何の変哲も無い小さなスコップだった。
「これな、なんと金箱に入ってたスコップなんよ」
「マジで!」
なんと何の変哲も無いこのスコップが、あの〈金箱〉産!
〈金箱〉の宝箱はレア物確定。つまりこの見た目は普通のスコップもなんらかのレア付与がされているのだろう。
〈優しいスコップ:『採取LV3』『品質上昇(大)LV4』『量倍』〉
「おおお! マジで! こりゃすげぇな!」
スキル3つ付与。スキル3つ付与だぜ!
天空装備でさえシリーズを全部揃えることでようやく1つスキルが付くレベルと言えばスキル3つの価値が解るだろうか?
まああれは装備、こっちはアイテムなのでスキルの付き方にかなり違いはあるが、それでもスキル3つはかなり強いし、レア度も相当高いだろう。
特に『量倍』。これは単純に採取量が倍になるスキルだ。一個採取したら特別にもう一個付いてきます。すげぇ。
「マリー先輩が当てたんですか! すげえです!」
思わず敬語で敬ってしまうほどの強運だ。
欲を言えば『採取LV3』をもっと高レベルで欲しかった。LV3では初級上位までしか使えないんだ。
しかし【魔道具師】などならアイテムのスキルレベルを強化することも出来る。手に入れておいて絶対損は無い一品だ。欲しい。
「ふふふん! 先輩のすごさが少しは分かったやろか? 今まで取っておいてんけどな、うちらはもうダンジョンに潜らんかんな、少し埃を被っててん。兄さんなら譲っても良さそうや思うたんや。ちょうど金も持っとるしな」
「おいくらで!?」
「ずばり1000万ミールでどや!」
「買います!」
速攻で購入を決めた!
そんな金ないけどノリで言いました! でも本当に欲しいです!
さすがはダンジョンアイテム。金額が天井知らずだぜ。
初級でしか使えないアイテムが1000万ミールもする。さすがは〈ダン活〉の世界。
「ローンは組めますか!?」
〈ダン活〉にローンなんて無い。
でもせっかくなのでノリで続行。
「はっはっは! 一括ニコニコ現金払いでしか受け付けんわ!」
先輩もノリが良い。〈ダン活〉に現金なんて無い。
全部学生手帳一枚で精算する学園だ。
ここからさらに話を膨らませてノルのも乙だが、話が進まなくなってしまうのでそろそろ真面目に話をしよう。
「兄さんもノリいいから、ついノッてしまったわぁ」
「先輩には敵わないさ、それでそのスコップは本当のところいくらなんだ? さすがに1000万ミールは持ってないぜ?」
「100万ミールでええよ。金箱産とはいえうちの使い古しやし、新品なら狙ってオークション出せば1000万ミールはギリ届きそうだったんやけど、さすがに初級でしか使えないスコップで中古やとねぇ」
お値段10分の1。しかし、俺の感覚から言えば美少女のマリー先輩からの払い下げ品だとプレミアが付きそうな気がするんだけど、本当にその値段で良いの? 買うよ? 言わないけど。
「じゃ、ありがたく買わせてもらうぜ」
無事100万ミールで〈優しいスコップ〉を購入。これで俺の全財産は180万ミールだな。
装備とか揃えるとすぐに飛ぶ金額だ。もうちょっと稼がないとなぁ。
〈優しいスコップ〉を〈空間収納鞄(容量:大)〉に収納していると、マリー先輩が何かを思い出したように言った。
「そうや。ハンナはんの体装備が出来てるで、それも一緒に持ち帰るかぁ?」
昨日採寸したのにもう出来たのか。さすが、職業の恩恵、仕事が早いぜ。
マリー先輩が再び引っ込み、黒をベースにしたワンピース風の体装備を持って戻ってきた。
「どや」
マリー先輩がドヤ顔する気持ちも分かった。
これは、なんというかチャイナ服のようなフィット感のある、身体の線が出るような上半身にロングスカートが組み合わさったワンピース、とでも言えば良いのか。
先日、ある機会にハンナが隠れ巨乳ではないかと疑いを持ってしまった俺としては、とても歓迎したい一品だった。
〈アーリクイーン(黒):防御力20、魔防力13、『打撃耐性』〉
性能もかなり良い。さすが〈クマアリクイ〉のボス素材だ。打撃に耐性が付いているのも素晴らしい。ボスとはいえ初級下位素材でここまで服装備系の防御力を稼いでくれるとは思わなかった。
マリー先輩、かなり奮発して作ってくれたようである。
「こりゃすごい。初級上位まで現役で行けるぞこれ、ここまで良い性能で作ってもらえるとは思ってなかったわ」
「ふふふん。うちらのギルメン8人で仕上げたかんね。初級下位素材を納品してくれた子やって言ったら皆張り切ってしまってなぁ。皆あれもこれもって強化していたら防御力なんて20まで届いててん、うちらもびっくりしたわ」
なんか知らないところで大事になっていたらしい。
「あん時は笑いが止まらんかったわぁ」と思い出しニヤけしているマリー先輩から装備を受け取り〈空間収納鞄(容量:大)〉に収納して、20万ミールを支払った。先輩方8名による合作でここまで防御力のある装備となるとかなりお安い。良い買い物だった。
今回のこの支払いは俺のおごりだ。以前〈金箱〉で俺の〈天空シリーズ〉を総取りしてしまったからな。その穴埋めも兼ねている。それに、男なら一度は美少女に可愛い服をプレゼントしてみたいのだ。ちょっと色っぽいやつを。
明日装備を着てもらうのが実に楽しみだ。