#413 対人戦一発目、出会いがしらの総攻撃。
初動が終わり、中盤戦。
ここからは基本マス取りがメインで進めることになる。しかし、様々な展開が起こりえるために気が抜けないのがこの中盤戦だ。
俺たちが巨城優勢で立ち回り、逃げ切るか。
相手が巨城劣勢から対人戦や巨城のひっくり返しで巻き返すか。
数多くの展開が起こり得るだろう。
だが優勢である〈エデン〉は無理に差を広げる必要はない。
まずは基本のマス取りから進める。
小城マス有利は巨城1個分の価値がある。
例えばお互いのチームが巨城を同じ数、3つずつ保持していたとして、そうなると勝敗を決めるのは小城の保有数だ。
故に、小城の取りあいには負けられない。特に巨城が偶数あるフィールドでは小城の保有数が勝敗を分けるファクターになりやすいからな。
巨城の数が有利な〈エデン〉は無理をすることもなく、小城マスを稼げば自然と優勢に進められる。
「まずは相手の出方を見つつ俺たちはマス取りを始めよう。予定通り俺とカルアは西側。ルル、シェリア、リカは本拠地を見守りつつ中央付近の小城を頼む」
「あい! 了解なのです!」
「承りました」
「了解した。任せてほしい」
〈北西巨城〉を先取したところで素早く指示を出すと、ルル、シェリア、リカの順で応えるとそのまま東に進むような形で観客席を迂回していった。
ここでAチームは二手に分かれ、別行動だ。
俺とカルアは来た道を戻るようにして南下しながら小城マスを取っていく。
今回、ギルドバトルのローカルルールの一つ、〈敗者復活〉が適用されているため、俺たちが積極的に対人戦を仕掛けるのは終盤だけでいい。
10分したら復活しちゃうからな。
終盤、残り時間10分を切ったら対人戦解禁だ。
まあ、それまで相手が何も行動を起こさないはずは無いとは思うが。
「カルア、まずは相手が北上してくるかもしれないからルートを潰そうか。さっき巨城のルートを潰したときと同じように、壁から観客席まで線を引いてしまおう」
「ん、ラジャ」
障害物は有効に使おう。
迷路状のフィールドは横幅のマスが少なく、横に遮断するようにマスを取られると侵入不可となり、保護期間が明けるまでの2分間は通れなくなる。
障害物があるとこのように遮断しやすいのだ。障害物はこうやって使う。
案の上、敵さんは北上して中央へ進出してきたので〈中央西巨城〉と〈南西巨城〉の中間辺りで保護期間で道を遮断し、通行を止め。
その間にそこから北のマスはほとんどゲットした。
よしよし、まずは小城マス有利だ。
スクリーンを見ると少しずつ〈エデン〉が小城Pをいい感じに稼げているのが分かる。
相手側との差は200Pか。いい感じだな。
相手は焦っているはずだ。
巨城で負け、小城でも負けているとなれば焦らないわけがない。
何か手を打ってくるだろう。
いや、これは昇格試験だ。あえて手を打たず、このまま〈エデン〉に花を持たせる気かもしれない。
しかし、その考えは次の相手の行動で否定されることとなる。
「ゼフィルス。あの人たち、変」
「動きが変って言いたいのな。変な人って意味じゃないよな?」
「ん、そう」
カルアはたまに言葉足らずで変なことを口走るときがあるから油断できない。
今回は、どうやら相手が変な動きをしているというのを俺に知らせたかったらしい。
当然ながら俺もそれに気が付いている。
相手は小城の取得を一時的に縮小化し、人手を集めて中央の観客席を東側から回りこもうとする動きを見せていた。
「あー、今回は〈敗者復活〉ルールがあるからな。まさかしょっぱなから本拠地を狙うか」
「ん? 本拠地」
「そう。相手は俺たちの本拠地を落とそうとしているんだ。ということで防衛に向かうぞ」
「ん。わかった」
俺たちは西側で小城マスを取りまくっていたが予定変更。
進路を変更し、一度北側に出て観客席を回りこむ。目的地は〈中央東巨城〉付近だ。おそらくその辺りでぶつかるな。
途中の本拠地近くでさっき別れたルル、シェリア、リカを見つけたので声を掛ける。
「お、リカ! 敵が東側から攻めてくるから防衛する。付いてきてくれ!」
「なんだって! 了解した。行こうルル、シェリア」
「大変なのです! ルルが頑張って防いでやるのですよ!」
「はう。今日もルルは凛々しくて可愛いです」
シェリアがのんきなこと言っているがさすが〈エデン〉メンバーだ。すぐにこちらに合流し、再びAチーム一丸となって東に向かう。
相手は、南側にいるため観客席のせいで確認はできないが、このまま進めばぶつかるはずだ。
「そういえばBチームは?」
「Bチームなら北側を一色に染めていますよ」
「こういうときリーナの通信が欲しいな。まあ、無い者ねだりをしても仕方ない。カルア、ひとっ走り呼んで来てくれ」
「ん、分かった。『爆速』!」
俺が聞くとシェリアが素の表情で答えてくれた。さっきまでルルにメロメロだったのに、変わり身が早すぎる。
それはともかくシエラたちは北側にいるらしいのでカルアに行ってもらおう。
そっちまで行くのは少し遠いんだよな。
こういうとき馬車か通信が欲しくなる。
まあ、今回は速さトップクラスの【スターキャット】がいるのでカルアに呼びに行ってもらえば問題無い。
走りながら指示を出し、カルアだけ別れて北上すると横を併走するリカが話しかけてくる。
「ゼフィルス、敵の数は?」
「7人はいたな。おそらく本拠地を落とす気だろう」
「本拠地をか?」
手早く状況を説明する。
ギルドバトルのルールでは相手の本拠地を落とすと相手の所持する巨城を全てゲットすることができる。
その代わり一度落ちた本拠地はHPが5割増しに増えるため、2度目を落とすことが難しくなる。ちなみに2度本拠地が落ちればHPは元の2倍にまで増える。
しかし本拠地を落とせれば、一つ一つ巨城を落とす手間を大幅に省くことができる。さらにポイントで大きくリードすることもできる。
大きなメリットと言えるだろう。だが、そんなことみんな分かっているため本拠地には必ず防衛のための人員を少なからず配置している。
本拠地を落とすためには建物の中から防衛してくる敵を相手に本拠地のHPを削りきらねばならず、少なくない犠牲が出る。
防衛側には遮蔽物があるのに攻撃側には無いためだ。
これは大きなリスクだ、本拠地を相手にすればするほど犠牲が出るのだ。2度目3度目の本拠地を落とす難易度も上げている。
本来なら〈敗者のお部屋〉へ行った者は復活しないルールなので、序盤に犠牲者を出すのは避けるのだ。
ギルドバトルの目的はアピールの場。開始そうそうに退場しては良い印象が残らないからな。
しかし、今回は〈敗者復活〉ルールがある。退場したところで10分すれば復活するので問題なし。
さっさと本拠地落として巨城を奪い、逆転しようという魂胆だろう。
奪ったあと消耗が激しすぎて本拠地を殴り返され全部奪われて失う。なんてこともあるがそれはそれで美味しいからな。お笑い的な意味で。
昇格試験ではいろんなことを経験させようとしてくれているのだろう。
戦闘不能で〈敗者のお部屋〉ご招待もその一つと思われる。
まあ、わざわざ〈敗者復活〉ルールが適応されているのに対人戦をしない試験官なんているわけがないな。対人戦は強制のようだ。
そう、リカに簡略して説明する。
「なるほど。相手の残りの3人は防衛か」
「だろうな。だが、小城マスを放置して本拠地に来るのは、賭けにはなるが成功するなら悪くない戦法だ。相手の本気度が窺えるな」
「ふむ。気合を入れよう。おっと、出てきたな。前に出るぞ」
リカと話していると観客席の角から〈花の閃華〉ギルドがおいでなすった。
人数は、やはり確認したとおり7人のようだ。
その内5人は着流し風の装備をしており、前衛職というのが分かる。
残り2人は支援職と魔法職か?
となれば、狙いはそっちからだな。
「シェリア。後衛を頼むぞ」
「承りました」
「ルルは俺と一緒にリカを援護するぞ! 人数は向こうが多いから無茶はするなよ!」
「あい!」
現在〈エデン〉のメンバーは4人、〈花の閃華〉ギルドは7人。
数の差で大きく負けている。
俺たちの狙いはシエラたちが駆けつけてくれるまでの時間稼ぎだ。
突然待ち受けるように現れた俺たちに〈花の閃華〉ギルドは動揺したようなそぶりを見せた。今が攻めるチャンスだろう。出会いがしらに総攻撃だ!
「総攻撃開始! 『勇気』! 『シャインライトニング』! 『ライトニングバースト』!」
「はあっ! 『飛鳥落とし』! 『焔斬り』! 『雷閃斬り』! 『凍砕斬』! 『光一閃』! 『闇払い』!」
「『古式精霊術』! 『大精霊降臨』! お願いします『グラキエース』!」
「とうー『ロリータタックル』! 『ジャスティスヒーローソード』! 『ヒーロースペシャルインパクト』! 『セイクリッドエクスプロード』! 『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』!」
「へ? ちょ、ちょっと、ごふっ!?」
「ギルマス!? う、うそぉ! 『ブロックソード』! ちょ、おも、重すぎるわ!?」
「『四重封結界』! ってえぇぇぇ!? 一瞬で結界割れたんだけど!?」
「『スラッシュ』! 『ワイドスラッシュ』! 『へヴィースラッシュ』! 『ダブルスラッシュ』! ってダメ! 手が足りない!」
「ま、待ち伏せ!? 『ロングスラッシュ』! 『ラージエッジ』! ちょ、ヘルプヘルプ!」
「ギルマスがやられたわ! ちょ、一旦下がって!」
「撤退撤退!」
敵が角から現れた瞬間、〈エデン〉がいつもの総攻撃を流れるように叩き込むと、阿鼻叫喚が生まれた。
お、おおう。なんか予想以上に大きい手ごたえだったぞ。
人数差あるから一回全力で叩き込んだあとはヒットアンドアウェイで時間稼ぎしようと思ったのに、気が付けば敵が撤退していた件。
おかしいな。ゲームの時はこんなことはなかったんだが。
俺たちと〈花の閃華〉ギルドがかち合ったのが、運が良いのか悪いのか、お互いが死角になっている観客席の角のところだった。もう、ばったりだよ。
しかし、こっちは準備万端だったのに対し、相手は俺たちがこんなところにいるとは思っていなかったんだろう。あたふたしている間に全力攻撃決めたらあっけなく崩れた。
マジか。
しかもルルの『ロリータタックル』によって先頭の1人が崩れ落ちてそのまま総攻撃の餌食になって〈敗者のお部屋〉へ直行。
残り6人は大きくダメージを負いつつもなんとか防いで撤退していった。
なんか耳にギルドマスターがやられたとか聞こえてきた気がするが、きっと気のせいだろう。ギルドマスターは一番強い。こんなことで早々退場なんてするはずは無いのだ。
「待たせたわねゼフィルス! それで、敵はどこよ!」
あ、ラナたちが到着した。
状況が動きました。まずは一当て。
相手の〈花の閃華〉は試験官という立ち位置なため必ず対人戦を仕掛けてきますが、対人戦は相手が逃げ回れば成立するのが難しいです。
これを成立させるにはただ追いかけるだけではダメですね。奇襲や罠などを活用し、追い詰めなければなりません。
しかし、対人戦が成立しやすい状況というものがあります、それが〈本拠地〉攻めですね。
これをされると、状況にもよりますが防衛して相手の戦力を削ぐチャンスでもあるので対人戦が成立しやすいです。
今回〈敗者復活〉のルールが適用されるため、削られてもへっちゃらということで、しょっぱなから強制的な対人を仕掛けてきましたね。
対してゼフィルスは対策としてAチームの3人、リカ、ルル、シェリアを本拠地周辺でマスを取らせつつ、本拠地を攻められたときに防衛できるよう、本拠地に近い位置に配置していました。
今回東側から攻めると早期に発見できたためゼフィルスは時間稼ぎの意味を籠めて打って出ました。
なぜ本拠地で防衛せず打って出たのかはまだ秘密。
西が手薄になりますが、まずは北にいる戦力を持ってくるのを優先していますね。
そして一発目、対人戦。
幸か不幸か、ギルマス退場。
偶然って恐ろしいですね。
ちなみにですが、マスを取らずにフィールドを進むことは出来ます。
しかし、隣接を取っていなければマスは取れないため、いきなり巨城へ突っ走っても意味はなし。
しかし、対人戦などの場合、素早く駆けつけるためにマス取りを無視することはよくあります。
また、マスを取ると図のように色が変わってしまうため、隠密行動するときなどはあえてマスを取らず動くこともあります。




