#389 到着最奥40層。え、周回、やるの? やるよ!
「とうとう到着だな。最下層だ」
「やっと着いたわね」
最下層の救済場所に到着すると、開口一番、ラナがため息を吐きながらそう呟いた。
まあ40層だったからな。ラナだけじゃなく他のメンバー少し疲れが見えている。
さすがに最奥までが長すぎると感じたのかラナの返事に力が無い。珍しい。
いや、疲れているからかもしれないな。後半は特に罠やら厄介な猫やらが多かったし。今回は隠し扉や行き止まり宝箱確保のために最短ルートを外れて遠回りしたしな。
しかしこれから先、どんどん最奥までの道のりが長くなる。
中級上位なら50層。上級下位なら60層。上級中位なら70層。上級上位なら80層になる。
ゲーム初期は攻略難易度が低くすぐに攻略できる設定になっているが、上級は攻略すること自体が大変だ。まず日数がやたら掛かるようになるからな。
ゲームだとゲーム内時間という設定があり、攻略するのに掛かる時間は実際のリアル時間より短縮されていた、それに2倍早送り機能や3倍早送り機能もあったので攻略時間はかなり少なかった。それでも最上級ダンジョンは100層で大体4時間~5時間程度でクリアできる。
しかしゲーム内時間だと数週間から下手をすれば1ヶ月以上掛かった。ダンジョン週間を2回利用しなくちゃ無理ってこともあったからな。
だが、このリアル世界だとリアル時間になるためゲーム内時間の日数がそのままダイレクトに経過する。リアルにスキップ機能や早送り機能は無い。
うーむ、これはちょっと考えないとな。
まあ、後で考えよう。
「でも、これからダンジョンボスね! 楽しみだわ!」
そう、今考えなくちゃいけないのはボス戦だ!
目の前のボス部屋の門を見てラナたちのテンションが上がる。
とりあえず、最奥のボスという餌があればみんな頑張れる。
早速、最奥のボス攻略に取り掛かろう。
「さて、ではボス説明をしようか、時間も無いからな」
時間はすでに17時を過ぎている。周回は時間的に難しそうだ。
AチームとBチームが1回ずつやって終了だな。
そう説明すると各所か不満の声が上がった。
「えー。もうちょっとやりましょうよ」
「そうです。ラナ様の言うとおりです」
「ルルもやりたいのです!」
「ルルがやりたいなら私もやりたいです」
ラナの言い分をエステルが甘やかし肯定し、ルルのやりたいになぜかシェリアが加わる。
すでに〈エデン〉では周回をしないという選択肢は無いようだった。
最奥に着いたら周回。その意識が定着しすぎている!
良いことなのか悪いことなのか。……間違いなく良いことだな!
「ゼフィルス、帰りが少し遅くなるけど許容しましょう。私たちなら心配要らないわ」
「シエラ」
ついにシエラまで向こうに加わった。さすがにここまでの道のりを制覇して周回せずに帰るという意識は彼女たちにないようだ。
ちなみに俺が、安全のために日暮れまでに彼女たちを帰しているのは周知の事実のようだ。
学生の身であるからして夕食を食べ損ねたら大変だ、日暮れまでに帰りましょう。というのは建前で本当は夜道に女の子を歩かせるのが心配だったから日が落ちる前に帰っていたのだが、すでにシエラには見破られている模様。
正直〈エデン〉のメンバーは可愛い子ばかりだ。
夜の道を歩かせるなんて心配が尽きない。
しかし、シエラが向こう側に着いたのだ。もう諦めるしかないだろう。
「そうか。でも21時までな」
「やったわね!」
「ゼフィルス君は女の子に甘いから」
「甘甘よね」
ラナが喜びの声を上げる。ハンナとシエラからなんか言われているが、仕方ない。女子に甘い自覚はある。甘んじて受け入れよう。
「こほん、じゃあAチームとBチームで交互にやるぞ。まずはAチームからだ。途中夕食も交互に取ろう」
咳払いで誤魔化して今後の予定を決めていく。
「ボスだが、ここにいるのは〈猫王のキングニャー〉、通称:〈猫キング〉だ。金の王冠を頭に被り、金の小判が付いた剣を持ち、剣技で遠距離攻撃や範囲攻撃までこなしてくる。後衛も注意だぞ? しかも、近づく者には2匹のお供猫がその行く手を阻むんだ。それだけに留まらずボス本人ももちろん接近戦は得意だな」
所謂遠近両方が得意なモンスターだ。
中級中位からはこういった遠近両方使いが増える。
ほとんどのボスは全体攻撃を使ってくるため後衛も気が抜けない戦いになるのだ。
〈猫キング〉は斬撃を飛ばしてくるぞ。ちょっとカッコイイ。
「後衛組はボスが全体攻撃の構えを見せたらすぐに防御スキルを発動するか防御姿勢をとること。絶対にダウンだけは取られるなよ?」
防御姿勢とは〈ダン活〉のコマンドの1つで所謂スキル無し防御だ。
〈ダン活〉では『通常攻撃』の他に『防御姿勢』『スキル』『魔法』『アイテム』『逃げる』などのコマンドがあった。
『防御姿勢』というのはどんな職業でも使えるアクションで、姿勢中は『ダウン防止』や『ダメージ減少』、『状態異常耐性』などの効果があった。
後衛なんかが狙われたり、弱点属性で攻撃されそうになったり、敵がパワーを貯めているときなんかは『防御姿勢』をとっていれば一回は耐えられる。
一度攻撃を受けると『防御姿勢』は解除されてしまうので連続で攻撃を受けたりするとやられてしまうけどな。あと、『防御姿勢』をしたまま『スキル』や『魔法』など他のコマンドはできないなどのデメリットもあった。
そんな『防御姿勢』を、俺はリアルで再現できないかと考え、特に後衛に伝授していた。
とはいえ実際は『防御姿勢』自体この世界にありふれていて、シエラやエステルが使えたので後衛の子たちにも教えてもらった形だ。
俺も教わったが、なんか普通だった。スキルとは違いアクションを強制する類のものではなく、ただの防御の構えみたいなものだった。
俺の場合だと姿勢を低く構えたうえで腕をバッテンにしたりといった感じでガードするのがしっくりくる。他の人は他で別のガード方法があるみたいだ。
通常攻撃の防御版。
不思議なことにこの『防御姿勢』中は『スキル』や『魔法』は使えなかった。
シエラやエステルから言わせれば、『スキル』や『魔法』が使えなくなれば『防御姿勢』は成功しているとのことだ。
うむむ~。リアル〈ダン活〉が奥深い件~。
閑話休題。
それからいくつかの〈猫キング〉について注意事項を話すと、俺率いるAチームはボス部屋の門を潜った。
今回はフィールドボスの時とは違い、入場制限5人までだ。
Bチームには悪いが夕食のしたくをしてもらい、Aチームは先にボス戦をさせてもらおう。




