#382 道中はハプニングの連続。やっと到着第10層!
〈猫ダン〉に登場する猫型モンスターは可愛く、そして強い。難敵だ。
1層~10層までは二足歩行、四足歩行の猫たちが単体で登場してくる。
この単体というのが恐ろしく、ゲームなどでは集団よりも単体の方がやりにくいとされている。
それは〈ダン活〉でも変わらない。
基本的にゲームでは集団より単体の方が強い、これは不変の真理。
ボスなんかが代表格だな。
というより単体だから強い、のではなく強いから単体で登場するようにしているんだが。話が逸れた。
要は、この猫型モンスターは中級中位ダンジョンの中でも上位に君臨する強さを持っているということだ。他のダンジョンだと普通に集団が出てくるからな。
このダンジョンを最初に選んだ理由。
強いモンスターと最初に戦っておけばその後の戦いが楽になるの法則だ。
〈猫ダン〉の猫たちは単体モンスターにしてはHPは並程度だが、その分回避能力が高く、とにかくやっかい。回避を封じる策が求められる。
難易度的には「力押しだと突破は手こずる」程度の塩梅となっている。
これが中級上位になれば「力押しだと突破は難しい」となるので、ここで今のうちになれておこう。
ということで、〈エデン〉のみんなには、中級中位ダンジョンがどれだけ難易度が高いか、モンスターがどれだけ強いのかを、肌で実感してもらった。
しかし道中はなかなかに苦労の連続だった。
途中猫の可愛さにやられて足を止められるハプニングがあった。
エステルが〈馬車〉で猫を攻撃できないというハプニングもあった。
行き止まりの宝箱の罠をパメラが解除に失敗して猫罠に引っかかるハプニングもあった。(ちなみにパメラはひっかかれて悲鳴をあげた)
ルルが〈猫の付け髭〉と〈ネコミミ〉、〈ネコ尻尾〉を装備して、シェリアどころか女子の多くが和むハプニング(?)もあった。
またハンナがスラリポマラソンをやり始めようとしたので禁止令を出したりもした。
特に最後の件は危なかった。
ハンナが意気揚々と「じゃあ早速〈サンダージャベリン号〉に〈錬金セット〉を設置するね~」とか言いだして、徐に10個ほどの〈錬金セット〉と大量の〈泥水〉が入ったタンクを取り出したので待ったを掛けたのだ。
あまりに自然で滑らかで慣れた動作に、待ったを掛けるのが遅れかけた。
マジ危ない。
「それ待った! ハンナに言い忘れていたけど、ダンジョン中はスラリポマラソンは禁止だ」
「へ? な、なんで!?」
「いや、スライム攻撃したら〈『ゲスト』の腕輪〉が壊れるじゃん」
「そ、そんにゃ!?」
なんてやり取りもあってハンナに悲壮感が漂ってしまったが、概ね順調に進み、〈エデン〉は無事10層までたどり着いた。
「なかなかハードだったわ」
「見た目は可愛いのに、あの攻撃力は反則です」
「攻撃が当たらないのだけど」
シエラが息を吐き、エステルが肩を落とし、ラナが膨れていた。
10層までに様々な猫たちと戦ったことにより三者三様の反応がある。
シエラは基本的に待ち構える系のスタイルなので、そんなに疲れはないようだ。
小型で素早く、連続攻撃の得意な猫だが、その動きに翻弄されることもなくシエラは冷静に『シールドバッシュ』で相手をノックバックさせて、チームに貢献していた。
しかし、エステルとラナには小さい猫型は難しかったようだ。
エステルは両手槍が当たらず苦戦。ラナも遠距離魔法が当たらず、途中からバフとヒーラー役だった。ズドンと攻撃したいラナからすれば不満だったのだろう。
「ここは相性が顕著に出るダンジョンだからな。中級中位からはこういうダンジョンが一気に増える。やりづらかったり、攻めの手が限られていたりな。そういう場合でもチームに貢献できることを探すのも重要だぞ」
「それは分かってるけど……、むぅ~」
頭では分かっていてもズドンとやりたいラナ。気持ちは分かるけどな。
ズドンと高威力魔法を叩き込むって気持ち良いからなぁ。
ラナは遠距離攻撃に自信があっただけに余計に膨れている気がする。
まあここではバフと回復で活躍してほしい。
ここ、〈猫ダン〉のモンスターは遠距離攻撃回避の性能が高い。
猫が素早いため両手系の近接武器も不利だな。あれらは命中率が若干低く設定されているから。
基本的に小回りの効く近距離攻撃で攻略していくのがセオリーとなる。
タンクも避けタンクの相性はあまりよくない。リカのような防御スキルタイプでもちょっと被弾が増えるな。
シエラのような盾タイプが一番相性が良いだろう。
今回は勉学のためにも10人で攻略しているが、本来このダンジョンを楽にクリアしたいなら相性の良い5人パーティは、シエラ、ルル、俺、ラナ、カルアの構成かな。俺とパメラは代替可能で。(シエラ、ルル、パメラ、ラナ、カルアの構成も有りという意)
ただ、相性が悪い子も難しいだけで無理ではないので出来なくはないだろう。
リアルなら、もしかしたら相性の悪さとかも個人の実力で覆せるかもしれないからな。
ちなみに、俺たちが戦闘中、ハンナは周りで素材集めをしていた。
森と道の間の林縁部は素材の宝庫で採取ポイントがいっぱい有るんだ。
ハンナは大はしゃぎしていた。
本人曰く、「猫ちゃんに見守られながら採取するの、すごく楽しい!」とのことだ。
悲壮感はどこかに飛んだようで何よりである。
そんな事を考えていると、ようやく目的地である開けた空間に出た。
木々が人の手が入っているかのように綺麗に消えており、大きな楕円状の広場となっている。
そして奥には黒い門。11層に続く門が見えた。そして、その前に立ちふさがる守護型ボスのシルエットも。
「ん~、何かしらあれ? 猫?」
「ボスモンスターでしょうか? 黒門の前に陣取っていますね」
「大きいわね。いえ、今までのモンスターが小さすぎたのかしら」
ラナ、エステル、シエラの順に目の前のシルエットの感想を言う。
まだ遠いが、黒門の前に見えるのは間違いなくボスだった。
その体長はシエラが言うとおり大きいと感じる。
今まで山猫よりちょい大きいサイズのモンスターしか見ていなかったから余計そう感じるのだろう。
その猫は、俺と同じくらいの大きさだった。このくらいのならボスとしては逆に小さい方だ。
ギラリとした隻眼。左目は十字傷で開いておらず、武士を思わせる裃を着込んでいた。ゲームの時から思っていたが肩衣がやたら似合うなこの猫。
腰には二刀の刀を差し、二足歩行。
お察しかもしれないが武士みたいな猫だ。
「あれが10層の出口付近を守護するフィールドボス。名前は〈猫侍のニャブシ〉。通称〈ニャ武士〉だ」
「くっ、カッコイイわね」
「猫侍……」
俺の解説にラナが唸り、リカの目が鋭くなった。
緊張感が高まっていく中、〈ニャブシ〉が口を開く。
「グニャア」
「『よく来たニャ』だって」
「あ、カルアは解説しなくていいぞ」
ずっこけそうになった。この見た目で語尾がニャって。
カルアは猫語が分かる疑惑継続中。カルアが通訳役をしようとするのを慌てて止めに入った。
危ない。〈ニャブシ〉のハードボイルドな声がカルアの通訳でほっこりしてしまう。
今通訳されると気が抜けるので黙っててもらった。
とりあえずその場で足を止める。これ以上進むと戦闘が始まってしまうからだ。
止まるよう片手を挙げてメンバーに合図を送る。
「さて、決めておいたとおり今回はAチームが行くぞ。Bチームは待機な」
「わかってるわ。頑張ってよゼフィルス!」
「おうよ。じゃあ、俺たちの戦闘をまず見ていてくれな」
ラナの応援に片手を挙げて応える。
10層のボスをチームで狩るか、全員で狩るか相談したところチームでということになった。
難易度的には、全員での方が楽である。
しかしだ、最下層を想定し、チームごとでも良いのでは、とそういうことになった。
くじ引きの結果、Aチームが10層の相手を務めることに決まる。
そのため、Bチームは後方に下がって戦闘には参加しない形だ。
「一応もう一度確認しとくな。Aチームとの戦闘が始まったらBチームは戦闘には参加しないこと。途中で他のパーティから援護があった場合FボスのHPが全回復してしまうし、ついでにハンディ分のステータスが上昇してやり直しになるからな。くれぐれもボスエリアに入らず、見るだけにしてくれ」
「分かっているわよ。それを悪用してFボスをわざと回復させた場合、校則違反で罰則が与えられることも授業で習ったじゃない!」
「オーケー。覚えているなら問題ないな。じゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい!」
「頑張ってね、ゼフィルス君!」
ラナとハンナの応援を背に、Aチームのフィールドボス戦が開始された。