#379 〈ダン活〉の猫は恐竜より強いポジションにいる
ダンジョンであることをつい忘れそうになるが、ここ〈孤高の小猫ダンジョン〉はダンジョンだ。
しかも初の中級中位である。
もう少し緊張感というものを持ってもらいたいが、現在の〈エデン〉メンバーに緊張感は皆無だった。
「最初に〈猫ダン〉を選んだのは失敗だったかもしれない」
「何言ってるのよゼフィルス、大成功じゃない!」
「そうだよゼフィルス君、猫さんたちは可愛いよ」
可愛いだけではなぁ、と言いたい。
言ったら女子全員を敵に回しそうなので言わないけど。
ラナとハンナはこのダンジョンに来て、それだけで大満足の様子だ。
いや、ここで満足されては困るんだが。
「森~の中には猫さんが1匹~、振り向いた森にも猫さんが1匹~♪」
ついに歌まで聞こえ出した!
歌っているのはルルか?
どうしよう。あまり時間は無いんだが、そろそろ攻略に移りたい。
しかし、女子たちがむちゃくちゃ楽しそうなのである。
ダンジョンで楽しみを奪うのは俺のポリシーに反する!
俺がぐぬぬと葛藤していると、それを見たシエラが呆れた顔をして声を掛けてきた。
「ゼフィルス、制限時間を決めましょう。その時間になったら出発ということにすればいいわ」
「シエラは女神か!」
俺はシエラに神を見た。
さすが〈エデン〉のサブマスター、いつも俺を支えてくれるシエラには頭が下がる。
「女神って、その……、いちいち大げさなのよゼフィルスは。これくらいの助言はサブマスターの仕事だもの。当然でしょう」
俺がキラキラした視線を送ると、シエラがそっぽ向いて口早に答えた。
少し頬が赤い気がするのは気のせいか?
「むむむ」
「シエラさんはいつもさりげなくポイント稼いで……、本当に強いです……」
「べ、別に狙って稼いでいるわけではないのよ。これが仕事なの」
「今稼いでいるって認めました!」
「そのポジションはずるいと思うわ! シエラ、私と交換しましょ!」
「しないわ」
後ろでラナ、ハンナ、シエラが何か言い争っているみたいだったが、俺はそんなことより早く攻略に移るため、メンバー全員に後十分で出発する事を通達して回った。
みんな多少は残念そうだったが、残り十分で楽しみつくす気のようだ。
納得してもらえたようで良かった。
やっと攻略が再開できるぜ、シエラにはほんとに感謝だな。
十分後、一度メンバー全員を集合させる。
「よし、時間だな。……ところでシエラたちはなんで肩で息してるんだ?」
「ふう。いいの。気にしないで」
「そ、そうか?」
よっぽどのことがない限り息切れはしないはずなのだが、なぜかラナ、ハンナ、シエラが肩で息していた。途中で席を外していた間に何があったんだ? まあ気にしないでというのならそうしよう。そのほうがいい気がした。
「では、名残惜しいが出発しよう! 全員、遅れるなよ!」
「「「おー (デス)!」」」
全員が俺の宣言に応えてくれ、攻略が始まった。
ここ、〈孤高の小猫ダンジョン〉は森林型ダンジョンだ。
森林に馬車が2台通れるだけの道幅が空いており、そこを歩いていく。
中級中位ダンジョンなので1層1層が広く、多くの分かれ道が存在する。
道を間違えると大きく遠回りするため、最短ルートの暗記は必須だ。(普通は攻略サイトを見るだけでよい)
また森林の中は猫たちで溢れており通り抜けることは不可能となっている。
この猫たちは基本背景であるが、住み分けでもある。猫たちのいる森林に一歩でも侵入すれば襲ってくるのだ。集団で。
こうなるともう脱出以外の選択肢が取れなくなり、戦闘不能まで秒読み状態になる、らしい。
ゲームでは侵入自体できなかったが、リアルだとまた違うんだな。
これを歩きながらメンバーに通達していく。
「というわけで森林に侵入するのは禁止な。絶対道を歩くこと」
「ルルは分かってるのです! 柵の中に手を入れてはいけないのと同じなのです!」
「ふふ、ルルは賢いですね~」
「えっへんです!」
ルルの中では動物園とここは変わらないらしい。
そんなルルの発言にみんなほっこりする。シェリアだけメロメロになっているが。
「あ、猫が出てきたわ!」
「ニャー!」
「茶色の三毛猫、〈チャミセン〉だな。誰か戦ってみたい人ー?」
歩いていると前方に猫型モンスター〈チャミセン〉が森林から出てきた。1匹だ。
基本的にこのダンジョンの上層では登場するのは1匹ずつと決まっている。
〈チャミセン〉は〈猫ダン〉に登場する代表的なモンスターの一角で完全二足歩行に加え、片手に〈魚の骨ソード〉を装備している。当然、【剣士】系のスキルを使ってくるので注意が必要だ。
大きさは大体腰くらい、背景にいる小猫たちよりかは結構大きい見た目だ。
ラナを始め、〈チャミセン〉を見たメンバーのテンションが上がるが、しかし俺の一言でみなのテンションが下がった。
「あれと戦うの?」
「ニャー?」
ハンナが恐る恐ると俺に聞いてくる。なぜか猫も「戦うの? 正気?」と聞いてきている気がするのは気のせいか?
「いや、戦うよ。あれでも中級中位ダンジョンのモンスターだからかなり強いぞ。見た目に騙されるなよ」
この世界では〈チャミセン〉にやられる学生はわりと多いらしい。
それは見た目可愛い猫というのが一番のポイントになっている。
みんな、可愛すぎてやられてしまうのだ。ルルが得意な戦法だな。
冗談は置いといて、あんな見た目だし、背は俺たちの腰くらいまでしかないにも関わらず、その強さは中級中位のモンスターの中でも上位に分類されている。
単体モンスターというのは強いのがゲームの基本だ。
他のゲームでいうトロルやサイクロプスみたいなものだな。〈ダン活〉ではそのポジションに猫がいるんだ。(なぜかは知らない。なぜか恐竜よりも強いんだ)
「もう一度言うぞ。あんな見た目なのにすごく強いんだ。気を抜くなよ」
というわけで、まず見た目を克服してもらいたい。
可愛い系モンスターなんてこの先もたくさん出るんだ。
可愛くて攻略できませんなんて〈ダン活〉では通用しないぞ!
それに一度戦えば分かる。あれがどれだけ見た目詐欺かを。もう完全に初見殺しなモンスターかを、な。
ということで5人パーティ全員で挑ませたいと思う。
「じゃあ、まずはAチームから行こう。Bチームはそこで見ていてくれよ」




