#374 シエラと相談。目指せDランクギルドへの道!
タバサ先輩をシエラに預けた翌日。
ギルドに早めに来た俺は、シエラから事の顛末を聞かせてもらっていた。
「シエラ、お疲れ様。助かった」
「いいわよ。……あなたってお人好しよね」
「それ、褒めてる?」
「もちろんよ」
今回俺が面倒を持って来て後始末を全てシエラに任せてしまった。
言いたいこともあるだろうとまた三つ指突くことも覚悟していたのだが、シエラの言葉には刺々しさは感じられない。
どうやら怒ってはいない、ようだ。多分。
「それで、タバサ先輩は?」
「昨日の夜のうちにギルド〈秩序風紀委員会〉に連絡しておいたら、朝一番でギルドマスターが自ら訪ねてきてね。タバサ先輩は引き渡しておいたわ。かなり嫌がってたけど」
「お、おう。そうか」
嫌がる先輩を引き渡したと堂々とシエラが告げる。
ちなみに〈秩序風紀委員会〉とは、このマンモス校の秩序を司る衛兵隊、その下部組織にあたる。
衛兵隊の雇い主は公爵家、つまり学園長だが、〈秩序風紀委員会〉は学生が所属する衛兵見習いとも言えるギルドだな。
そんな特殊なギルドなため、〈救護委員会〉と同じくランク外に分類され、所属人数に上限は設けられていない。
そして〈救護委員会〉や〈秩序風紀委員会〉は、他のギルドとの掛け持ちが可能だ。
例えば〈テンプルセイバー〉に在籍しているが、週に何日かは〈秩序風紀委員会〉に参加している、ということが可能である。
普通はギルドの掛け持ちはできないが、学園公認の特殊ギルドだけは例外が設けられている。
また、〈秩序風紀委員会〉の活動は、名前の通り主に学園内の秩序的問題の解決である。
学園の建物内では衛兵の目が届かないため学生が目を光らせている、といった形だな。
「しかし、そんな学園公認ギルドのギルドマスターがわざわざ迎えに来るとか、本当にタバサ先輩って何者なんだ?」
「知らないわよ。聞いても教えてくれなかったわ。でもこれでひとまず解決ね。私たちはこれからの事に集中しましょう」
「そうだな。ああ、そこでだ。少し相談がある」
「何かしら?」
「このダンジョン週間中にDランクへ上がる条件を満たしたい」
「……本気?」
「本気も本気。マジでやるぞ」
訝しげになるシエラに昨日考えていたことを説明していく。
このダンジョン週間を逃せば次にDランクになれる機会は9月になってしまうこと。
下部組織の育成も視野に入れるなら早めにDランクに上がっておいた方がいいこと。
昨日で下部組織の枠がいっぱいになってしまい、誘いたい人が居たのに断らざるを得なかったこと。
「……そうね」
説明を聞いたシエラがこめかみに指を当てながら考える。
そんな姿も気品があって絵になるんだよなシエラって。
そんな事を考えながらシエラの考えが纏まるのを待つ。
「作戦はあるの?」
「当然だ。無理ならこんなことは言わないさ」
「そうね。あなたは全てにおいて無理そうな依頼すらも有言実行してきた。だから私も付いて行きたいって思ったのだもの」
「おお? どうしたんだ急に」
「別に、なんでもない。今回も付き合うわ。でも、無理をしてはダメよ?」
「ああ、そこは当然だな。ダンジョンは楽しまなきゃいけない!」
俺は自信を持って言う。無理をすべき所は無理を通す。しかし、その場合でも楽しめるようにすべし。それが俺のダン活道だ。
シエラの信頼が嬉しいね。
早速作戦や頭の中に描いているスケジュールを相談していった。
「Dランクの条件は『ギルドマスターを含む10人の中級中位ダンジョン3つの攻略』よね。ダンジョン週間は今日を入れて7日しかないから、実質2日と少しで1つのダンジョンを攻略しなくちゃいけないわ。それも2パーティが、よ?」
シエラの難しいんじゃないかしらという意味が含まれた問いに俺は問題無いと頷いた。
「十分可能だな。ダンジョンは複数のパーティでレイドを組むことが可能だ。10人で挑めば問題無い」
10人で挑む。つまり2パーティ合同によるダンジョン攻略を提案する。
実はレイドを組むのは他のギルドでもやっていることだ。
〈ダン活〉には最下層のボス戦以外、1パーティで挑まなくてはいけないという括りは無い。
ただ複数のパーティで当たるとフィールドボスがその分強くなるし、通常モンスターも2パーティで挑むとやけにタフになるなど、レイドのハンディは存在する。
しかし、道中は2パーティで進んだとしても、通常モンスター戦を1パーティで戦闘するならハンディは掛からない。実質1パーティで攻略しているのと変わらないからだ。
そのためレイドではパーティ毎でスイッチして、1パーティは戦闘、1パーティはその間休憩。
次の戦闘では休憩していたパーティが戦闘、戦闘していたパーティは休憩させるなど、交互にスイッチさせながら進むとやりやすいと言われている。
「中級中位ダンジョンに進出しているメンバーは?」
「セレスタンに資料を貰った。昨日の時点で7人が条件をクリアしている。あと一つ中級下位をクリアすれば進出できるのがルル、シェリア、シズ、パメラの4人だな」
ハンナ、シエラ、リカ、カルアが昨日一昨日で条件を満たしたようだ。
今のところ7人が中級中位へ行ける。行けるが、しかし、問題があるメンバーがいる。【錬金術師】のハンナだ。
正直、ハンナはすでに防具でカバー出来る限界を迎えている。
たとえ〈エデン〉最強の防具〈雷光の衣鎧シリーズ〉でカバーしようとも中級中位ダンジョンのボスには、耐えられないだろうというのが俺の見解だった。
攻撃力はともかく、防御力と耐久値が圧倒的に足りない。
次のDランク試験ギルドバトルの事も考えるのなら、ハンナは連れてこず、ルル、シェリア、シズ、パメラを入れた10名にするのがもっとも効率的だと思う。
しかし、ハンナは今まで頑張ってきた。
まったく無い攻撃力と耐久力を、装備とアイテムを潤沢に使い、なんとか中級下位まで食らいついてきたのだ。
それなのにハンナを抜いてしまってもいいものだろうかと。
「シエラ、ハンナの事は、どうすればいいと思う?」
考えが纏まらず目の前にいたシエラに聞いてしまう。
「ハンナにはあなたから話しなさい。全てはあなた次第なのだから」
返ってきたのは厳しい言葉だった。
シエラらしいとも思う。
「話し合いか」
「そうよ。話さなければ何も分からないでしょ。あなたの考えも、ハンナがどうしたいのかも」
「……そうだな」
シエラの言葉にすごく納得する。
そうだった。まずは俺の考えを聞いてもらおう。
ハンナと話し合いをしよう。
重くなっていた頭の中がスッと軽くなっていく。
「ありがとうなシエラ。助かった」
「ええ。行ってらっしゃい」
シエラに見送られて、俺はハンナの元へ向かった。