#368 「騎士爵」カテゴリーと顔合わせ。
ダンジョン週間2日目。
〈エデン〉のメンバー全員がLV40に到達したので〈道場〉の利用はしばらく封印だ。
リーナ、ミサト、メルトに関してはまだ初級上位をクリアできていないのでLVは足りているが中級にはまだ進めない状態。
ということで、今日はエステルと俺でさっさと3人を中級まで連れて行ってしまう計画だ。
今日中には〈エデン〉のメンバーは全員が中級進出を決められるだろう。
この調子で〈エデン〉はどんどんステップアップしていくぞ! 目指せ中級中位ダンジョン!
それとは別として例の〈大面接〉だ。
〈ホワイトセイバー〉との話し合い、交渉は今夜に決まった。
昨日あった事を俺とミサトからシエラとセレスタンに伝えると二人はすぐに動いてくれた。
セレスタンがどこからか持ってきた資料には例の4人の名前、学年、専攻、職業など、その他もろもろが書かれていて、それを元に協議する。
いや、セレスタンよ。そういえば俺、あの男子2人、女子2人の名前すら聞きそびれていたんだが、この資料、どうやって作ったんだい?
またセレスタンの謎が増えてしまった。
しかし、驚いたのはさらにその資料の内容だった。
「不合格? この「騎士」の人?」
4枚の資料、その内3枚にデカデカと押された〈不合格〉の文字。
今まで合格しか見たことがなかったのだが、ちゃんと不合格もあったらしい。
そして2人いた「騎士爵」のうち、1人がその〈不合格〉に該当していた。
「はい。その方々は〈エデン〉にふさわしくないとご判断されました」
『ご判断されました』。
なかなかにツッコミどころの多いワードである。
しかし、セレスタンに間違いが無いのは今までの行ないから分かっている。
セレスタンはいつも〈エデン〉第一に動いてくれるからな。この〈不合格〉にも何か理由があるのだろう。
「騎士爵」の1人を逃すのは、正直惜しい。
しかし、無理に入れて間違いがあってはいけない。
ならば、この一人は俺が直接会って見て決めるしかないな。
と思っていたら隣のシエラから意見が上がる。
「いいかしら? この同級生3人のことなんだけど」
シエラが出してきたのは現在〈大面接〉で最終候補に残っている同じクラスの仲良し3人娘の資料だ。
その資料にはちゃんと〈合格〉の印が押してある。
「私はこの子たちを勧めるわ。下部組織の助けにきっとなると思うのよ。ゼフィルス、最終判断は任せるけれど、間違えないようにね」
「おう。了解だ」
それから一通り4人で話し合い、この移籍についてと〈大面接〉についてを決めていったのだった。
この〈ホワイトセイバー〉との話し合い次第で、下部組織採用者10人が決定することになる。
◇ ◇ ◇
「ゼフィルス殿、今日は時間を取っていただいて感謝する」
「夜しか時間が取れなくて悪いな」
「なんの。我々が無理を言っているのだ、ゼフィルス殿が悪いはずが無い」
ダンジョン週間2日目夜、俺は〈ホワイトセイバー〉のギルドにお邪魔していた。
例の「騎士爵」を移籍させたいという件についてだ。
あれ、少し違ったか?
まあいいだろう。大した違いはない。
昼間はしっかり初級上位を全て回ってリーナたちを中級進出させたのだが。
その代わり時間が取れるのが夜しかなくなってしまった、〈ホワイトセイバー〉からは早いほうがありがたいとのことなのでこの時間となった形だ。
また、本来なら〈ホワイトセイバー〉から出向くのが筋ではあるが、ちょうど俺が近くに行く用事もあったためこちらから出向いた形だ。
リーナをつれてくるほどの案件でもないだろうし、俺1人で問題ないだろう。
〈ホワイトセイバー〉のギルドは、その名を体で表すがごとくギルド部屋も白色を多く採用していた。
夜のはずなのに、少しまぶしい。
ギルドにはマスターのダイアス以外に7人のメンバーが残っていた。
昨日紹介されたメンバー4人とその他に3年生と思われるメンバーが3人だ。
「いいや。こんないきなりな話だ。聞いてもらえるだけでもありがたい」
「お茶をどうぞ」
「いただきます」
3年生と思われる男子学生から緑茶のようなものが出された。
ありがたく頂戴する。……なかなか渋いな。
「そいつはサブマスターのニソガロンだ。こいつの出すお茶はいつも渋いのだ」
「おい。文句があるならもう茶は出さんぞ」
「おおう、悪かった。ニソガロンが出さないとお茶が出せる者がいなくなってしまう」
「……なんで茶の1つも出せないんだこいつら?」
ニソガロンと呼ばれた男子学生はサブマスターだったようだ。
なんでサブマスターがお茶出しなんてしているんだとも思ったが、なぜか〈ホワイトセイバー〉のメンバーは誰もがお茶すら出せないらしい。ニソガロンさんが疲れた声を出していた。
ここは脳筋ギルド、なのか?
その後残りの先輩も紹介してもらい、本題に移っていく。
「では早速本題に入ろう。単刀直入に聞くが、〈エデン〉への移籍は可能か?」
「いきなり直球だな。……正直、今〈エデン〉に空きは無い。少し前に大規模な加入面接をやったが、予定を大幅に変更し下部組織の募集になったんだ」
「こちらとしてはどちらでも構わない。それより枠はどれくらいあるかの方が重要だ」
よほど切羽詰っているらしい。
何しろダンジョンで俺を待っていたくらいなのだ。よほどなのだろう。
後で「なんでダンジョンで待っていたのか」聞いてみたのだが。
「表だと親衛隊や勇者ファンが……、いや、なんでもない」と何かを言いかけて口を濁した。
よく聞き取れなかったが、何やら表では俺と接触できない理由があったようだ。
故に俺たちが出てくるまで朝からあそこで待っていたらしい。大変だ。
それほど〈ホワイトセイバー〉は脱退者を出さないため奔走しているということだ。
その努力と熱意に敬意を表し、〈エデン〉でも移籍を受け入れても良いとシエラたちからも許可が出ていた。しかし、その枠は少ない。
「あるのは下部組織の1枠だ。〈ホワイトセイバー〉から、1枠は受け入れよう」
シエラやセレスタンがOKしたのは、その〈合格〉の子の枠だけだ。
しかし、大男ダイアスはその人数について特に気にしていないように話を進める。
「なるほど。1枠はあるのだな。助かる」
彼らにとっては1枠でも大助かりのようだ。
「あるにはあるが、下部組織だぞ?」
「何を言っている。〈ホワイトセイバー〉だって下部組織だ」
そういえばそうだったな。〈エデン〉よりギルドランクが上だったからあまり気にとめていなかった。
〈ホワイトセイバー〉からすれば別の下部組織だとしても変わらないのだろうか?
そういう意味では少し疑問に思うこともある。よし、聞いてみるか。
「1つ聞いていいか? なぜ〈エデン〉に声を掛けてきたんだ? 〈エデン〉じゃなくてもCランク以上のギルドはたくさんあるだろう? 〈エデン〉はEランクだ。その下部組織ならFランクだぞ? 〈ホワイトセイバー〉よりかなり劣るだろう」
「ぬう? 最近学園だけじゃなく世界中を激震させたギルドが言うセリフではないぞ。こちらは全く問題は無い。--そうだろ?」
大男ダイアスが控えていた4人に目配せすると、4人は頷いてから前に出てきた。
話の流れから察するに、〈エデン〉へ移籍したいというのは彼ら彼女らの希望なのだろう。
「お初にお目にかかります。私はアイギス。〈戦闘課2年31組〉所属、職業は【ナイトLV75】です。よろしくお願いします」
「同じく〈戦闘課2年37組〉所属のフレックDです。職業は【神殿騎士LV75】です」
胸に手を当て、ものすごく丁寧な出だしで自己紹介してくれたアイギスさんは、エステルに迫るほど発育の良いお姉さんだった。
なんとなく出来る女という感じがする。
髪は背中まで流している、少しウエーブの入った白に近い銀髪系。前髪はパッツンで一部を三つ編みカチューシャにして後ろに回しピンクのリボンで留められていた。目は青色系だ。
背がピンと伸びており、しっかりとした印象を受けるが、堅すぎるということもなく、どちらかと言うと柔らかい雰囲気を持っている女性だった。
次に自己紹介してきたのはフレックD先輩。
D、というのは良く分からないがこれも名前なのだろう。
まあプレイヤーが適当にアルファベットや数字をごちゃまぜにして名前を決めることも多いので、この程度なら〈ダン活〉では珍しくもない。
プレイヤーが適当に決めた名前は、それこそ超中二っているものからキラキラネームまで千差万別だったからな。
『赤い彗星のシャ○専用ザクVSガ○ダムさん』なんて名前もあったほどだ。あれは本当に名前だったのだろうか? 今でも疑問な名前も多い。
場合によってはあまりに懲りすぎて読めなくなってしまった名前なんかもあったな。懐かしいぜ。
ちなみに俺はカタカナ名前派だった。漢字の名前とか読めないものが大半だったので、読めるように配慮していたよ。名前は呼ばれてこそだと思う。
閑話休題。
フレックDさんは金色の短髪に金色の目、そして筋肉質な肉体を持つ大男だった。
まあ大男ダイアスには適わなさそうだが、それでも背が高いな。190近くあるかもしれない。
しかし、顔は何と言うか、チャラそうなイケメンというイメージを抱いた。
あの資料を読んだ先入観からだろうか?
残り2人からも自己紹介を受けたが割愛。
4人のうち、アイギスさん、そしてフレックDさん。
この2人こそ「騎士爵」のカテゴリーを持つ人たちだ。