#354 面接開始! 男子たちが不甲斐ない!?
俺はちょっと舐めていた。
ゲーム時代、新規キャラクターをスカウトする際、二通りの方法があった。
キャラクターをメイキングする方法と、すでに職業についているキャラクターをスカウトする方法だ。
後者は掲示板の募集などで集めることができる仕様だった。
主に指定した職業のキャラクター一覧表が現れ、そこから選択する仕様だ。LVが0のキャラか、LVは20だが、ステ振りがされているキャラか。
いずれにしても、スカウトとは自分からしに行くものだった。
しかし今、それとは逆なことが起こっている。
「今日面接なのはこの14人ね。明日は16人入ってるから」
「ちょっと待ってくれ」
ミサトの言葉に俺は非常に頭を悩ませる。
思い出すのはカルアが加入した時のことだ。
〈ダン活〉ではスカウトしに行くのが当たり前の仕様だったのに、カルアは売込みを掛けてきた。そのもの珍しさに、カルアの事にかなり興味が湧いたのを今でもはっきり覚えている。
今、まさにそんな状況。
つまり、〈エデン〉に売込みを掛ける、いや応募する子がとんでもなく多いのだ。
ミサトから受け取った面接の一覧表にはずらっと60人以上の名前が書いてある。
これでも5分の1くらいにまで減らしたというのだから驚きだ。
元は300人近くの応募があったのだという。ミサトがどうやってそれを周知し、募集を集めたのかは知らないが、少なくとも〈エデン〉に加入したいという人は多いらしい。
しかもだ、これまた優秀な子が多いのだ。ちゃんと選抜を勝ち抜いてきた子達なのである。
これから木曜日まで毎日面接のスケジュールが入ってしまった。
そのうち5名が採用枠。ミサトは俺に選べという。どうしろと?
現在、月曜日放課後、今日から放課後は面接だ。
まさかだよ。
ミサトから面接の提案を受けたのが今朝。そして放課後には選抜が終了し、すでに面接が始まっているというのだからどんだけスピード応募だったのかという話だよ。
ミサトが〈エデン〉に正式加入してまだ2日のはずなのに、どこからこれだけの〈エデン〉加入希望者を集めてきたのか不思議でたまらない。
とりあえず集まった子たちを見る。
今日の面接に来たのは男子4人、女子10人。全員が一年生だ。
全員どこかしらのギルドに所属しているが、〈エデン〉で合格した暁には脱退してくるらしい。そして、全員が高位職だった。さすが一年生だ。
場所はラウンジではなく、〈戦闘課校舎〉の〈練習場〉に足を運んでいた。
ここで能力を見せてもらい評価しようという考えだ。
頭は痛いが切り替えよう。俺は一息吐いて、前に並ぶ学生たちに意識を集中する。
「ふぅ。ではこれより面接を始める。用意した的をモンスターと仮定して相手をしてくれ。手段は問わない」
「し、質問、いいですか!」
俺の質問に真っ先に手を上げたのは「狸人」の女子だった。
頭に可愛い狸耳がひょこっと乗っている。
顔も見覚えがある、確か俺がしている授業で初期から参加している子だ。
以前初級中位の1つを攻略中に少し話す機会があったのを思い出す。
たしか名前は、ラクリッテちゃんだ。
俺は1つ頷いてから先を促した。
「どうぞ」
「あの、うち、ポジションはタンクで、あまり攻撃力に自信ないのですが」
「私も、ちょっと自信ないかも」
的を相手にすると言ったからだろう。「狸人」の子が火力の無さに不安を伝えてくると、隣にいた女の子も手を上げてそれに便乗する。
確かこの子も初期から俺の授業に参加していた子だ。「男爵」の女性シンボル、マイクの意匠が入った〈チョーカー〉を身につけているので気になっていた子だ。
この子はラクリッテとパーティを組んでいた、名前はノエルだ。
俺の〈ダン活〉脳によると2人とも〈戦闘課1年8組〉に所属していたはずだ。エリートクラスに在籍していたため、この2人はよく覚えている。
そういえば、ここに参加している女子はみんな俺の授業を受けている子たちじゃないか?
今更気付いたが、並ぶ女子たちは確かに見た事がある顔ぶれだった。マジかよ。
おっと、驚いている場合ではない。質問に答えなくては。
「心配には及ばない、破壊する必要はないからな。攻撃でもサポートでもタンクでも好きな風に相手してみてくれ。的は敵だと思って、その敵を相手にするときの対応を見たいんだ」
「な、なるほどです。分かりました!」
「そういうことなら、了解だよ」
「他に質問がなければ、俺から見て右の人からやってみてほしい。まずは男子からな」
今の他に少々の質問に答えつつ、面接は開始された。
まずは男子の1人からだ。「人種」カテゴリー「狼人」で大剣を装備している。
剣士系だ。名簿の一覧表には【ワンキラー】と職業の名が書かれている。
一撃の威力を重点に置いた「狼人」の高位職だ。高の中だな。〈戦闘課1年21組〉に在籍しているらしい。なぜかミサトのほうをさっきからチラチラ見ている。
彼が的に向け大剣を構えると一気に駆けてそれを振り下ろした。
「『バスターワンソード』!!」
気合十分に放たれたそれは、的を完全に破壊……できなかった。
「な、何!?」
「その的は破壊不可オブジェクトだからな、存分に攻撃してみてくれ」
的が破壊できなかったことに驚く【ワンキラー】一年生に破壊できないことを教えてあげる。
おいおい、そこでビックリして動きを止めちゃダメだよ。
その的はダンジョン製。産ではなく製というのがポイント。柔らかくすることも硬くすることも自在なアーティファクトである。言ってて思うが、どんな的だろうか?
まあ、ゲームでは的の難易度を上げるとダメージが通らなくなったり、破壊できない的になったりするのは、割と普通の現象だ。
また、破壊できる仕様の時でも数秒後には元通りになったりな。本当に不思議な的である。
ちなみにこの的は破壊できないオブジェクト状態になっているのでいくら攻撃しても壊れない。好きにしてみてほしい。
【ワンキラー】一年生は破壊出来ない的に多少動揺したものの、すぐに気合いを入れ直し、再び的を攻撃し始めた。
しかし、なんかな。無駄に格好付けている気がする。良いところを見せてアピールしたいという思いが溢れているな。あと、ミサトの方を見過ぎだ。
「よし、そこまで。次の人と交代してくれ」
「狼人」の男子がまた数回スキルを打ち込んだところで交代だ。
彼はもうちょっと誰にアピールするべきか、学ぶ必要があるな。
この調子で次の男子も見るが、なぜか俺がさっき言ったことをまったく意に介さず的を破壊しようと奮闘し始めたのですぐにチェンジした。
なぜ破壊しようとする。
その後も数少ない男子たちの面接は進んだが、なぜか不甲斐ない結果に終わった。
みんな女子たちの方を気にしすぎてガチガチに緊張しまくっていたのだ。そんな事では美少女ばかりのギルド〈エデン〉ではやっていけないぞ!
男子の番が終わり、女子のターンが来た。
「う、うちの番です! ラクリッテ、行きます!」
トップバッターは「狸人」のカテゴリーを持つラクリッテだ。
期待大!