#340 リーナの軍師。〈箱庭〉使って追い詰めろ!
「待たせたリーナ。状況は?」
「優勢ですわ。とくに〈北東巨城〉で敵の一部を追い詰めつつありますわ」
「どれ? あ~。なるほど、ジーロンたちは巨城を囲いに行っちまったのか。これは狩られるな」
本拠地に到着後、挨拶もそこそこにリーナの横に立って〈竜の箱庭〉を覗く。
そこにはリアルタイムで両者の動きが現れていた。
立体化した〈六芒星〉フィールドのミニチュアに小さな人型のコマが動いている。
〈竜の箱庭〉という激レアアイテムの効果は『自動マッピング』、『立体化』、『随時反映』。
つまりマップを瞬時に作るだけであるが、そこに【姫軍師】の『モンスターウォッチング』、『人間観察』、『観測の目』が加わるととんでもない効果に大化けする。
まず『モンスターウォッチング』で地図にモンスターを表示。ただの地図だと赤点が光るだけだが、〈竜の箱庭〉の『立体化』が加わると、ミニチュアサイズで表示されるのだ。
当然敵の種類も全て目視で確認できるようになる。
さらに『人間観察』も同様、ただの地図では白点であるが、これも『立体化』する。
まるでミニチュア人形のようだ。リアルタイムで動いているのがゲームっぽい。
そして最後の『観測の目』により、自分たちの仲間と敵で色が分かれ、そのHPの残量まで表示される。当然のように城の残りHPも表示されるし、マスの色が変わればリアルタイムで反映される。
控えめに言ってもヤバいコンボだ。
一度発動すればリーナがここに居る限り、他の人も見ることができるというのもヤバい。
しかし、味方にあればこれほど心強い物は無い。
俺はリーナの報告を反芻しつつ〈竜の箱庭〉からアリーナ内の全ての動きを観察する。
〈天下一大星〉、〈エデン〉共に小城取得に走っているが、〈天下一大星〉は将来の布石に備え、いくつかの場所で巨城周りのマスを取り、白マスを剥がしにきている様子が確認できる。
マスを取るには『自陣マスに隣接している』というルールがあるため、巨城周りの白マスを剥がされれば〈エデン〉は巨城再取得するとき、もう一度道を作り直さなければならない。
それなりに有効な手だ。
しかし、そのせいで〈北東巨城〉の周りを取っているジーロン他3名は孤立していた。
そこへリーナの『ギルドコネクト』によって指揮された〈エデン〉メンバーたちに囲まれつつあるのに気がついていない。
これはどう見てもチャンスだった。
「さすがだなリーナ。良い感じにマスを取りつつ接近できている」
「ありがとうございます。また、西側は手薄になりますので、中央付近にメルトさんたちスリーマンセルをおいて牽制しています。西側も必要以上にマスをとられる心配はないでしょう」
現在〈エデン〉メンバーは東側に偏っている。西側を〈天下一大星〉に占領されないためにメルトたちには牽制とマス取りに向かってもらっているようだ。
素晴らしい手腕だ。
「では、仕掛けてもよろしいでしょうか?」
リーナがチラリと俺の方に向く。
こりゃ、俺の指示はあまり必要なさそうだな。
最近リーナはレベル上げもせずにずっと戦術や〈竜の箱庭〉の使い方を学んでいた。
その成果が今現れている。凄い成長だ。
よっし、俺から見ても良い感じの布陣だ。
ジーロンたちには早速ラナたちの糧になってもらおう。
「じゃ、頼む」
「了解ですわ! 『ギルドコネクト』! ラナ殿下そのまま北西へ、マスを階段状に取得しながら北上してください。エステルさん方は北東へ、シエラさんはその近辺を保護期間に代えつつ北上してください。セレスタンさんは北のマスから逃げられる可能性があります。待機してください」
俺が了承すると、リーナが素早く指示を送り、ジーロンたちを追い詰める作戦が始まった。
リーナの指示により〈エデン〉のメンバーが動き出す。
「ゼフィルスさん、〈ピンマーク〉をお願いできますでしょうか?」
「おう、任せとけ」
「ありがとうございます。今手が離せなくって。どうぞゼフィルスさん」
リーナはポーチからとあるアイテムを取り出し渡してきたので受け取る。
リーナから手渡されたのは〈ピンマーク〉という地図にピンを立てるアイテムだ。
どういう原理かは知らないが若干空中に浮かんでいるし、コメントも表示させる事もできる。
俺はそれを〈竜の箱庭〉にトントントンと3カ所落とし込む。
それぞれのポイントが重要箇所だ。
ここに何分何秒にメンバーを配置し、逃げ道を潰して追い詰めていく、その予定を書き込むことでリーナがやりやすくなるのだ。
つまりピン型のメモ帳みたいな物である。
戦場が細かいと、こうしてメモを取らないと頭がこんがらがってくるのだ。
慣れればどうということはないが、リーナはまだまだギルドバトル初心者である。
メモは必須だった。
「基本は小城を落としてポイントを稼ぎつつ、ここに誘導して相手の人数を減らそうか」
「ですわね」
「時間は13分30秒でここを取得。14分50秒でこのマスの周囲を取得してジーロンたちの行く手を塞ぎつつ、ここの保護期間が切れて、活路を見いだし突破しようと出てきたジーロンたちを返り討ちに持ち込もうと思うんだが、どうだ?」
「とてもいい案かと思いますわ。ではそのように進めますわね」
俺がメモを書いた〈ピンマーク〉をマスに落としていくとそれを見たリーナも頷く。
おそらくリーナも頭ではこんな作戦を作り上げていたはずだ。
これでラナたちとの約束も果たせそうだ。
今回はジーロンたちの逃げ場を完全に奪い、活路を少しだけ残してあげて、やってきたところを一網打尽にする。
〈ピンマーク〉の2つに『14分50秒この周囲を取り、道を塞ぐ』とコメントを書いて、目印として2つのマスの上に浮かべた。
そして3つ目の〈ピンマーク〉にも『13分30秒取得・決戦の地』とピンに書き込み、マスへ浮かべる。
「分かりやすいですわね」
「後は万が一抜けてきた時のため俺は待機してるな」
「お願いいたしますわ」
俺の見立てでは開始13分頃にはジーロンが率いるフォーマンセルの囲い込みはほぼ完了する見込みだ。
逃げるルートも潰す。保護期間を張れば進入不可で通れない。
ジーロンは籠の中の鳥さんになってしまったのだ。
相手側の選択は2つ。
潜り抜け活路を見いだすか。正々堂々戦うかである。
どっちみち対人戦になるので後のことはラナたちに任せよう。
相手側が4人に対し、現在追い込み組の〈エデン〉メンバーは9人だ。
ちょっと過剰戦力かもしれない。控えに俺、リーナ、ハンナもいるからな。
「リーナ指示を伝えてくれ」
「わかりましたわ! 『ギルドコネクト』! 聞こえますかラナ殿下?」
リーナが今決めた作戦をラナたちに説明していく。
『ギルドコネクト』は送信しかできないが、それでも強すぎるスキルだなぁと改めて思う。
〈竜の箱庭〉を観測する【姫軍師】の手からは、もう逃れられない。
作戦を伝え終わり、時間までフィールドを整えつつリーナが指示を出していき、ラナたちが小城を取りポイントを稼ぎながらも所定の位置に着く。
作戦開始だな。
ちなみにサターンたちなど、他の〈天下一大星〉の応援や救助は無かった。
おそらく状況がよく分かってない模様だ。
中央スクリーンには経過時間と取得ポイントしか書かれていないから。仕方が無い。
通信や指示が出せないとやっぱ厳しいよな。
「良いですわ。カウントダウンをしますわね。10…9…8…」
ポイントなのは時間ぴったりにマスを取るところ。
大きくズレたらダメだ。保護期間が切れて作戦がパーになる。時間は早すぎても遅すぎてもダメだ。まあ巨城と違い数秒ズレるくらいは別に構わないんだけどな。
「3…2…取ってください」
リーナの指示で13分30秒、1つのマスの色が黄緑色の保護期間になる。時間ぴったりだ。さすが。
続いて14分20秒~14分50秒で周囲のマスを取っていき、作戦通りの環境が作られた。
ジーロンたちは囲まれ身動きが取れなくなる。そして彼らの選択は……。活路へ向かい、潜り抜けることだった。
そう。そこが最後の活路。そこには白マスがあり、ひっくり返せればピンク色の保護期間が発生して逃げられる。
〈エデン〉だってそんな事は百も承知である。
故に、逃がさない。
ラナ、これで約束の『頭を打っ叩け』の約束は果たしたぞと、そう思う。
5分後。
ジーロン率いるフォーマンセルは、全て退場していた。
とうとう340話で〈竜の箱庭〉が本格的に紹介されました。
ゲットしたのが第5章の終わりでしたから、約1章分、本当にお待たせいたしました!
やっぱこういう大規模ギルドバトルで初登場飾りたかった!
お待ちいただき感謝です!
では、展開の話です。
下のイメージ図は追い込みが成功した瞬間の図ですね。
〈北東巨城〉に色々書き込みすぎて細かくなってしまいました(汗)
また南側ですが、リカ、ミサト、メルトが他の〈天下一大星〉を牽制中です。
中央に来たり、西によったり、東によったり、赤の本拠地に近づいたりと、相手からすれば目が離せない状態。
しかし赤チームは南側をかなり赤く染め上げてポイントでは追い上げてきています。
また〈南東巨城〉がピンク色になっています。ここで巨城をひっくり返した模様です。
ここからどう展開が動いていくのか、ご注目ください。
明日は対人戦(現場・第三者視点)です!
また、明日は〈北東巨城〉周辺の拡大図をご用意する予定です!
楽しんでいただけると幸いです!