#338 初動は巨城を落とすのが何よりも大事。
「〈中央巨城〉ゲットだ。次は〈南東巨城〉だ、行くぞ!」
「ん。ダッシュする」
「了解しました」
当然のように〈中央巨城〉を先取したので透かさず次の動きを指示す。
カルアとエステルがそれに頷き、俺が先導する形で一気に南東の三角形を目指す。
「しまった!」
「ま、待てゼフィルス!」
俺たちの動きに慌てたようにサターンとトマが追いかけてくるが、出遅れたな。
俺、カルア、エステルは〈エデン〉の中でもっともスピードが高い3人だ。
ちなみにエステルは〈サンダージャベリン号〉を使ってはいない。
あれはまだ温存だ。奥の手の一つだしな。
しかし、LV40を突破したばかりの彼らでは、それでも俺たちに追いつけない。
一度離されてしまえば追う側が圧倒的に不利だ。何しろ保護期間がある。
「ぐっ、正面マスを取られた」
「回り道を、くそ、追いつけねえ!」
後ろから上級生たちの叫びが聞こえる。
保護期間のおかげで敢えて横にズレ、彼らが進みたいルートを潰すだけで時間が稼げるのだ。
一度自陣になったマスは防衛モンスターが回復するまでの2分間、相手は入ってこられない。
それを利用した通せん坊戦法だ。
追いかけているのはサターンとトマ合わせて6人。残り4人は北へ向かったようだ。
とっさにしては悪くない判断だ。
俺たち3人では巨城を落とすのに分レベルの時間が掛かる。
差し込みで城を奪うか、あるいは対人で妨害するか。いずれにしても巨城を先取するには人数が多いほうが有利だ。
しかし、やり方によってはそうとは限らないんだけどな。
「さっきと同じ戦法で行く。後方のラナたちが追いついたタイミングの8秒後に合わせてくれ」
「ん。分かった」
「掛け声をお願いいたします」
後ろを見ると、俺たちが作った保護期間中の自陣を使い、ラナとシズが追いかけてきていた。もう1人いたリーナは役目を終えたので本拠地に戻った。
これで〈南東巨城〉を狙うのはエデン5人、対し〈天下一大星〉6人だ。
先行は〈エデン〉。
〈南東巨城〉の隣接マスを先に取る事に成功する。
「防衛モンスターを屠るぞ。モンスターのLVは35だ。『ソニックソード』!」
「ん、余裕。『フォースソニック』」
「了解です。はっ! 『ロングスラスト』!」
巨城を守る防衛モンスターは小城のように通常攻撃のみで倒せるほど柔じゃ無い。
しかし、ここで後先考えず強力なスキルで倒してしまうと、クールタイムで巨城を攻撃するためのスキルがなくなってしまうので注意だ。クールタイムの時間が短いスキルで短時間で倒すのだ。
「撃破完了です」
「〈三ツリ〉を温存しつつ城を削るぞ」
「ヤー」
防衛モンスターを数秒で屠ると短く指示を出して次の行動へ移る。
ちなみに〈三ツリ〉とは三段階目ツリーの略だ。同じく〈二ツリ〉なら二段階目ツリー、〈初ツリ〉なら初期ツリーの〈スキル〉〈魔法〉の事を指す。
三段階目ツリーはクールタイムが長いので今は温存しつつ巨城の特大のHPを削っていく。さすがに〈菱形〉フィールドの巨城より耐久力が高い。
巨城は、フィールドにある巨城の数だけ耐久力が上がる仕様だ。
〈菱形〉の時は3つだったから最低値。〈六芒星〉は5つだからそこそこ巨城HPが高くなっている。
とそこにラナとシズが追いついた。
「待たせたわね! 『光の刃』! 『光の柱』!」
「今到着しました。タイムを測ります。『グレネード』!」
「35秒着弾とする! 合わせろ!」
俺の掛け声に全員が左手に巻いた腕時計を確認する。
これはただのアイテム、時間が知れるだけのアイテムであるが、ギルドバトルを行う上で時間を確認するのは非常に重要だった。故に〈エデン〉のメンバー達には腕時計は必須として身につけさせていた。
「やらせるかーー!!」
「追いついたぞー!!」
そこに隣のマスにサターンとトマ率いる〈天下一大星〉6人が追いつく。
俺たちのいるマスはまだ保護期間中なので入ってこられないため、サイドにあるマスを取った形だな。
巨城隣接マスでもあるので、彼らは必死になって差し込みをし始めた。
「攻撃しろぉぉ差し込めぇぇ!! 『フレアバースト』!」
「〈南東〉まで取られたら終わるぞ! 絶対差し込むんだ! ユニークスキルを使うぞ! 『大爆斧・アックスサン』!!」
「うおぉぉ! ユニークスキル『大魔法・メテオ』!」
サターンとトマたちが大技の連続でみるみる巨城を削っていく。おお、あれが2人のリアルユニークスキルか。中々かっこいい。
爆発する巨大斧の一撃と隕石の一撃が巨城に突き刺さる。
しかし、元々さほど削ってはいなかった巨城、HPを全損させるには到らない。
だが、このままいけば5秒も掛からず巨城は落ちるだろう。
両者が攻撃をガンガン叩き込む。
どちらが巨城を先取出来るのか、本来ならばドキドキの展開となるはずだ。
しかし、そうはならない。
サターンたちはまだまだ甘いのだ。
真の一斉攻撃とは、こうやるんだよ。
〈エデン〉のメンバー全員が時間を計りながら攻撃態勢に移る。
「1…『聖光の耀剣』!」
「1…『ジャッジメントショット』!」
「2…1…『閃光一閃突き』!」
「3…2…1…『勇者の剣』!」
「3…2…1…『デルタストリーム』!」
タイミングが微妙にバラけた一斉攻撃。
上からラナ、シズ、エステル、俺、カルアが一見バラバラのタイミングで〈魔法〉と〈スキル〉を放つ。
それは吸い込まれるように巨城へと向かい、そして着弾した。
――――ドガーンというほぼ1つの爆発音と共に。
〈天下一大星〉が削ってくれたおかげで残り3割となっていた巨城のHPは吹っ飛び、落城した。
巨城を先取にしたのは、ギルド〈エデン〉だった。
これが本当の巨城の落とし方、
―――その名も〈ジャストタイムアタック〉戦法だ。
イメージ図について色を柔らかい物に変えて欲しいという要望が多数送られてきております。
しかし、すでにギルドバトル終了時までのイメージ図ができているので、今からの手直しは手間と時間が凄く掛かり厳しい。背景の色なんか特に。
そのため今回のギルドバトルはこのまま色を変えずいかせてください。
次回のギルドバトルの際には色を柔らかい物にして作製する予定です。
イメージ図は初めての取り組みなので至らぬ点も多いでしょうが、温かい目で見守ってくださると幸いです。
次に生かします。
また第338話のイメージ図を投稿いたします。
今回〈南東巨城〉に視点が移りました。
ここでサターンたちはかなり出遅れてしまう展開になります。
〈エデン〉が〈中央巨城〉を落とし、プチショートカットで〈天下一大星〉の前に出たからですね。〈ポイントその1〉の部分です。
〈エデン〉は〈中央巨城〉を取る際、1マス東にずれて居ますが、これは万が一の保険でした。
〈天下一大星〉は真ん中を取ってしまったので、東に行くのに時間が掛かります。
1歩、〈天下一大星〉が出遅れたことにより遠回りせざるを得なくなり、〈南東巨城〉の到着時間に差が出ました。
ちなみに、実はゼフィルスは、保護期間を活用することによりサターンの進行を完全にぶった切り、追いかけられない状況にすることもできましたが、あえてしておりません。
理由は、とある戦法の練習のためですね。
ここからどういう展開になっていくのか、楽しんでいただければ幸いです。




