#034 苦肉の策で大公開。公式裏技戦術・ボス周回!
本日は5話更新の日です。最新話から来られたからは#030話からお読みください。
初のボスモンスター攻略は思いのほか上手くいった。
今まで雑魚モンスターでは手応えがなさ過ぎて感じられなかった多くのことを身に知った戦闘だった。
「ゼフィルス君やったね! おめでとう!」
残心、というよりまだ戦闘が終わった事があまり実感しきれなくて構えたままだった俺の下にハンナが飛びかかってきた。そこでようやく俺は肩の力が抜けたのを感じる。思っていたより気を張りすぎていたらしい。さすがリアルだ。
「ああ。おっし、やったぜハンナ! 見てたか? 余裕だったろ」
テンションを無理矢理いつもの調子に戻してハンナと軽くハイタッチする。
そこでようやく実感が湧いてきた。
ハンナとダンジョンクリアを喜び合っていると、突然アナウンスが流れる。
〈熱帯の森林ダンジョン初攻略が確認されました。初攻略報酬が贈られます〉
〈ダンジョンクリア、おめでとうございます〉
あ、これ知ってる。ダンジョンを初クリアすると、プレミアアイテムが貰えるときに流れるやつだ。
驚くハンナと俺の手の中にはいつの間に受け取ったのか小さなバッジが握られていた。
「わ、何これ?」
「ダンジョンクリア特典だな。勲章みたいなものだ」
所謂ダンジョンクリアの証ってやつ。
こういう粋なことするのも〈ダン活〉の面白いところだった。コレクター魂が刺激されるんだよなぁ。
この証バッジを将軍のように大量に胸に着けて貫禄を出したり、制服の裏に縫い止めておいてブレザーめくってチラッと見せたりする機能もあって、味わい深かった。
誰かが女の子のスカートでも同じ事が出来ないかと頑張って試していた動画もあったなぁ、最後は「そんな機能はありません、お兄さんは変態です」というプラカードを持ったロリが出てきて終わっていた。
アレには笑ったなぁ。
リアルになった今なら多分出来るんだろうけど、まあやらないが。
バッジを眺めながら過去を思い出してニヤニヤしていると、ハンナが袖を引いてきた。
その視線は、下に散らばるドロップの山に注がれている。
「すっごいねゼフィルス君。ボスドロップがあんなに」
「ああ、そういえばあったなそれ。よしハンナ纏めて入れておいてくれ」
「わかったよ」
今回のドロップは14個、「ボスドロップ」が5個、「ダンジョンモンスターのドロップ」が8個。そして宝箱が1個だった。
「ダンジョンモンスターのドロップ」はこれまでの階層に出た雑魚モンスターのドロップがランダムに混じっている。
今回の宝箱は、「銀箱」だった。
「銀箱!」
ドロップの中央に耀く銀色の箱を見てハンナが興奮気味に叫ぶ。
「お、最初っから銀とか幸先良いなぁ。ハンナ、開けていいぞ」
「本当!」
ま、こんだけ喜んでるんだし、ポーターなんて面倒な仕事を任せてもいるから、特別だな。
それにさっきの木箱で泣きをみさせた詫びもある。
恐る恐るといった感じでハンナが「銀箱」を開くと中から「高回復薬」が出てきた。
初級下位報酬の中ではなかなかのアイテムだ。所謂「当たり」というやつ。
RPGなんかではお馴染み過ぎてありがたみが無いが。〈ダン活〉では〈HPが500回復する〉という効果なので初級ダンジョン攻略中は全回復できる。HPの最大値が500を超えるなんてほとんど無いからな。
ピンチから即復帰できるアイテムとなれば「当たり」扱いも頷けるだろ?
「ハイポーションだー!」
「やったなハンナ!」
ハンナが初めてのボス撃破報酬にくるくる回って喜んでいる。
俺も一緒になってくるくる回って、最後にハンナとハイタッチ。
クルクル回るのって楽しい!
いやあ、振り返るとリアルボス戦。すごい迫力だったぁ。
俺も今になってテンションが上がってきた。
しばらくハンナとわいわい騒いで30分、やっと二人とも落ち着いてきたので、全てのドロップをハンナが持つ〈空間収納鞄(容量:大)〉に二人で収納する。
「入れ終わったよー、ゼフィルス君どうする、すぐに帰る?」
「いや…」
ピンク色に耀く帰還用転移陣を見ながらハンナが聞いてきた。
だが俺は転移陣を無視して救済場所に戻る事を選択する。
「ハンナこっちに来てくれ。そんでこれから起こる事は誰にも内緒な。約束出来るか?」
「へ? いきなり何?」
「これから、誰にも言ってはいけない内緒の遊びをする」
「な、内緒の遊び!?」
少し誇張した表現をしたらハンナが食いついた。
ハンナがこういうワードが好きなのは知っている。
「誰にも内緒な、約束出来るか?」
「え。う、う~ん? まあいいけれど? ど、どんなことするの?」
「それはな、百聞は一見に如かず、だ。見てろよ?」
そう言って俺は救済場所側に立つと、ボス部屋の門に向かってスキルを使って斬りかかった。
「『勇者の剣』!」
「ひゃ!?」
ズドンという衝撃音とハンナの悲鳴が響いた。
すると不思議なことが起こる。
「へ? あれ? 転移陣が消えた? それに、クマアリクイ、復活しちゃったよ!?」
ハンナ、ナイスリアクション。
そう、今ハンナが言ったとおり、ボス部屋には倒したはずのクマアリクイが復活、リポップしていた。
これが、俺の今日したかった本当の狙い。
ハンナが何かに気がついて「まさか!」とこっちを見る。
ハンナはスラリポ中毒者だからな。俺が何をしようとしているのかすぐに察したんだろう。
「ぜ、ゼフィルス君、もしかして、ボス相手にスラリポマラソンする気なの!?」
「そういうことだ。だが今度はスライムじゃないからスラリポじゃないぞ、言うならボスリポマラソンか?」
「いや、そこはどうだっていいよ!」
ほう、こいつ、俺相手にツッコミを入れるとは。
ま、見ての通りだ。
本来ボスがリポップするタイミングは攻略者が転移陣で去った時だ。
だが、さっき俺がしたように転移陣を使わないでボス部屋を出られると、ボスが登場しなくなってしまう。
そのため学園側では、次の攻略者に迷惑が掛かるので、ボスを倒したら必ず転移陣で帰還しましょうと教えているわけだが。これには裏技がある。
ボスは転移陣を使わなくても、外から強い衝撃を門へ与えることでリポップさせることが可能なんだ。
だから、ボス攻略が終わったら一度救済場所に戻り、強力なスキルでドカンとやることで、ボスを周回出来るようになる。
一度入口まで戻ってまた最下層まで来る手間をカット出来るのだ。素晴らしい。
ちなみにこれは開発陣から公式的に認められている戦術だったりする。
〈ダン活〉は学園で3年間過ごす仕様のために、タイムアップが設定されている。
無為に3年間過ごせばゲームオーバーになることもあるんだ。
しかし、ゲームクリアするには色々ネックがあった。
例えば〈上級転職チケット〉。これ、もしドロップしなかったら詰むんだよね。
上級ダンジョンをクリアするには上級職が必須。なのに上級転職チケットがいつまでもドロップしないドツボに陥った場合、目を覆いたくなる結果になってしまう。
〈ダン活〉にはそういう地雷罠もわりとあった。今のこの世界を見れば分かるだろう。筋肉が最強と言われる時代。まったく嘆かわしい。
そして、それらを回避すべく開発陣が苦肉の策で用意したのが、ボス周回可能処置だった。
開発陣は、何が何でもジョブや無駄に多すぎるドロップを変えるつもりは無かったらしい。
と言うわけで、ボス周回は公認された。
俺らゲーマーは喜んでボス周回に勤しみ、楽しみ尽くしたのだった。