#336 準備完了、サターンがまともなリーダーしてる?
〈ダンジョンギルドバトル総合アリーナ〉通称:アリーナ。
7つある中で5番目の大きさである第5アリーナが今回の〈決闘戦〉の会場だ。
メンバー全員でアリーナの中央に出向いたところ、もう〈天下一大星〉15人が横一列になって待っていた。
サターンが前に出て真面目な顔をして宣言する。
「待っていたぞゼフィルス! 今日こそ貴様を越える! 我らは、もうそれ以外に道はないのだ!」
いい表情をしている。
前のように自惚れからくる自尊心の塊の頃とは違い、しっかり自分を見つめなおした者の目だ。
何があったのだろう?
〈マッチョーズ〉とうさぎ跳びの訓練をした結果か、はたまた〈秩序風紀委員会〉でしょっ引かれた影響か。
確かめるために後ろに控える3人の様子も見る。
すると、待っていましたと言わんばかりに3人が前に出てきた。
しまった。出てこなくていいのに。
「ふふ。見てくださいこの力瘤。2週間前に買った服がもう入らないんですよ?」
ジーロンが突然自らの二の腕をひけらかした。
やばい。いろんな意味でツッコミたい。
「すべてはゼフィルスを超えるため。俺たちは地獄の訓練に明け暮れた。そして筋肉を得た!」
筋肉を得たから、なんだと言うのだろうか?
せめてLVアップしたと言え。
「筋肉は偉大だ。〈マッチョーズ〉たちは言っていた『服が破けるほど筋肉を得たとき、ゼフィルスも敗れるだろう』とな」
それただのダジャレじゃね?
服が破けたくらいでどうして俺に勝てると?
しかもヘルクの服は別に破れてない。
ダメだ。ツッコミどころが多すぎてとても対処できない。
こいつら、―――筋肉に汚染されすぎてやがる!
やはり〈マッチョーズ〉の影響が大きいようだ。
俺はポリス君にも目配りする。
しかし、ポリス君とほか男子たちは俺たちの話を聞いちゃいなかった。
その視線は不躾にも、〈エデン〉の女性陣の方向へ注がれている。
「ああ。ああ。〈エデン〉の美少女たちは今日も美しい」
「そのとおりだな。まるで女神のようだ」
「こんなに美少女然とした人たちに囲まれているなんて、〈エデン〉の男子はなんて罪深いんだ」
「そのとおりだな。沸々と怒りが沸いてくるようだ」
「ハンナ様が尊い。ハンナ様が尊い。是非俺の嫁に」
「不敬罪だ! 誰かこいつを牢屋にぶち込め!」
「「「ヤー!!」」」
「ちょっ!? お前たち何をする!? これからギルドバトル本番なんだからやめ、やめろ―――っ!?」
一瞬で捕まって猿轡を噛まされた2年生と思われる男子はそのまま複数人に囲まれて去っていく。
相手の人数14人になったようだ。
え?
「貴様ら何をやっている! 並べ! 貴様らの『勇者が憎い』はその程度だったのか!」
「は!? つい我を忘れて」
「手が勝手に動いちまった」
「ふう。命拾いしたな2年生」
「助かった。助かったぞサターン氏よぉ」
去っていこうとした面々はサターンに一喝されて戻ってきた。
おかしいな。
いつの間にかサターンがいっぱしのリーダーになってるように見える。
本当にいったい何があったんだ?
とりあえずハンナは下がらせよう。
「ねえゼフィルス。あの人たち叩いてもいいのかしら? とても叩きたくなったのよ」
「はい。よろしいかと思いますラナ様」
「よろしかないよろしかない。エステル止めろよ」
「ですが」
「ですがも何も無い。もう少しの辛抱だから、な?」
「…………仕方ありません。ラナ様、ギルドバトル開始までご辛抱を」
「しょうがないわね。ゼフィルス、ちゃんと頭を叩く場を用意しなさいよ?」
「わかったから頼むぞ、勝手に突っ走らないでくれよ?」
ラナは暴れたそうにチラリと俺を見るし、エステルは賛同するしで困ったものだ。
早くギルドバトルを始めないと暴走したこちらのメンバーがやらかしかすかもしれん。
なんだか〈天下一大星〉を前にしたときから女子メンバーのピリピリが増しているのだ。
ちょっと怖い。
後くれぐれも作戦通りに動いてくれよ? 頼むぞ?
俺はサターンに向き直る。
「サターン」
「分かっている。これより〈天下一大星〉と〈エデン〉の〈決闘戦〉を行なう! 審判はムカイ先生だ! ムカイ先生には公平なジャッジを願う!」
サターンがまともな宣言を!?
〈秩序風紀委員会〉のとある部署に放り込まれると人が変わるという噂があるが、まさか本当だったのか?
上部にあるスクリーンにタブレットのような物を持った白衣のムカイ先生が映し出されると、ムカイ先生は無言で頷いた。
無口な人である。
さていよいよギルドバトル開始だな。
スクリーンに『選手準備中』の文字が映し出されると〈エデン〉と〈天下一大星〉は別れ、お互いのギルドはそれぞれの本拠地へと向かっていく。
お互いが本拠地に到着するとスクリーンタイマーのカウントダウンが始まった。残り1分でスタートだ。
よし、〈天下一大星〉、打ち破って見せよう!
お互いの本拠地は、
北が〈エデン〉白チーム。
南が〈天下一大星〉赤チーム。
ルールは〈城取り〉〈15人戦〉〈六芒星〉フィールド。
制限時間〈45分〉。
巨城は、東に2つ、西に2つ。中央に1つ。
東の2つはそれぞれ〈北東巨城〉〈南東巨城〉と呼称。
西の2つはそれぞれ〈北西巨城〉〈南西巨城〉と呼称。
中央にある城は〈中央巨城〉と呼称する。
お互いの本拠地が北と南にあるためそれぞれ近い巨城はあるが、
東、西、そして中央の巨城と三方向に絶妙な距離があるために容易に全てを取得することは難しい。
5名ずつ三方向へ分けるのか、それとも中央巨城が取られる可能性を危惧し、相手側にある巨城にも向かわせるのか、初動の大切さが問われるフィールドだ。
お互いのメンバーが配置に付く。
事前にミーティングは終わらせてあり、それぞれが狙う巨城ごとにチームを分けている。
俺の眼からしても、みんなの動きは纏まっている。
おそらく、良い動きができるだろう。みんな作戦がしっかり頭に入っている様子だ。
俺は自陣の本拠地を見る。
そこにはあるアイテムが仕掛けてあった。
初動が終わった中盤戦以降の活躍を期待して配置しておいた物だ。
基本的にフィールドへギルドバトル開始前の干渉、アイテムの設置や仕掛けは禁止されているが、本拠地だけは別だ。
ここには補給品も置いておかなければならないからな。
ギルドバトル〈城取り〉では〈空間収納鞄〉の使用は禁止なのだ。
持ち込めるのは普通のポーチやバッグ類だけである。
故に回復アイテムなどの持込には上限があるのだ。
持ち物も問題ない。
配置も完了。
準備万端だ。
「ゼフィルス、もうすぐよ」
「今回も勝ちましょう」
「負けられませんね」
「準備完了」
「気合を入れよう」
上からラナ、シエラ、エステル、カルア、リカ、の経験者組みがスクリーンを見つめながら言う。
スクリーンタイマーがゼロになりブザーが鳴ると共にギルドバトルは始まった。