#331 報酬の交渉。リーナの交渉にポリス君は真っ白。
メルトたちの反応は面白かった。
馬車に驚き、その速さに驚き、モンスターを蹴散らして進むその効率の良さに唸っていた。
さらに最奥に着いてからもメルトたちは驚いていた。
今回〈『ゲスト』の腕輪〉を装備したパメラはボス周回を見られないよう見張りをお願いし。
基本俺が指導する形で〈デブブ〉を狩った。
そしてリポップ。来たれ〈公式裏技戦術ボス周回〉!
その反応は二つに分かれた。喜ぶように「すごいすごい」と飛び跳ねる者と、疲れたように「ふぅぅぅ」と深い溜め息を吐く者だ。
もちろん前者がミサトで後者がメルトだ。
ふっふっふ、すごかろう?
「ミサトよ。〈エデン〉にはもっと隠された秘密がいっぱいあるんだ。正式加入すればミサトもその恩恵にありつけるんだぜ? ニッヒッヒ」
「くぅ、ゼフィルス君がすごい悪い顔をして勧誘を迫ってくるよ!」
とりあえずミサトの正式加入のお誘いは継続している。
ミサトの目とウサ耳が揺れ動いているのが面白い。
実は一時加入でしかないミサトに、〈公式裏技戦術ボス周回〉を見せても良いのですかとセレスタンから聞かれたのだが、将来的にミサトは〈エデン〉に加入してもらうつもりだし。もしなんらかの理由で加入しない場合でもミサトは安易にバラしたりしないだろうから問題無いとした。
正直、上級に行けば結局人はいないので〈公式裏技戦術ボス周回〉が漏れていても問題無かったりする。今だけ秘密であればそれで良いのだ。
今回のボス周回は放課後ということもあって他の学生との遭遇は無かった。
さすがに放課後でボス部屋まで来るのは非常識だっただろうか?
だったかもしれないな。
「かもでは無い。非常識である」
「メルトもハッキリ言うなぁ」
〈エデン〉で貴重な男子であるメルトとはすぐに打ち解けた。というか友になった。
すでにこんなにハッキリものを言う仲である。
「それでメルト、LVは?」
「……【賢者LV20】だ。たった1日でLVが2も上がったぞ」
「そいつは何よりだな」
「ふぅぅぅ。……そうだな」
放課後、そして相手が時間の掛かる〈デブブ〉ということもあってLVは2つしか上がらなかったようだが、とうとう二段階目ツリーが解放されるLV20を突破したメルト。
しかし、その表情は優れない。眉間に皺が寄ったままだ。なぜだろうか?
ミサトはあんなにはしゃいでいるというのに。
「ねぇねぇゼフィルス君。LVが25になったよ! 最近伸び悩んでいたのに一気に2つも上がっちゃった!」
ミサトもLV23から2つ上がり、【セージLV25】になったらしい。
おそらくミサトはLV24に近いLV23だったのだろう。この短時間で2つもLVを上げていた。
「明日は〈バトルウルフ〉だ。〈デブブ〉より戦いやすいからより経験値を稼げると思うぞ」
「なに? 〈バトルウルフ〉は強敵だ。この前のダンジョン週間では多くの学生が〈救護委員会〉のお世話になったと聞くぞ」
「戦術があるんだよ。今日もやりやすかっただろ?」
「……そうか。では明日も頼む」
「おう。任せとけって」
なぜか何かを諦めたような表情でメルトが頭を下げたのでとりあえず請け負っておく。
シエラのジト目が絶好調だ。
俺も絶好調である。
水曜日昼休み。
サターン君たちとギルドバトルの摺り合わせを行った。
何しろ〈決闘戦〉である。
〈決闘戦〉はそのギルド同士が報酬を出し合い、それを賭けてギルドバトルをする。
そして勝った方が報酬を総取りできるのだ。
ということで何を賭けるのかの摺り合わせだな。
しかし、問題発生。
〈天下一大星〉はEランクギルド。つまり初級ダンジョンを制覇している。
しかし、中級ダンジョンをクリアしたわけでは無い。
つまり賭けるものが乏しかったのだ。
元々「この嫉妬を勇者にぶつけたい〈天下一大星〉」と「これ以上絡まれるのも面倒なので受けることにした〈エデン〉」。
勇者を賭けると衛兵にしょっ引かれてしまうので、さてどうしようというところ。
長くなりそうなので今日は持って帰ることになり、明日改めてということになった。
放課後はダンジョンだ。
昨日と同じメンバーで〈小狼の浅森ダンジョン〉に入り、〈バトルウルフ〉狩りに勤しんだ。
〈バトルウルフ〉が俺を見るとなぜか尻尾が力なく下がってしまうのが気になるところだ。
結果ミサトが【セージLV27】、メルトが【賢者LV23】になった。メルトは眉間に皺を寄せていたが順調順調。
明けて木曜日放課後。
「では〈エデン〉からの要求は『不当な理由で絡んでこないこと』ですね。もし破りましたらペナルティとしてこれくらいを請求させていただきますわ」
「ちょ、ちょっと待ってほしい。これは横暴ではないか!?」
〈天下一大星〉との摺り合わせは〈エデン〉の頼れる軍師、リーナにぶん投げた。
そしてリーナが交渉で言ったのが先ほどの言葉だ。
恐ろしい。何が恐ろしいってリーナが言う『不当な理由』の具体的な基準が無い事が恐ろしい。これでは言いがかりし放題である。
なるほど。単純に物を報酬とするのではなく、ペナルティと称して永遠に巻き上げるつもりか。物を報酬にしたらその1回で終わってしまうからな。リーナ、恐ろしい子。
というかリーナ少し怒ってる? 何故だか目の前のポリス君に対する当たりが強い気がするのだが。
「何を言っているのですか? そもそもあなた方が嫉妬に狂って〈エデン〉に不当な要求を突きつけたのでしょう? 〈エデン〉も迷惑しておりますし、これは必ず飲んでいただきませんと。また絡まれてはたまりません」
嘘です。巻き上げる気満々です。でも迷惑とは思っているのか。
「ぐぬぬぬ。で、ではペナルティをもう少し減らしてはくれないか。それに『不当な理由』というのも具体的に明記してほしい」
「それが〈天下一大星〉の要求というのなら、お受けいたしますわ。その代わりあなた方が〈エデン〉に要求する報酬はその分低くなりますが、よろしいですわね?」
「そ、それは」
「そうですわね。これくらいでいかがでしょう?」
「…………」
リーナが提示したのは『初級ダンジョン〈銀箱〉産アイテム2つ分』。
〈天下一大星〉が勝ったときにゲットできる報酬は『初級ダンジョン〈銀箱〉産アイテム2つ分』の価値までということだ。
〈15人戦〉、しかも〈総力戦〉の報酬としてはとんでもなく微々たる報酬だった。
「報酬を釣り上げたいのであればそれなりの誠意をみせていただきませんといけませんわ。〈エデン〉は当然の主張をしているまでですから」
完全にリーナのペースである。
ポリス君の口からはエクトプラズムが見えるかのようだ。
結局『不当な理由』の具体的な明記をする代わりにペナルティを釣り上げ、〈エデン〉から出す報酬も『初級ダンジョン〈金箱〉産3つ』で手を打つことに決まった。
正直初級ダンジョン〈金箱〉産で使わない物なんてかなりあるので懐は全然痛まない。
プラス負ける気も無いので全然問題無い。彼らがあの額のペナルティを支払えるのかが心配になるところだ。
まあ、大人しくしていればペナルティを支払う事も無いから、これにて騒ぎは落ち着くだろう。
リーナが何か企んでそうな顔をしていた気がしたが、きっと気のせいだと思う。