#328 【賢者】【セージ】の育成論。賢者たちの答え。
面接は終了し、ミサトとメルトは〈エデン〉の加入が決まった。
ただし、ミサトだけは仮加入という形になった。これはミサトからの願いである。
要は今回のことについて責任の一端があるため、加入するのは〈天下一大星〉とのギルドバトルの時のみということだ。
つまり、一時加入である。
何度も言うようにこれはミサトのせいじゃないと言っているのだが、ミサトの性格からしてそこは譲れないらしい。
自分が誘い入れたメンバーがギルドを使って不祥事を起こしたのだから責任の一端はあるとのことだ。
責任を持つというのは大変だ。なのにそれをしっかり果たしたいというのは好感が持てる。
俺には出来るだろうか? そう考えたとき、確かに〈エデン〉のメンバーが何かやらかしてしまったとしたら、俺に関係なくても助けたいと思うかもしれない。
なので許可を出した形だ。
ふふふ、しかし甘いなミサトよ。
仮でも加入したら最後。我が〈エデン〉の総力をもって歓待してあげよう。
〈エデン〉には他のギルドには無い魅力溢れるあれやこれやがたくさんあるのだ。
骨抜きにしてやるぜ!
そして正式に加入させてくださいとミサト自身の口から言わせてやろう!
ふはは! ミサトよ、逃がさないぜ?
そんな一幕もあったが、それも落ち着き。続いて恒例のアレをすることにした。
そう、俺の十八番、〈最強育成論〉だ!
と思っていたのだが、何やらビックリな展開が俺を待っていた。
「……やるなぁ」
「たはは~。実はクラスの子にゼフィルス君の授業のこと聞いてね。〈育成論〉を私なりに研究してみたんだよ!」
「嘘をつけ。俺に泣きついてきただろうが。〈育成論〉を一緒に考えてくれーと縋り付いてきたのを俺は忘れてないぞ」
早速2人のステータスを見せてもらった反応がこれだった。
なんとミサトとメルトは自分たちで〈育成論〉を作り上げていたのである。
そして〈育成論〉を広めている俺に意見を聞きたいと尋ねてきたのだ。ビックリした。
改めて2人が作製した〈育成論〉が書かれたメモを見る。
ミサトとメルト、【セージ】と【賢者】の〈最強育成論〉も俺はしっかり作ってあった。
だが、彼らが作製した〈育成論〉、これはこれで非常に興味深いものだった。
まずクオリティが高い。よく出来ている。よく考えられている。
さすが賢者たちが考えた〈育成論〉だ。もっとも強くなる道筋がしっかり書かれていた。
「これはメルトが考えたのか?」
「いや、ミサトと2人でだ。さすがに俺一人ではこの〈育成論〉は手に余った」
「毎日のように放課後は意見交換したよね。下手にLV上げちゃうと戻ることはできないから2人で〈大図書館〉に籠もってさ。『ダンジョンなんて後でも行ける、まずは〈育成論〉が最優先だ』ってメル君が引っ張ってくれてね」
「おいミサト、だからメル君はやめろ。せめて学園では名前を呼べ」
「え~。ダメ?」
「ダメだ。ここは実家ではないんだぞ。気を引き締めろ」
「う~ん。わかったよ。じゃあメルト様?」
「うむ。それでいい」
どうやら2人は大変仲が良いようだな。信頼関係がよく見える。
それにこのメモだ。
この世界において、〈育成論〉という考え方はまだ着地したばかりの論理。
つまり研究がまだほとんどされていない分野だ。
にもかかわらずこの完成度は素晴らしい。
何しろ俺の〈最強育成論〉に、初期の育成の仕方が非常に似ているのだ。
これなら少しの修正で俺の〈最強育成論〉へ向かうことも可能である。
やはり、俺が〈育成論〉の授業を公開したのは間違いではなかった。
自然と口元がニヤけるのを感じる。
とそこで視線を感じた。
前を見るとメルトとミサトがジッと俺の様子を窺っている。
「ゼフィルスさん、正直に答えてくれ。その〈育成論〉をどう思う」
「あのねゼフィルス君、メルくっ……メルト様はゼフィルス君と〈育成論〉について語り合いたくて仕方ないんだよ。メルト様はゼフィルス君のファンだから」
「ミサトは余計なことは言わなくていい!」
「キュ!?」
喋りすぎたミサトにメルトが素早く頭をグワシと掴んだ。耳の付け根を抑える位置だ。
ミサトからなんだか首が絞まった時のような声が聞こえた気がした。
あとメルトの身長がギリギリで、ウサ耳を掴むため背伸びしているのが微笑ましい。
しかし、俺はそれより気になることがある。
「メルトは俺のファンなのか?」
「ふう。……〈育成論〉について詳しく語り合いたいと思っていたのは本当だ。この画期的な考え方をする方と、一度じっくり話してみたかった」
ミサトの頭部を未だ掴みながらメルトは言う。ミサトはなんだか顎を浮かせてプルプルしていた。「兎人」は耳が弱点なのか?
それはともかく、〈育成論〉にこれほど興味を抱いてくれるというのは素直に嬉しく思った。
「これからいくらでも機会はあるさ。それにこのメルトとミサトが考えて来た〈育成論〉は、素晴らしい」
「本当か!?」
「キュ!!」
メモを褒めた途端メルトが身を乗り出して言う。未だ頭掴まれ中のミサトが変な声を出していたが大丈夫だろうか?
「……とりあえずミサトを離してやってくれ。なんか苦しそうだぞ?」
「……ゼフィルスさんが言うなら仕方ない。ミサトは余計なことは言わないよう気をつけろ」
「ぜぇぜぇ。はぁい、ごめんメルト様~。だからウサ耳締めはご勘弁を」
やっと解放されたミサトがなぜか疲労困憊だ。
ウサ耳締めって何だろうか? 兎の耳を締めたら何が起こるのだろうか? 気になることが多い。
しかし、それよりもメルトが〈育成論〉について語りたがっているので、残念ながら聞くことはできなさそうだ。
ふう。一つ息を吐く。
それにしても、俺からしても意見交換ができる人材というのは嬉しい。
〈ダン活〉プレイヤーは、自分の〈最強育成論〉がもっとも優れていると思っている。
だから、基本的に自分の〈最強育成論〉を勧めるだけで譲らない。俺の〈最強育成論〉がもっとも優れていると言って譲らない。しかし、相手の〈育成論〉を参考にすることはよくあった。
〈ダン活〉は1,021職もの職業があり、最強とは時代と共に移り変わっていくものだからだ。
〈ダン活〉には対戦機能があった。他のプレイヤーとギルドバトルする機能があった。
故に研究されて、対策されて、新しい発見があった。
俺の〈最強育成論〉だって全てのデータベースを参考にし、その果てに考え抜いた最高の結晶だ。
しかし、いつまでもこのまま最強の座に居座り続ける事はできない。対策されて当然だからだ。
だからこそ〈育成論〉について意見交換ができる相手は欲しかった。
まあ、この世界はまだまだ未発見の職業すらあるのが現状なので、俺の〈最強育成論〉は当分最強の座から移動はしないと思うがな。
しかし、ここはリアル。
ゲーム時代は好きな人種を仲間に加えられたが、リアルではまったく見当たらない人種なんかもいる。仲間に加えられない事もあるだろう。
だからこそ新しい〈最強育成論〉のデータが必要だ。俺はそう考える。
メルト、それにミサトは貴重な理解者となるだろう。
俺は休み時間にメモしておいた【賢者】と【セージ】の〈最強育成論〉を取り出し、テーブルに置いた。