#326 ショタ【賢者】登場。【セージ】と共に面接開始
授業が終わり放課後、今日は前の席が全て空席で静かだった。
勉強がすごく捗った。
また、ミサトの紹介で8組に在籍している【賢者】を加入させるチャンスが巡ってきた。
ツキが巡ってきているのかもしれないな。ふはは!
――〈戦闘課1年8組〉。
1年生には『隠されたエリートクラス』が存在する。
俺がそのことを知ったのは、実は最近だった。まさか俺が高位職をリークしたせいで隠された、なんかカッコイイ名前のクラスが出来上がっていたとは夢にも思っていなかったんだ。
今は6月。
すでに8組の学生は自力であらかたどこかしらのギルドに在籍し終わっていた。俺が気がついた時には、残念ながら遅かったんだ。スカウトするには引き抜くしかないが、引き抜きを掛けるには〈エデン〉はまだ力不足と言わざるを得ないだろう。Eランクだしな。
というわけで、〈エデン〉が育つまで8組は諦めようと思っていた矢先の紹介だ。
もう、ミサトには大感謝である。しかも【賢者】って……。超優秀職じゃん!
やったぜ!
そんなわけで少しいい気分でラウンジに向かう。
そこで例の「伯爵」の子息と待ち合わせだ。
ちなみにミサトは一足早く子息の下へ向かっている。
さすがに紹介するにしても面接するにしても本人の意志を確認しなくちゃいけないからな。
「セレスタン、そういうわけだからよろしく頼むな」
「任せてくださいませ。こちらでも資料を作っておきました。面接の前にごらんください」
「え? ああ、ありがとう?」
なんの資料だろうか?
軽い気持ちで読んでみたが、そこにはなぜか件の【賢者】君の詳しいプロフィールが書かれていた。
なんでだよ!
セレスタン、いつの間に調べたんだこれ?
面接が決まったのは今日の朝だよ? 今まで授業があっただろ? どこに調べる時間があった!
「〈エデン〉にはラナ殿下がおります故、男子学生はたとえ伯爵の子息といえど調べさせてもらっています」
あ、察し。
なんか、ラナのお父さんの匂いがするぞ。「男子学生は」と付いている部分が特に。
いや、だからどこにその時間が……。
こほん。まあいいか。知らないほうが良いこともあるのかもしれない。
とりあえずプロフィールを読んでおく。
完全に個人情報漏洩だと思うが、そこは「伯爵」子息だからだろう、そこまで深いところまで書かれていない。
どちらかといえば採点に近いなこれ、上に『合格』のスタンプが押してあるんだけど……。
俺以外に合否を出す人物がいるのか。いつから〈エデン〉はそんなギルドに…。
「ゼフィルス様、到着いたしました」
「ああ。そうだな」
そんなことを考えているうちにラウンジに着いてしまった。
セレスタンが確保してくれた個室に入り、場所をミサトにチャットで教えると、すぐに返事が来る。
『了解。こっちも準備出来たから今から向かうね』
仕事が早いなミサトは。
チャットから少し経ったところで個室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼しまーす」
セレスタンがドアを開けると、片手を上げながらまずミサトが入室してきた。
「ほらメル君も入ってー入ってー」
「メル君はやめろと言っといたはずだが……。ふう。失礼する」
そう言ってミサトの後に続いて来たのは、銀髪の少年。
第一印象は、小さい、だった。
身長が、ハンナと同じか、もしかしたらさらに低いかもしれない。
「あ~、ゼフィルス君一つお願いなんだけど、メル君に背のことで触れてやるのはやめてあげてね。メル君すごく背が低いことを気にしてるから」
「まずは自分の言動を振り返ってみてくれないかミサト。あとそれを本人の目の前でお願いするのもやめようか?」
背が小さくて気にしていることをバラされた少年のこめかみに青筋が浮かぶ。
ミサトとは同郷で小さい頃から知り合いだったらしい。かなり親しげだ。
「メル君のことですから! 私、メル君が傷つくところなんて見たくないんです!」
「頼むから自分の言動を振り返ってみてくれ。さもなくばそのうっとうしい兎耳をはがして頭の中を見るぞ」
「ずいぶん仲がいいんだなぁ」
2人のやり取りは、何と言うか熟練の気安さを感じさせた。
しかし、さすがに話が前に進まないので声を掛ける。
「失礼した。謝罪する」
「いや、謝罪まではいらないよ。じゃあ、面接を始めてもいいかな?」
「お願いする」
緊張しているのかな? ミサトに話しかけるときより言葉が堅い。
ミサトがさっきからからかい気味の紹介をしているのは少年の緊張をほぐすためかもしれない。
改めて彼をよく見てみる。小さい。
まるでマリー先輩と同い年に見えるほどだ。いや、マリー先輩は実年齢が5歳上だったな。ふう。
さすがに「子爵」のショタほど幼くはないが、少なくとも高校生にはまったく見えないほど背が低い。確かに男なら背は気にするよな。ミサトよ、触れないであげてくれ。
しかし、顔はイケメンだ。かなり整っている。
胸ポケットには「伯爵」のシンボル〈白の羽根飾り〉を差しているのが確認できた。
立ち姿も品があり、高貴な身分を感じさせる。なんというか、只者ではないという雰囲気を出しているのだ。
さすがは【賢者】。只者ではないな。
お姉さま方にはちょっと人気が出そうな外見と思ったのは内緒だ。
和服とか似合いそう。
「まずは自己紹介をしよう。〈戦闘課1年1組〉【勇者】のゼフィルスだ。よろしく」
「〈戦闘課1年8組〉【賢者】のメルトという。今日はよろしく頼む」
まっすぐ背筋を伸ばして発言する彼の姿に、さすが「伯爵」家の子息という印象を抱く。凜々しい。
名前はメルトか。だからメル君なのか。ミサトよ、愛称を君付けで呼ぶのもやめてあげてくれ。男子には沽券にかかわるのだ。
「ではメルトと呼ばせてもらおう。メルトは今在籍しているギルドはあるのか?」
実はセレスタンが持ってきたプロフィールを読んで知っているが、さすがに俺が知っていると、ちょっと気持ち悪いのでそう聞いた。
「そうだな。現在はBランクギルドの〈金色ビースト〉というところに世話になっている」
そう、彼は今すでに他のギルドに在籍している。しかも600人しか在籍出来ないBランクギルドというエリート枠にだ。
「ふむ。〈エデン〉に加入するにはその〈金色ビースト〉を脱退してもらう必要があるが、大丈夫か?」
「構わない。〈金色ビースト〉に未来は無い。俺はもっと上を目指したい」
ほう? Bランクギルドの地位をあっさりと手放すのか。
そんな簡単に見限られる〈金色ビースト〉、いったいどんなギルドなんだ?
「〈エデン〉なら未来はあるということか?」
「無論、あると思っている。Sランクすら超えるというのが俺の認識だ。だからこそ〈エデン〉に加入させてもらいたい。絶対役に立ってみせよう」
メルトの視線がまっすぐ俺を見た。
その瞳は、嘘偽りの無い決意を思わせた。
そこに今まで黙っていたミサトが口を挟む。
「メル君はいい子なんだけど運がなくてさ。〈金色ビースト〉がやらかしちゃって路頭に迷いそうなの。大丈夫、メル君は生粋の実力主義だから、役に立つよ」
「ミサトは黙っていてくれ。縁を結んでくれたのは感謝しているが、ここからは俺の決意を認めてもらう場だ。口添えは無用だ」
なるほど。
プロフィールの通り生粋の実力主義というのは本当らしい。考え方が効率を求める〈ダン活〉プレイヤーに近いなと感じた。
しかし、そうなると余計気になることがある。
「聞いていいか? その〈金色ビースト〉というギルドについて、何をやったんだ?」
Bランクギルドというのはエリートである。
学生全体の憧れであり、多くの学生がその一握りの枠を目指し、そして淘汰されていった中で最後まで生き残った者たちが輝ける、そんな頂点に近き場所だ。
普通であれば、そんな簡単に脱退なんて言えるはずがない。たとえ将来Sランクになると言われても、今はただのEランクギルドに鞍替えする理由にはならない。と思う。
だから聞いておきたい。Bランクギルド〈金色ビースト〉で何があったのかを。
俺の問いに対し、メルトは淡々と言った。
「単純だ。〈金色ビースト〉在籍30人のうち11人が〈転職〉した。それだけさ」