#299 一週間が瞬く間に過ぎていくー。
ギルドの話し合いでエクストラダンジョンの一つ〈食材と畜産ダンジョン〉に行くことが決定してからの日々は早かった。
火曜日はサターンたちと再び青春の汗を流した。
昨日はあの後ミサトの応援もあってスケジュール3倍を何とかやり遂げたサターンたち、なんとLVが1上がったらしい。よかったな。
真面目に頑張ったらしいので今日は2倍のスケジュールにしてあげた。
ただサターンだけは俺の安眠を妨害した礼として今日も3倍スケジュールだ。
「うおー! なぜ、なぜ我だけぇぇぇ!!」
「ほらサターン、そこはフレアで味方を援護するんだ! クールタイムをよく計算しろ! 魔法を全部モンスターに撃ったら味方を援護できなくなることも考えるんだ! 必ず予備として何かしらの魔法を備えに持っていろ。全弾撃ちつくすな!」
「くっそおおぉぉぉぉぉ!」
「ふふ、こちらに飛び火しないでよかったですね」
「ああ。愚かなサターンめ、ゼフィルスを怒らせるとはバカなやつだ」
「まったくだな。これだから自尊心が無駄に高いやつは」
なんか他の3人が聞き捨てならない事を言っている。
鏡を持ってきてこいつらに見せてやりたい。
しかし、このハードな訓練のおかげもあってサターンは狙いがかなり正確になってきた。誤射も少ない。
また、魔法使いとしての立ち回り方も徐々に出来てきている。
こりゃ、このまま頑張れば良い魔法使いになるかもしれない。
水曜日の放課後は〈エデン〉のメンバーと共に素材採取などを行った。
〈丘陵の恐竜ダンジョン〉では〈上魔力草〉が採取できる。それは〈MPハイポーション〉の素材になるのだ。
現在〈MPハイポーション〉は、ハンナが〈MPポーション〉に中級〈銀箱〉産のアイテムを奉納することで生産しているが、中級〈銀箱〉産は数がまだ少ないし、少し勿体無い。
そのためできるなら普通の生産方法で〈MPハイポーション〉を生産したいところだった。
ルルやシェリアたちもLV40を超えたので、今日は中級に進出できた全てのメンバーとリーナを加えて中級下位で採取して過ごした。
リーナだけはLVが20になったばかりだったが〈『ゲスト』の腕輪〉を使ったため入ダンできた形だ。
またシズとセレスタンは何やら仕事があると言われ断られてしまった。
一緒に行くのならQPで〈『ゲスト』の腕輪〉を学園から借りようとも思っていたのだが、残念。
エクストラダンジョンに行ったときの予行演習が出来るかなと思っていたのだが、まあ今日は普通の放課後なので集まれないのは仕方ないか。
「ここが中級ダンジョンなのですね。わたくしが正式にここにこられるのはまだ先ですが、早く皆様に追いつきたいですわ」
「ま、頑張ればすぐに追いつけるさ。というより早く追いついてもらわなければ困る。リーナには指揮を任せたいんだからな」
「精進しますわ。ゼフィルスさんがその、教えてくださるのでしょ?」
「あ、ああ。こほん、とりあえずはLV上げを頑張ってほしい」
「ふふ。わかりましたわ」
見た目完全なお嬢様のリーナが流し目を送ってくるのを咳払いしてやり過ごし真面目な話をする。く、お嬢様のその目は破壊力が大きい。あまり見つめないでほしい。
視線を逸らすと、その先にはバッチリこちらに視線を固定したラナとハンナと目があった。恐ろしいことに目を逸らしてくれない。
俺は急ぎリーナとの話を切り上げ、別のメンバーの下へ足早に向かうしかなかった。
途中、登場した恐竜モンスター〈トルトル〉に、ルルが「愛します! あのぬいぐるみを愛でたいです!」と言って突撃し齧られるトラブルもあったが概ね楽しく過ごせたと思う。
ちなみにルルは齧られても平気そうに〈トルトル〉を撫でていたところを無事シェリアに保護されていた。
後でデフォルメされた〈トルトル〉ぬいぐるみがギルド部屋に飾られることとなった。
またぬいぐるみが増えていく……。
木曜日の放課後はミサトが言っていた【ホーリー】と【密偵】の紹介があった。
2人とも男子で【ホーリー】は〈戦闘課1年7組〉、【密偵】は〈罠外課1年2組〉の学生とのことだ。
もちろん2人とも高位職である。
【ホーリー】は【白魔導師】など回復系導師の高位職で高の下の位置に分類される回復特化職だ。ミサトの【セージ】は結界なども出来るため見劣りはするが、回復に関しては【セージ】をも上回る性能を持っている。
【密偵】は【シーフ】など斥候系の高位職で、同じく高の下の位置に分類されている。
鍵開け、罠外しはもちろん、ダンジョン内での索敵や調査なども出来る優良職だ。その代わり戦闘は少し不得意となっている。
中々素晴らしい人材だと思うが、よく〈天下一大星〉に加わりたいと思ったものだ。
ミサトの手腕がよかったのかな?
着々とギルドを抜ける準備を進めているようである。
またミサトは、ギルドを抜けるのを今月末に予定しているらしく、それまでは〈天下一大星〉の1人として共にダンジョンにも潜るらしい。
わりとミサトは面倒見が良いというか、筋をしっかり通す子のようだ。
「そういえばミサトは〈天下一大星〉を抜けてどうするんだ? 他に加入するギルドが見つかったのか?」
「んや。実はまだ見つかってないんだよね。だけど元々勧誘合戦が活発な時期をやり過ごせれば抜けるつもりだったし、〈天下一大星〉は最初勧誘避けとして加入させてもらったからさ、ちゃんと筋は通しておかないと彼らにも不義理だしね」
「……絶対気にしないと思うが」
5月はギルドバトルが非常に活発になる時期である。
4月に負けてランク落ちしたギルドの下剋上もあるため激しくなりやすい。どこのギルドもそりゃミサトがほしいだろう。
しかし、5月さえ乗り切ってしまえばある程度落ち着く。ギルドバトルは一度受けたら1ヶ月は拒否できると規則で決まっているからだ。
6月になればある程度上級生の勢力図が固まってきて勧誘合戦は鳴りを潜めることになる。
そのため、ミサトは元々5月末で〈天下一大星〉を抜けるつもりだったようだ。
彼女の筋を通すべきという覚悟は固いらしいが、サターンたちは泣くと思われる。
「あはは、まあ入ってみてわかったけど、わりと居心地良いギルドだったしね。少し勿体無かったかなって思ったよ。彼らも面白いし、プライドだけ立派に育っちゃってるけどゼフィルス君の指導に文句を言いつつもちゃんとやってるし、実力だって付いてきた。根は素直で真面目な子たちだと思う。けど、これは私の問題だからさ」
「そっか。じゃ、ミサトさえその気なら〈エデン〉に来るか?」
「え? このタイミングで勧誘するの?」
「おう。〈エデン〉は今ヒーラー不足だからな。ミサトなら大歓迎するぜ? ま、考えておいてほしい」
「たはは。嬉しいこと言ってくれるじゃん。うん、前向きに考えるよ」
「頼むぜ。空きはあるから5月中には返事を聞かせてくれ」
そんな約束をして、その後はサターン君たちと青春の汗を流したのだった。