#296 波乱の予感? 1人の女子を巡ってひと騒動?
「おはよう~」
「来たなゼフィルス! 朝知らせたとおり、我らは貴様の引き抜き工作に対して全面的に抵抗する構えだ! どうかミサトを引き抜かないでくださいお願いします!」
「………何の話だ?」
いつも通り教室に入ると、どこかで見たような光景がそこにあった。
サターン君を先頭にいつもの3人が横一列に並んでいる。
仲良いなこいつら。
ちょっと違うのは、なんかサターン君がやつれている部分。後半の言葉にいつものプライドが感じられないぞ、いったい何があったというのだ。(←張本人)
とそこで俺は思い出した。
朝、俺の睡眠を妨害してくれたサターン君を。
許せん! 成敗してくれる!
「今日のスケジュールは2倍増しだ」
「!? そ、それは横暴だぞゼフィルス!?」
「ふふ!? 待ってください。それとこれとは話が別なはずです。話し合いませんか?」
「た、短慮は良くないな。この抗議は正当なもののはずだ。焦ってはいけないぞ」
「俺様が震えているだと? ゼフィルス考え直すのだ、俺様たちのギルドだって厳しい。どうか話をさせてほしい!」
俺がサターン君にペナルティを与えると後ろの3人まで慌てだした。
なんだか話がかみ合っていない気がする。
「そうだ、あのチャットってなんだったんだ? 朝は色々あって読んでなかったんだが」
「読んでなかったのかよ!? どういうことだ!? あれには大事なことが書いてあったんだぞ!?」
サターン君が目をむいて叫んだ。
いけないな。なんて反抗的なんだ。
安眠を妨害された礼には高値が付くという。
これはサターン君を絞れるだけ絞ってやらねばならないようだ。
放課後、楽しみにしておくといい。
「ふふ!?」
「わ、笑ってやがる」
「なんて恐ろしい笑い方なんだ。邪悪さが滲み出ているぜ」
後ろの3人がなぜか人の顔を見てビビっていた。
失敬な。
「は、話を聞け! まずはだ、貴様がミサトを引き抜こうとしたのが原因なんだぞ?」
「何の話だ?」
ミサトとは同じクラスの同級生で「兎人」のカテゴリーを持つ女子だ。
「兎人」は営業商業関係に強い適性を持つ【バニー】や、スピード系の戦闘に特化した【タイムラビット】など様々な方向へ伸ばすことが出来る優秀なカテゴリー。
ミサトはその中でも最高峰の高位職、【セージ】という強力な回復特化職に就いている。
見た目も可愛く、言動も明るいミサトはそれらのせいで上級生からしつこい勧誘を受けており、隠れ蓑としてサターン君たちのギルド〈天下一大星〉に一時加入した経緯があった。
確かに〈エデン〉は今ヒーラー不足。【セージ】のミサトが入ってくれればかなりありがたいが…。
しかし、ミサトを誘った記憶は…まだなかったはず。なかったよな? いや、あったかもしれない。最近忙しすぎて記憶から零れ落ちている。
「つまり、ミサトが〈天下一大星〉を抜けようとしているということか?」
「そうだ。ミサトは我らにとって重要なヒーラー。渡すわけにはいかん!」
「ふふ。ミサトさんは天使なのです。僕たちが方々を当たって全て断られ、絶望の淵にいたとき、彼女だけが〈天下一大星〉に加入してくれた」
「ミサトは俺たちの希望の象徴だ。いくらゼフィルスといえど、ミサトは絶対に渡せん!」
「たとえ俺様たちの身が砕かれようとも、絶対死守してみせる! この【大戦士】ヘルクの名に賭けてな!」
「………」
なんとか記憶の底からサルベージに成功すると、確かに彼らをやる気にさせるために「サボったらミサトを引き抜くから」的な事を言った気がすることを思い出した。
あの時はあくまで彼らをやる気にさせるための方便だったのだが、
どうやら大事になってしまったようだ。
というか、聞いてて少し切なくなってきたぞ。なんだその理由は。
1人僕の天使だとか言っている奴いるし、なんかアイドルみたいな扱いをされているのは気のせいか?
俺の記憶では、ミサトは一時加入というだけだった気がするが…、なぜこんなことに?
と言うことで全ての原因たる彼女に聞いてみることにした、ちょうど教室に入ってきたところを確保する。
「おはよー、――むぐぅ!?」
「確保完了!」
「「「「ミサト!?」」」」
そのままスッと教室の端までミサトを連行し問い詰める。
「それでミサトよ、これはいったいどういうことなんだ? 言い分があるなら聞くぞ?」
「むぐむぐ!? ぷは! 何々なに!? どういうこと!?」
口を塞いでいた手を離してやるとミサトは混乱中だった。とりあえず『リカバリー』を掛けてやる。
「いやいやいや、私は正気だし冷静だからね!? いきなり口塞がれて連行されれば誰だってこうなるから!? まずは説明プリーズ!」
「あれを見ろ」
千の言葉より見たほうが早いこともある。
俺は後ろ向きに親指で彼らを指した。
「おのれゼフィルス! 本性を表したな!」
「ふふ、ミサトを解放しなさい。さもなくば【大剣豪LV25】の僕の力が火を吹きますよ!」
「やはりミサトを〈エデン〉に引き抜く気だったか! させん、そうはさせんぞ!」
「俺様を忘れてもらっちゃ困るな! 俺様が代わりになる! ミサトを離すんだ!」
そこにはミサトの解放を訴える4人の姿があった。そしてその後ろに静かに立ち、いつでも制圧できるよう構える〈エデン〉の女子たちの姿も…。
なぜだろう、彼らよりもその後ろに立つシエラの方が気になって仕方がない。
シエラの目が俺に向いているのは気のせいだろうか?
それを見てようやく状況を飲み込めたのかミサトが冷や汗を流しながら応えた。
「ま、まずは落ち着こう? ほら、もうすぐ朝礼だしさ、詳しい話は放課後に絶対時間作るから。ね? お願い!」
そう言って九十度に腰を曲げるミサト。頭の兎耳までクイっと曲がっている。芸が細かい。
とりあえず約束は取り付けたのでミサトを解放し、何とか朝の一幕は収束したのだった。
良かったなサターン君たち。下手に俺に手を出していればきっと後ろからボコボコに制圧されていたぞ。
俺もシエラから「後で話があるわ」と思わず背中が冷たくなる言葉を言われたが、全部サターン君たちのせいと言うことにして切り抜けようと思う。