#288 最下層到着。まずは馬車の中で作戦会議だ。
今日は3話更新! 12時にも1話更新するのでよろしくお願いします! 理由は活動報告にて記載。
「やっと最下層だな」
徘徊型ボスも無事狩り終わり、俺たちは悠々と最下層の救済場所に足を踏み入れていた。
時間的にも、寄り道はしたがかなり優秀なタイムだ。エステルも運転上手くなったなぁ。
俺は満足げに頷くが、中には戸惑っている者も居る。リカだ。
「あっと言う間だったような、長かったような。時間だけ見ると11時とかなり早いのは分かるのだが、もう最下層なのか…。午前中に走破するとは本当に凄まじい物なのだな、〈乗り物〉装備とは」
今まで、1日掛けても最下層に行くことも出来ないが普通だったのだ。
いきなり初めてのダンジョンに入ダンして、1日で、いや午前中だけで最下層まで到達した〈乗り物〉装備に戦慄を隠しきれないようだ。
ふふふ、その反応を待っていた!
こんなにリアクションをしてくれると用意した側としてもうれしいね。
どんどん驚いてくれ。ふはは!
「とうとうボス戦ね! ゼフィルス、やるわよ! 〈笛〉を準備して!」
「待て待て、その前にボスについての作戦会議と注意事項なんかの説明が先だ」
ウキウキとしたラナが門へ突撃しようとするのをインターセプトして防ぎつつ、馬車内にて全員集合して作戦を通知する。
「〈馬車〉は便利ですね。車内で昼食を頂くことが出来ますから」
「今まではエステルがテーブルとか用意してくれていたものね。外で食べるのも新鮮で良かったわ」
「では外にご用意致しましょうか?」
「またの機会でいいわ! 馬車での食事も好きだもの」
「そこぉ、俺の話を聞いてくれ?」
エステルとラナ、ちょっと待とうか。
まあ救済場所に来たら休憩、休憩するのならお昼ご飯というのは分かるが、ラナ今さっきまでボスに行く気満々じゃ無かった? 心変わりが早い。
ちなみにこの〈サンダージャベリン号〉はスキル『車内拡張LV3』によって車内を広々と使う事が出来る。『テント』の機能もあるので寝泊まりが可能なほどだ。
つまり、生活空間が確保されている。
キャンピングカーみたいな物と思えばいい、のかな? 本物のキャンピングカーに乗ったこと無いけど。
さすがにシャワーは無いが、水くらいは出せる。エステルが何かのカートリッジを買ってきて取り付けたら出るようになった。ゲーム時代には見たことが無かったぞあんなもの。
多分だがゲーム時代は生活関係は全部カットされていたのだろう。
『テント』スキルのLVが上がればそのうちシャワーやなんかも充実するのだろうか?
後で調べておかなければ。
それはともかくとして、今まで救済場所に来たらエステルと俺でレジャーシートやテーブルなんかを設置していたが、〈サンダージャベリン号〉のおかげでそれもカット出来る。
時間の節約にもなるのが素晴らしいな!
しかし、今はとりあえずボス戦を優先したい。
「ここの通常ボスは〈電撃に悩むリス〉、通称〈ナヤミリス〉だ。常に身体が放電しているリスだな。結構大型でさっきの〈プラマイデンキツネ〉と同じくらいある。こいつはすばしっこいし周囲範囲攻撃をしまくるので不用意に近づけば痛い目を見る、が遠距離攻撃や全体攻撃はあまりしてこないので、魔法等による遠距離攻撃が有効だな」
まず通常ボスについてを語る。
正直言ってこいつはあまり強くない。〈キングダイナソー〉の方が明らかに強いだろう。
ただ、動き回るためタンクが機能しづらいのでやりにくい敵だ。だが、慣れてしまえばどうと言うことは無いだろう。
「次に俺たちが目的としているレアボス〈ビリビリクマリス〉だが、先ほどの〈ビビルクマジロー〉よりリス寄りな見た目で大きさは3mほどになる大きな、……リスだ」
「リスなの?」
「ああ、リスだ」
ラナが確認してきたので今度こそしっかりと言う。
まあ、なんとなく察しは付いているだろうが、初級下位に居た〈クマアリクイ〉と同じような感じだ。
その動きはリスというより、クマっぽい。
開発陣にはおそらくクマ好きが潜んでいるに違いない。
「こほん。〈ビリビリクマリス〉の行動は電撃を帯びた格闘戦だ。さらに『充電』という、非常に強力な自己バフを使ってきて攻撃力と素早さを上昇させてくる。これに対して対策は用意したが、もし成功されてしまうと、素早い動きに逃げることは難しい。ラナが襲われたら戦闘不能になる可能性もある、ラナとリカはヘイト管理に十分注意してくれ」
「ゼフィルス、ブーメラン?」
「ぐふっ!?」
カルアの思わぬ一言が俺の胸を抉った。漫画で書かれていたらセリフの槍が刺さった図になっていることだろう。
はい、さっきタンクのヘイトを超えて打っ飛ばされたのは俺です。カルアの純真な言葉が心に痛いです。
吐血する仕草をしてなんとか気持ちを持ち直す。ここで膝を付くわけには行かない!
「えー、こほん。次に一番警戒すべきユニークスキルの説明だ!」
「持ち直したわ」
「さすがゼフィルス殿です」
「カルア、茶々をいれてはいけない」
「ん」
褒められてもちょっと良い気分にしかならない。
ボス説明は退屈だったのか、カルアが珍しく茶々を入れてきたのをリカが窘める。
後でたくさん遊ぶから、今は話を聞いてくれ。
「こほんこほん。えー、〈ビリビリクマリス〉のユニークスキルは『クマリス流・我破大雷』だ。自身に特大の雷を纏って突進してくる、非常に強力なスキルだな。これは回避推奨だ。〈ビリビリクマリス〉が自分の方を向いたら、側面に回り込むように回避行動を取れ」
ユニークスキル『我破大雷』、意訳すると『我は狼也』だ。
おい、クマとリスはどこ行ったんだよ。とツッコミを入れたくなる名称。
さらに纏った特大の雷をよく見ると、微妙に狼の形をしている念の入れようだ。
開発陣が何を考えてこれを作ったのか分からないが、大体のボスは遊び心で出来ているのでこういうことはよくある。
某ポケットなマスコットが使う電気タイプの突進に似ている技だな。
横から見ると中々カッコイイが、威力はマジで強いので直撃するのはごめんだ。
だが回避は比較的しやすいため、当たらなければどうと言うことは無いだろう。
続いて立ち回りについて細々とした作戦を伝えて会議は終了する。
「やっと終わった」
「カルアはちゃんと聞いていたのだろうか…」
「やめて? ちゃんと聞いていたということにしておいて?」
カルアの一言にリカが不安を呼ぶ言葉を放った。
きっと大丈夫、ということにしておいて欲しい。
「さ、ボス戦よ! ボスを倒した後のご飯は、きっと美味しいわ!」
「頑張りましょうラナ様。今日のお弁当はハンナ様が腕によりを掛けて作った自信作だそうですよ」
「もうこれは勝ったわね!」
ラナはエステルの報告にすでに勝った気で居た。まあ、間違いでは無いだろう。
俺はゆっくりと〈笛〉を取り出して吹き始める。
門を潜ったところに現れたのは、レアボス〈ビリビリクマリス〉だった。