#027 王女の突撃! あ、間に合ってるので結構です。
「あなた。私の立ち上げるギルドに入らせてあげても良いわ!」
たとえ人避け装備をしていても話しかけてくる輩はいるものだ。
初のダンジョン突入から一夜明け、買い物に出かけたところこうして話し掛けられてしまった。今日はハンナが不在だから話しかけやすかったのかな?
目の前にいる、話しかけてきたと思ったら色々すっ飛ばしてギルド勧誘、いやまだ立ち上げてすらいない雰囲気のギルドに勧誘する美少女を見る。
輝くようなショートの銀髪に大海原のように青く勝気な瞳、学園指定の白い制服に紺のスカートには一年生を示す青の刺繍が入っている。
そして最も目に付くのはその頭に乗っている〈銀のティアラ〉だ。
それはこの美少女が「王族」であることを示していた。
なるほど、だからこんな高圧的なのかと納得する。
〈ダン活〉ではパーティやギルドを作る際、メンバーはスカウトする仕様だった。
職業を最初から持っている者をその職種によってスカウトしたり、職業未取得者をあえてスカウトし、一から条件を整えてレア職業に就かせたり出来る。
そして、スカウトできるのは職業だけではない。「人種」も可能だった。
「王族」は、そんなスカウトできるキャラクターの一部で、王子なら〈金の小王冠〉、王女なら〈銀のティアラ〉のシンボルを身に着けている。
ただ「王族」スカウトの難易度はそれなりに高く、名声値という値が200を超えないとスカウトできない仕様だった。初期は名声なんて0値なのでゲームを進めたらスカウトできるというわけだ。
ということは、いつの間にか名声が200になったのか?
確かに今の俺は【勇者】という職業に就いたことで有名になっているが、ゲームではそれだけでは名声値は上がらなかったはずだ。
俺が内心首を捻っていると、だんまりが気に食わなかったのか王女が食って掛かってきた。
「ちょっと、聞いてるの! 私のギルドに入れてあげるって言っているのだから返事は〈はい〉か〈イエス〉でしょ」
おお! 見事なマウンティングの取り方だ。
まさにわがまま王女。俺はわがまま王女、嫌いじゃない。
と思えるのもここが〈ダン活〉の世界だからだけどな。
では、せっかくのアプローチだけど断らせてもらおう。
「答えは、――〈ノー〉だ!」
「なあ!!?」
ちょっと溜めてノーと突きつけると、まさか断られるとは思わなかったのか王女が驚愕の声を上げた。
うん。ちょっと楽しいぞこれ。
いいリアクションだ王女様。
「悪いが俺は自分でギルドを立ち上げる予定だから、誰かのギルドに入る予定は無いんだ」
「ななな! なんて無礼者、この私がギルドに入ることを特別に認めてあげたというのに!」
わなわなと震える王女。残念ながら俺はノーと言える日本人だ。
まあ、普通なら権力か威光なんかでひれ伏すのが下民の役目だろう。断ったらただじゃすまなそうだし。
しかし、ここは〈ダン活〉の世界。
レベル主義という名の実力能力主義の世界だ。いくら権力を持っていようと未だ一年生の王女様は確実に俺よりレベルが低いに違いない。
というより【勇者】に勝る職業なんて存在しないので、入学したばかりでスタダ(スタートダッシュ)決めている俺にマウントとれる一年生なんているわけがない。
俺に何の対価も無しに命令を聞かせたいならそれなりのレベルでないといけないな。
それが〈ダン活〉の世界の常識だ。
ということで聞いてみよう。
「俺は【勇者】ゼフィルス。LV10だ。王女様は、おいくつで?」
「ぐ、ぬぬぅ……」
ぐうの音しか出ない模様だ。
こりゃあまだ職業は未取得の可能性が高いな。
職業持っていない子はまだ子ども。
いくら王族とはいえ未取得が見ず知らずのジョブ持ちに権力で命令するなんて話にならない。
特に迷宮学園ではなおさらだ。
「俺に言う事を聞かせたいなら本物の優良職に就いてレベルを上げる事だな」
「な、な、なあ!?」
「王族」は王族専用の特殊な職業に就く事ができる。
【プリンセス】とか【プリンス】なんかが有名か。かなり強力なバッファーだ。下級職の中でも高の中といった位置にある。
名声値200以上無いとスカウトできない「王族」はそれだけ優秀な職業に就く事が出来る仕様だったが、しかし同時に発現条件の難易度が高い仕様もあった。
おそらく、彼女ももっと高位の職業に就きたくて、でも発現条件が満たせなくて足掻いているところなのだろう。【プリンセス】だったらすぐなれるしな。
「お、覚えておきなさい! 私が高位職に就いて、その時になってギルドに入らせてくださいって言っても遅いんだから!」
「いや、だから俺は自分でギルドを立ち上げるつもりなんだって。初めから入るつもりは無いから」
「そ、そんなのダメよ! あなたは私のギルドに入るのはもう決定しているの!」
「いやどっちだよ?」
負け惜しみかと思ったらツンデレか?
面白い王女だ。高圧的なのに憎めない。むしろ憎いとも思わない。
俺は王女を、ちょっと気に入ったかもしれない。
「ま、また来るわ。今度はちゃんと〈はい〉か〈イエス〉って言いなさいよね!」
「おう、そっちもがんばれよ」
「くぅ、見てなさい!」
ツンデレっぽいことを言って立ち去っていく王女を見送った。
あ、そういえば名前くらい聞いておけばよかった。