#270 ギルバト終了。行き着く先は〈敗者のお部屋〉。
「あっちはまだ西巨城を落としてないわ! チャンスよ!」
「うむ、手こずっているみたいだな」
「ゼフィルス殿、ラナ様がこう申されています。行ってもよろしいですか?」
あれから東巨城も同時攻撃で落とし、2巨城を無事確保に成功したところ、反対側にある西巨城の実況中継のスクリーンを見たラナがそう言い、リカとシズも西巨城に突撃する構えを見せた。
現在、初動が成功し、ここからは中央を中心に小城を取りまくる手はずになっていたが、西巨城が先取出来る可能性があるのなら話は別だな。
「作戦変更! 行くぞ!」
「ヤー」
「了解よ!」
西巨城は現在進行形でトマ君とヘルク君、そしてミサトによってガンガンHPが削られている。差し込めるかは時間との勝負だ。短く全員に答え、すぐに西巨城へ全員で向かう。
先行するのはもちろん俺とカルアのツーマンセルだ。
カルア単体なら移動速度アップ系のスキルが多いためもっと速いが、〈城取り〉は自陣マスが隣接している土地しか攻撃出来ないルールなため仕方が無い。
どうもスクリーンを見る限り、西巨城はトマ君がほぼ1人でHPを削っているみたいだ。
まあ【セージ】のミサトは攻撃魔法が少ないし、ヘルク君はタンクメインだからな。
おかげでかなり時間を食っている。
間に合うかどうか微妙だが、これも練習だ。巨城はすでに2つ確保しているので別に取れなくていいが、取れれば勝ちがほぼ確定だな。
しかし、中央マスに差し掛かった時、俺とカルアの行く手を阻む者が現れた。
「ここから先は通せんぼうだ! ゼフィルス!」
「ふふ。計算によれば中央を抑え、あなたたちを通さないことが最善と判明しました。行かせませんよ!」
「サターンにジーロンか!」
いつの間にか中央マスまで戻り、俺たちが取得していた天王山をひっくり返していたらしい。良い判断だ。取られたら取り返すのが〈城取り〉の醍醐味である。
しかし保護期間はすでに切れているようだな。つまり俺たちが東巨城を目指した時にはすでに彼らは中央マスに引き返していた事になる。
呆然としていたように見えたが、ちゃんと次の行動に移ってくれていたようで何よりである。
天王山を取ればこうして相手の進行を阻止することが可能だからな。
対人戦を嫌って迂回することも出来るが、おそらく西巨城は間に合わないだろう。
ここで足止めした時点でサターン君たちの作戦勝ちというわけだ。
だが、その作戦、肝心な事が抜けているぞ?
「ん。余裕」
「『メガフレア』! くそっ! なぜ当たらん!」
そりゃサターン君の狙いが甘いからだよ。
それに、
「ふふ、ここです! 『パワー——」
「『ソニックソード』!」
「そ、そんなばかなぁ! くおっ!」
俺たちのスピードが単純に速いせいでもある。
サターン君は相変わらず狙いが甘く、カルアのスピードに振り回されてしまえば当たる事も無い。
ジーロン君は俺を待つ構えをしているが『ソニックソード』で余裕の回避だ。わざわざ待ち構えている相手に飛び込むなんて事はしない。そのままジーロン君に向けて剣を振って牽制しつつ、走り抜ける。
つまり、対人戦の経験不足なんだ。サターン君もジーロン君も。
敵がモンスターの場合はむしろ襲いかかってきてくれるが、人間相手ならこうして避けてしまうこともある。
作戦は良かったが、圧倒的に相手の進行を抑える技術が足りていない。
俺ならアイテムの力を借りていたな。対人戦は成立させるのがそもそも難しいのだ。
負けそうなら逃げるのが当たり前、通せんぼうされたら押し通るのが当たり前である。
対人戦とはリスクがあるからな。
だからこそ成立すれば白熱して面白いのだが。
「ま、待てー!」
「ふふ。まさか。僕たちがこんなにあっさり抜かれるだなんて!」
俺とカルアはあっと言う間にサターン君たちを抜き去ると西巨城へ向かって進行を再開する。
ちなみに中央マスの一つ上のマスがまだ自陣マスだったため、隣接する南西マスを取得することが出来た。
サターン君たち詰めが甘いな。通せんぼうするなら中央マスの上下くらいひっくり返しておかないと、こうして通過されてしまうぞ?
まあ初めてのギルドバトルなら仕方ない。
だが、ほとんどタイムを削られずに突破し、真っ直ぐ西巨城を目指したが、どうやら一歩間に合わなかったようだ。
俺たちが西巨城の隣接マスまであと一歩というところでトマ君の一撃によりやっと西巨城が陥落する。
「ああ。西巨城落ちちゃったか」
「ん。残念」
ま、彼らは5分以上巨城相手に頑張っていたようだからな、仕方ない。
「ふん! ゼフィルス残念だったな! 巨城を落としたのはこの俺だ!」
トマ君がデカい両手斧を担ぎ、ドヤ顔で言う。
確かに残念ではあったが、こちらはすでに2つの巨城を落としているわけで、なぜそんなに自慢げな顔をしているのか。
「ってうわ! 凄い大差じゃん! うちらのチームすっごい負けてるよ!」
「なんだと!」
「サターンたちは何をやっていたんだ!?」
あ、単純に状況を把握していなかったらしい。
ミサトがスクリーンに映る現在のポイントを見て叫ぶと、トマ君とヘルク君が遅れて気がついた。その表情は先ほどのドヤ顔が吹き飛んでいる。
「ねえ。このままだとうちらのチーム負けるよ! 早く次行かないと」
「確かに、のんびりしている場合では無かった!」
「待て、俺様に妙案がある」
ミサトの声にトマ君が平静を取り戻した。
そこにヘルクが何故か俺の方を向いてそう言った。
「…奇遇だな、俺も同じ事を考えていた」
トマがそれを見て続く。
嘘をつけ、絶対考えてなかっただろうと思ったが、そっとしておいた。
「え、どういうこと?」
「ふん、つまりだ。今ここでゼフィルスさえ倒してしまえば俺たちの勝ちだというわけさ」
違うぞ? ギルドバトルはポイント制です。
リーダーを倒せば勝ちなんてルールは存在しません。
ミサトは分からず質問し、トマ君の答えに驚愕する。
「いやいやいや、あの【勇者】君だよ!? 倒せるわけないじゃん!?」
「俺様たちに任せておけ! だが回復だけは頼むぞ。——行くぞトマ!」
「おうよ! あの屈辱の恨み、ここで晴らさせて貰おうか!」
こいつら、どこまで本気なんだろうか?
しかし、相手の人数を減らすのはとてもポピュラーな戦法だ。
Eランク試験の件を思い返せば分かるが、人数差があるだけで非常に勝ちを掴みやすくなる。
彼らの行動自体は間違っていない。
間違っているのは、
「食らえ! 『大戦士の意地』! からのぉぉ『ブレイクソード』!」
「これが最強の力だ! 『アックスボルト』ぉぉぉ!」
「——『シャインライトニング』!」
「「ぎゃぁぁぁっ!!」」
間違っているのは、戦力分析だ。
俺はすでにLV55だ。それに比べ、確か彼らはまだLV30にも届いていない。
あまりにも絶望的な戦力差だった。
一撃でHPが6割近く削られたトマ君、ヘルク君はタンクなので3割ちょい削られつつもそこそこ耐えていたが。
いいや、追撃しちゃえ。
「『ライトニングバースト』!」
「「ぎゃぁぁぁっ!!」」
「あ〜、だから言ったのに…、回復する暇すらなかったよ…」
ミサトが呆れたように彼らを見てそう言う。
3段階目ツリーの『ライトニングバースト』の威力は大きく、ヘルク君すらあっと言う間にHPを全損させた。さすがにこのLV差で3段階目ツリーの攻撃は受け止めきれなかったか。
これで2人は退場だ。
どういう原理なのか、戦闘不能になった彼らの足下に転移陣が現れて一瞬でトマ君とヘルク君が消える。
転移先はアリーナの観戦室だったかな? 〈ダン活〉プレイヤーからは〈敗者のお部屋〉と呼ばれていた場所だ。退場になったキャラはギルドバトルが終わるまでそこで観戦する事になる。
さすがゲーム。便利な機能が付いているな。
「きゃー!」
「ん?」
彼らが消えるのを観察しているとミサトの悲鳴が響いた。
そちらに振り向くといつの間にかミサトのHPが全損していた。
あれ? 俺何もしてないぞ?
「ぶい」
「カルアの仕業だったか」
どうやら俺にばっかり集中するあまりカルアの行動に注意が行き届かなかったらしい。
ミサトはいつの間にか背後に接近されてサクッとやられてしまったらしい。
「ああ! ゲームオーバーか~。もうカルアちゃん可愛いなりしてやるね」
「むふぅ。勝負は非情だって、ゼフィルスが言ってた」
「そっかぁ。まあ油断しちゃった私も悪かったんだけどね。あ、そろそろ転移されるみたい、じゃあね!」
「ああ。また後でな」
戦闘不能になったミサトの足下にも転移陣が現れると、一瞬で彼女が消える。
なんだか、さっぱりした気持ちの良い子だったな。
その直後。スクリーンからブザーが鳴り響く。
あれ? この音って?
「ん、勝者〈エデン〉だって」
「あ~。全員退場判定か〜」
スクリーンを見てみると、そこにはこう書かれていた。
〈『白4400P』対『赤2210P』〉〈残り時間23分22秒〉
〈赤チーム全退場により、試合終了〉
勝者:〈白チーム:エデン〉