#262 学園長室は公爵家の城にある。行くのが怖いか?
「フィリス先生ありがとうございました。早速詳しい話を聞きに学園長室に行ってきたいと思います」
「わかったわ。学園長に連絡するから少し待っていただけるかしら?」
やっと考察から帰還した俺はフィリス先生にそう答えると、学園長にアポイントを取ってくれることになった。ありがたい。
「悪いリーナ、ちょっと用事が長引きそうだ。なんだったら今日の予定は明日に回しても——」
「いいえ。わたくしも付いていきますわ、付いて行かせてくださいまし。もちろんその後の勉強会も致しますわ」
さすがにこれ以上待たせるのは悪いと思ったので今日の予定を明日に移す提案をしようとしたら食い気味に遮られてしまった。
どうやらリーナは学園長室にまで付いてこようとしているらしい。
学園長室が怖くは無いのだろうか?
俺はゲーム時代、何度も入ったことがあるので平気だが、普通の学園生活で学園長室に入るのは怖いと思うのだが。リーナは肝が据わっている。
と、そうこうしているうちにフィリス先生が戻ってきた。
「連絡が取れたわ。今学園長はちょうど学園長室にいらっしゃるみたいだから来ても構わないそうよ」
「ありがとうございますフィリス先生。早速行ってきます」
「はい。失礼の無いようにね?」
無事アポイントも取れたようなのですぐに学園長室へ向かって移動した。
「あの、ゼフィルスさんにお尋ねしたいことがあるのですが」
「ん? 言ってみ? 俺が知っている事なら答えてやるぞ」
移動中、リーナが困ったような顔をして質問してきたので聞く態勢になる。
「では、御言葉に甘えまして、学園長室ってどこにあるのですか? わたくし初めて行きますの」
ずっこけそうになった。
知らなかったのかい!
聞いてみると、リーナは入学から運命の日まで発現条件の訓練に最大限注力していたため、学園の施設等はほとんど行ったことがないのだそうだ。
一応学園案内は受けたが、このマンモス校の迷宮学園で一度の案内で全て覚えるのは不可能だからなぁ。
さらに授業が始まってからも気落ちしてそれどころではなかったとのこと。
まあ、なら仕方ない、のかな?
とりあえず質問に答えよう。
「学園長室はこの迷宮学園の中心地に聳える〈ダンジョン公爵城〉の2階にある。ほら、あそこに見えるあれだ」
そう言って俺は指さす。その先には、ここは学園なのに城がそびえ立っていた。
レンガで作られた西洋風のその城は、〈ダンジョン公爵城〉。中心地にある城なので〈中城〉とも呼ばれていた。
学園の中心地にある、公爵家領主の城だ。
〈迷宮学園・本校〉は学園長が領主をしている関係上、学園の中に領主が住んでいる仕様だった。
当然学舎が立ち並ぶ中、一際異質な城は注目の的だ。
あんなに目立っているのに、なぜ知らんのかと俺がずっこけそうになった理由である。
「まあ、イヤですわ。あれが領主様の城だっただなんて、無知な自分が恥ずかしいです!」
そう言ってリーナは真っ赤な顔を両手で隠していやいやする。
なんだか、あざと可愛い。
「まあ、聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥って言うし今知って良かったんじゃないか?」
「うぅ。はい。ですがゼフィルスさんにおバカな子と思われてしまったかもしれません。お願いですからそんな風に思わないでくださいませ」
「いや、別におバカな子とは思ってないぞ、ちょっと天然入っているかもとは思ったが」
「天然…。うぅ。なぜか友達からもたまに言われていました。ゼフィルスさんは天然入っている女の子はお嫌いですか?」
「あ、着いたな。ちょっと入場の手続きをしてくるから待っていてくれ」
「あ…、うう、残念です」
話しているうちにいつの間にか到着したので手続きのためにリーナを置いてその場を離れる。
ここは〈ダンジョン〉と名前は付いているが実際はダンジョンではなく領主の城である。
故に入場するのにちょっとした手続きが必要なのだ。
城の門を守っている兵士風の方に近づいて声を掛ける。
「すみません、先ほど連絡致しました〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉〈戦闘課1年1組〉のゼフィルスです。学園長クエストについて詳しいお話を聞きたく参上しました。学園長へお取り次ぎ願えますか?」
「おお。しっかりとした学生だ。話は聞いているぞ。まずは中で待つが良い、公爵様の準備が整い次第呼ぶからな」
そう言って兵士風の人が指示を出すと、門がガァァと重い音を響かせて開いた。この演出もゲームであったなぁ。
重い扉が開く時、ちょっと緊張するのはなんでだろうな?
近くに居たリーナを手で来い来いして一緒に中に入る。
中は豪華なホールだった。4階部分まで吹き抜けとなっており、中央には見事なシャンデリアが耀いている。
おお、シャンデリアとか直接目で見たのは初めてだけど、なんか引き込まれそうなほど綺麗と感じた。美しさの引力が凄い。ゲームではこんな迫力は無かったからかもしれないな、あの時は背景の一部みたいに感じていたし。
「ゼフィルスさん、迎えが来ましたわ」
「ん?」
リーナの声に我に返ると目の前にはスーツ姿の女性が立っていた。
ピシッとしたクールな秘書という出で立ちの印象を抱く。
「ゼフィルス様、ヘカテリーナ様ですね? あちらの部屋でお待ちくださいませ」
「それには及ばんよ」
「…御領主様」
クール秘書さんが案内してくれそうな所2階から声が響いた。
見上げると立派なサンタ髭を拵えた、入学測定の時にも見た学園長が立っていた。
「ちょうど区切りが良かったからの。ゼフィルス君、ヘカテリーナ君、良く来たの。さ、学園長室に来ると良い。ミス、案内を頼むの」
「かしこまりました御領主様」
そう言って学園長は奥に消える。あっちは俺の記憶通りなら学園長室があるはずだ。
「ではゼフィルスさん、ヘカテリーナさん。御領主様の準備が出来たようなのでご案内致します」
「はい。よろしくお願い致します」
待たされること無く学園長室に通してもらえるようだ。ラッキーだぜ。
クール秘書さんの後ろに着いていき、学園長室の前まで案内してもらう。
「到着いたしました。中で御領主様がお待ちです。——御領主様、お客様をお連れいたしました」
「うむ、入るといい」
中から学園長の許可が聞こえ、クール秘書さんが扉を開く。
さて、学園長と久しぶりのご対面だ。