#257 これが我らのギルド、〈天下一大星〉だ!
「拷問まがいの訓練なんてしてないぞ? 勘違いじゃないか?」
「き、貴様…! 俺にあれだけキツいダンジョン攻略や訓練をさせておいて身に覚えがないだと!?」
「俺様たちを訓練に強制連行したことや、指示に従わなかったら罰則と言ったことを忘れたのか!」
身に覚えがなかったため聞き返すと、後ろに控えていたトマ君とヘルク君が憤った。
しかし声は抑えめだ。さすが1組、優等生である。
施設で大声は人の迷惑になるからな。
だが、うーむ?
確かに言ったが、それはこいつらのせいでもある。
だってこいつらパーティ戦なのにまったく連携しようとしないんだぜ?
しかも敵がこちらより少ない場合は獲物の取り合いだ。唯一ヘルクだけは自分の役割を分かっていたようだが、他のアタッカー3人はてんでダメだった。目の前の敵をただスキルの大技で倒すことしか考えていなかった。
ま、その辺ちゃんと矯正しておいたけどな。(それが原因じゃね?)
確かに【大魔道師】【大剣豪】【大戦斧士】の魔法とスキルは高位職のため非常に優れている。強力な魔法『メガフレア』が二段階目ツリーで開放されるのは高位職だけだ。
要は職業自慢である。
つまり、この先まったく役に立たない。全滅して強制送還される彼らの図がバッチリ見えた。ギルドメンバーの育成でそのことを学んでいた俺は、こりゃいかんと彼らにも教えることにしたのだ。正しい役割というやつを。
ちなみに罰則は大した事は言ってない。せいぜいスクワット20回とか腕立て伏せ30回とかその程度のものだ。それで拷問とか言い出したら〈公式裏技戦術ボス周回〉でもっとたくさんの戦闘をこなしている〈エデン〉は何だと言うのだ。
首を捻る俺に顔を引きつらせたジーロン君が言う。
「ふふ、確かにあなたは強いのでしょう。クラスでもトップの実力を持っているというのも、……………………認めましょう」
「すごく認めたくなさそうだな」
「ですが、だからと言って僕たちを支配できるとは思わないことです! クラスの平和は僕たちが守ります! それを証明しましょう、このギルドバトルで! いくらLV差があっても、ギルドバトルでは関係ありません。僕たちがいかに優れているか見せてあげます!」
いや、優れていないから教えていたんだが…。
というか、まるで俺がクラスを支配し牛耳っているような言い方はやめて欲しい。そちらはまったく身に覚えがないのだ。ないよな?
俺が困惑して言葉が出ずにいると、後ろの3人も調子づくように続いた。
「そうだ! クラスを引っ張っていくのは、世界一の大魔法士になると約束されたこのサターン様よ」
髪をかきあげながらサターン君がフッと歯をキランとさせて言う。
自分を様付けだと!? どう見ても自惚れているようにしか見えない。
「何を言っているんだ。クラスを引っ張るのは将来どんなモンスターも一撃粉砕する予定の最強の大戦斧士、このトマだろ?」
なぜかサターン君にあわせて、こいつ力自慢か、というポーズを決めるトマ君。
予定って未定では…?
「俺様を忘れてもらっては困るな! クラスを引っ張るのはいつだって守りに秀でるものだと決まっている! 全ての背中は俺様に任せろ、大戦士の俺様こそがふさわしい」
くるりと回り自分の背中を見せつけてくるヘルク君。
背中合わせに戦ったら守って無くないか?
というかこいつらプライド高すぎじゃね?
へし折れても不思議ではないクラスなのに、とても頑丈なプライドに感心する。
何がここまで彼らを増長させるのか…。
まあそれは置いといて、
「つまり話を纏めると、俺に上に立たれるのは気に食わないからギルドバトルで負かしてマウントを取りたい、とそういうことか?」
「「「「そういうことだ (です)」」」」
「素直だな!」
認めやがったよ。いや、いいけどな。この世界は実力主義だし。
なんやかんや言っていたが、つまりはそういうことか。
………まあいいか。なんか楽しくなってきたし。俺とギルドバトルがしたいと言うのならやぶさかではない。
「あ、そういえばそっちのギルドはどうするんだ? 4人じゃ作れないだろ」
ギルドバトルとはギルド対ギルドのバトルだ。つまりサターン君たちもギルドに入っていなくてはギルドバトルは出来ない。
そしてギルドは最低5人からだ。4人では登録できない決まりになっている。
「ふ、我等はすでに5人目の優秀なメンバーを迎え、ギルドに登録済みだ! これを見ろ!」
サターン君がそう言って取り出したのは〈学生手帳〉、その画面にはギルド〈天下一大星〉という良く分からない名前が載っていた。
どうやらこれがサターン君たちのギルド名らしい。
「ふふ、天下一。とても僕らにふさわしい響きです」
「俺たちは全員、大の付く特別な高位職。大だけは外せなかったぜ」
「俺様たちは迷宮学園に輝く期待の新星、間違いなく世に名を轟かすことになるだろうな」
なぜか勝手にギルド名の解説を始める3人。
いつの間にか本当にギルドを作っていたのか。クラスメイトの門出だ! お祝いの言葉を贈る。
「おお! ギルド結成おめでとう! なんだよギルド作ったのなら早く言えばいいのに、そしたらもうちょっとマシなお祝いできたのに」
「ふふ、ありがとうございます。って違います、これで心置きなくギルドバトルが出来るということです」
「まだFランクだから練習ギルドバトルの項目しか選べないが、勝ち負けを決めるだけならば問題ない。やっと脱却できる」
「余裕ぶっていられるのも今のうちだ。俺様たちが本気を出せば、たとえ【勇者】が相手であろうとも負けはしないのだ。自由はすぐそこだ」
何故かもう勝った気のクラスメイトたち。
どこからそんな自信が来るのか、ちょっと頭の中を覗いてみたいぞ。
「そういえば、その5人目はどこにいるんだ?」
「ふふ、今日はダンジョンでLV上げをするらしいですよ」
勤勉! こいつらもダンジョンに行けばいいのに。
「さてゼフィルス! 話はわかったな? 日時は週末の放課後——」
「あ、俺金曜日は臨時講師があるから無理なんだ。木曜日にしてくれるか?」
「………日時は木曜日の放課後。…待て今なんと言った? 臨時講師だと?」
それはともかくとして、少し揉めはしたのだが。
今週の木曜日、サターン君たちのギルド〈天下一大星〉と〈エデン〉の練習ギルドバトルを申請したのだった。
やべ、俺ワクワクしてきた。練習とはいえギルドバトルだ!
心躍るなぁ。
〈天下一大星〉
頭の中でずっと「サ・ター・ン! サ・ター・ン!」というコールが鳴り響いているんだ。
もう天下一と入れるしかなかった。
許してほしい。
一応別の理由として、〈エデン〉は天上の楽園だから名前勝ちもしているんだ。〈天下一〉では〈エデン〉には勝てんのだよ…。そんな意味も篭っている。




