#250 金箱回! 共同作業に背中がゾクッと冷える。
「勝ったぞー!」
「勝ったわー!」
「やったー!」
「やりました!」
「ふふ、やったわね」
上から俺、ラナ、ハンナ、エステル、シエラの順に勝利の歓声を上げる。
おお! いつもは俺とラナが叫んでハンナが付いてくる感じだったが、今回は全員参加だ!
それだけ今回の中級下位ダンジョンボスは強敵だったと言うことだろう。喜びも一入だ。
「あ、証だ!」
ハンナの声に皆が自身の手を見ると、いつの間にか証が握られていた。
俺も手を見ると、〈丘陵の恐竜ダンジョン〉攻略者の証がそこにあった。
ああ、なんかいいなこう言うの。ゲーム〈ダン活〉時代はただゲットしたと表示されるだけだった証、それがこうして実際に手に入るとなんかすごく達成感で満たされるのだ。
他の皆を見渡してみるとラナとハンナがジーンと来た顔をしていた。エステルは頬を緩ませ、シエラも普段のクールな表情を崩している。
俺も盛大にニヤけている事だろう。早速中級下位ダンジョン攻略者の証を胸に付ける。
また勲章が一つ増えてしまったな。ふはは!
一通り勝利を実感したところで次はドロップだ。
「中級ボスもドロップの数は初級と変わらないのね、あんなに強いのにちょっと理不尽だわ」
ラナが周りに散らばるドロップを見て口を若干尖らせる不満顔だ。
まあ仕方ない。初級はあくまで初級。難易度:やさしい、である。
やさしさが取り除かれてしまえばこんなもんだ。厳し!
宝箱以外の全てのドロップを回収し終え、最後に全員の視線が一カ所に集まった。
もちろんそこにあったのは宝箱、しかも〈金箱〉である。それが2つも!
〈丘陵の恐竜ダンジョン〉のボスは合計で6体倒してこれで〈金箱〉は3個、かなりラッキーだ。
これがビギナーズラックってやつだろうか?
いや、〈幸猫様〉のおかげだな。(確信)
後でとても素晴らしいお肉をお供えしなくっちゃ!
…もしかして催促されてる? 脳裏に過ぎる黄金の肉。
いや、きっと気のせいに違いない。〈幸猫様〉はそんな催促なんてしないんだ!
さて、それはともかく初の中級最奥のボス攻略の宝箱だ。
思い出に残ること間違い無し。ここは攻略者代表としてギルドマスターの俺が開けるとしよう。
「ちょっとゼフィルス! そうはさせないわよ!」
「そうだよゼフィルス君! ギルドマスターに宝箱を開ける権限なんか無いんだよ!」
「なんだとぉ!?」
一瞬で俺の目論見を看破したラナとハンナが宝箱の前でインターセプト、俺の行く手を阻んだ。
くっ、ギルドマスターに宝箱を開ける権限が無いだと? そんなことない!
「ここはギルドマスターの俺が! 全責任を持って開けたいと思う! いや開ける!」
「ダメよ!」
「ダメ!?」
まさかのダメ。そんなことはないはずだ。
「俺がダメなら誰なら良いって言うんだ!?」
「もちろん私よ!」
「俺は!?」
「却下よ!」
くっ、ラナめ。なんて堂々と言い放つんだ。ちょっと王女の威光を感じたぞ。
「あなた。前回私が言ったこと、綺麗に忘れてないかしら?」
そこにシエラ登場。前回? はて? なんだっただろうか?
見ればラナは勝ち誇った顔をしていた。
「順番的にハンナ、そしてラナ殿下の番だったはずよね? ゼフィルスは前回開けたでしょ?」
「く、覚えていたか」
「忘れるわけがないじゃない!」
いけるかと思ったが、いけなかったらしい。
「もう、ゼフィルス君はいけない子!」
ハンナからもいけない子呼ばわりされてしまった。無念。
「そこまで落ち込むことなのかしら…。はあ。なら2人で開けたらいいじゃない?」
「「2人で!?」」
シエラの提案に度肝を抜かれた。ラナと俺の声が重なる。ハンナはすでに宝箱の一つに張り付いてキョトンとしていた。聞き逃したらしい。
しかし、2人で開ける。その考えは無かった。ゲーム時代にも無かった。
「でも、ラナ殿下たちが良いって言えばよ?」
シエラのその言葉に、ラナはなんだか小さくブツブツ言っている。なんだか「これが共同作業…ってやつかしら」とか聞こえた気がするが、気のせいか?
「こほん。まあ? ゼフィルスがどうしてもと頼むのなら一緒に開けさせてあげなくもないかもしれないけ、ど?」
なんだって!? そんなの答えはもう決まってる!
「俺はどうしてもラナと一緒に開けたい!」
「ふわ!? そんなストレートに!? え、え? うん、そこまで言うなら、いいわ、よ?」
「なんで疑問形?」
しかし、心の広いラナが〈金箱〉を一緒に開ける許可を下さった! ありがとうございます!
ラナが妙に緊張した感じなのが気になるが、とりあえず俺が左側半分、ラナが右側半分の位置で宝箱の前に屈んだ。
「なんか妙に近くないか?」
「し、仕方ないじゃない。宝箱が小さいのが悪いのよ」
気がつけばラナがほとんどぴったりと横に付いていた。
この〈天空の鎧〉さえ着ていなければ肩が触れあっていたに違いない距離だ。
くっ、何故俺は鎧を着ているんだ!? 今から暑いなぁとか言って脱いだらダメだろうか? ダメだろうな。
何故か〈金箱〉を開けるドキドキ感に別のドキドキが混ざってきた気がする。
見ればラナも耳が真っ赤だ。あれ? これって宝箱を開けるだけだよな? なんか俺の知らない空気で満ちているんですけど。いつの間にこうなった?
「うう、ラナ様が羨ましいです」
「そうね。提案しておいてなんだけれど、私が開ければ良かったかしら」
後ろでハンナとシエラがなんか言っているが俺の耳には届かない。
ふとラナと目があった。その大海原を思わせるブルーの瞳に思わず吸い込まれそうになる。ラナの瞳って近くで見るとこんなに綺麗だったんだな。
「ちょ、ちょっとゼフィルス。そんなに見つめないでよ。恥ずかしいじゃない」
「あ、ああ。…ラナの瞳って綺麗だなって思ってさ」
「なあ!? も、もう。嬉しいじゃない。もっと褒めてもいいわ…よ?」
「早く開けなさいよ」
そこでシエラに窘められた。なんだかその声はいつもより冷えている気がするのは気のせいか? 背中がゾクッときたぞ。
ラナが恨めしげにシエラの方を向くが。そこには仁王立ちするシエラが俺たちを見下ろしていた。なんだか雰囲気がちょっと怖い。
「ラナ殿下ではいつまで経っても開けられないご様子。私と交代しましょうか?」
「だ、ダメよ! す、すぐ開けるわ! ゼフィルス、祈るのよ!」
慌てて〈幸猫様〉に祈るラナ、俺も続く。後ろからシエラの溜め息が聞こえた気がした。
「じゃあせーので開けるぞ」
「うん」
「せーの」
俺が左側を持ち、ラナが右側を持って、同時に宝箱を開いた。
全員が身を乗り出して宝箱の中身を見る。
中に入っていたものは、
「あ!」
「これ」
「はわ」
「わあ!」
「マジか」
上からラナ、シエラ、エステル、ハンナ、俺と順に驚愕の声を上げた。
〈金箱〉に入っていた物は、この世に知らない人はいないほど有名で貴重なアイテム。
〈上級転職チケット〉だった。