#244 感じてくれ、これが〈スッキリン〉の力だ!
「気持ちよかったわ! なんかこうスカッとした感じ、胸のつかえが取れた気がするのよ!」
「そいつは良かったなぁ。ラナむっちゃスキル回してたからな」
20層Fボス〈ジュラ・ドルトル〉を屠った時のラナの感想がこれだった。
どんだけ鬱憤が溜まっていたのだろうか。むっちゃムッフーしてる。
前回速攻でボスを落としてしまったエステルが身体を小さくさせているぞ。
ラナはボス戦でガンガン攻撃とバフを飛ばし、回復も飛ばし、むちゃくちゃ活躍していた。
ラナ上手くなったぁ。前のようにうっかり違うバフを掛けてしまうなんてことも最近は減ったからな。嬉しいはずなのに、ちょっと寂しく思ってしまうのはなぜだろうか?
ラナはこのままポンコツではなくなってしまうのか…。
「あ! あれは何かしら? 気になるからちょっと見てくるわ——キャー! 何これネチャッとしたわ! 罠よ罠! 全員気をつけて!」
「ラナ様。大丈夫でございます、それはモンスターの卵です。踏み潰しただけですよ」
いや、やっぱりポンコツぶりは健在だった。
どうやら採取ポイントに足を踏み入れたラナが卵を踏み抜いたらしい。
ちょっとホッとしたのはなぜだろうか?
ちなみにこの卵は〈モンスターの卵〉という名称の資源であり、実際にモンスターが生まれることは無かったりする。無精卵とはまた違う、自然に湧く卵だ。さすが〈ダン活〉の世界。卵とは産むのではなく湧くのが常識である。初めて知ったときは度肝を抜かれたものだ。
とりあえず料理アイテムに使う食材なのであるだけ持って帰ろう。
無事な物を採取する。
「う~。足がネチャってするわ」
「ドンマイだな。ほれ、〈スッキリン〉あげるから使ってみろ」
情けない声を出す王女様に俺がいつも愛用している使い捨てアイテム〈スッキリン〉を渡してフォローする。
これはラノベなんかで出てくる所謂〈清潔〉の魔法みたいなもので、体が綺麗になり、スッキリ爽快するアイテムだ。ダンジョンのお供にこれ以上のアイテムは無い。
しかし、女性陣はこれよりも実際にシャワーを浴びたいらしく、あまり受けはよくない。
俺は良いアイテムだと思うんだけどなぁ。そんなことを考えながらラナに渡す。
「ありがとうゼフィルス~」
おおう。情けない感じの上目遣い。中々の破壊力が返ってきた。
どうやら相当ヘコんでいたらしい。
声に甘えが混じっていた。ちょっとドキッとしたのは内緒だ。
ラナが〈スッキリン〉を使うと、ラナの足はピカピカになった。いや足だけではなく身体全体がリフレッシュされていく。相変わらず、すごい効き目だ。
「あ、これ悪くないわね。というよりいいわね!」
「汗やベタつきなんかもそうだが、臭い汚れも全てリフレッシュしてくれるからな。結構重宝しているぞ」
「ゼフィルス、その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「うおっ!?」
説明していたらいつの間にか後ろにシエラがいた。まったく気配を感じなかったんだがシエラは忍者か? いや忍者はパメラである。シエラではない。
というか目がマジなんだけど。どうしたというのか。
「ゼフィルス君、なんでそんな良い物教えてくれなかったの!」
「ハンナまで目がマジに…。いや、前に説明したじゃん。これ一本でわざわざシャワーを浴びなくても浴びたと同じ効果が出るぞって」
「………覚えがあるわね」
以前、一応説明はしておいたのだが、どうやら記憶から零れ落ちていたらしい。
女性は風呂好きだからな、もちろん俺も好きだが、そのせいで「風呂に入らなくてもいい」という言葉が彼女たちにはナンセンスに映っていたようである。
なるほど、納得した。ダンジョンから帰ったらシャワーは女性の心理。それを否定する俺の紹介の仕方がダメだったようだな。謎は全て解けた。
「シエラたちも、使うか?」
「……いただけるかしら」
「え、ええと。ありがとうねゼフィルス君」
とりあえずシエラとハンナ、ついでにエステルにもお裾分けして事なきを得る。
女性陣のマジな目って迫力があったよ。
早速女性陣は〈スッキリン〉を使って身体の調子を確かめ始めた。
犬のようにクンクン臭いを確かめている。俺はスッと目を逸らした。
「なるほど、確かにこれは良い物ね。まさか見落としていただなんて」
「本当ですね。心なしか疲れも取れたように感じます」
シエラとエステルの評価も上々のようだ。どうだ、〈スッキリン〉は良い物だろう。
やっと〈スッキリン〉の重要性を理解してもらえ、俺も嬉しく思う。
「スッキリしたことだし、早速狩りね!」
「スッキリと狩りの関係性が不明な件について」
よく分からないが、狩りと言うのなら俺に否は無い。
俺、狩り、スルヨ!
「違うわよ、あっちにモンスターがいるわ! 21層、初のモンスターよ!」
「そういうことか。よっしゃ、全員戦闘準備!」
毎回のことながらラナが第一発見者だ。どんな嗅覚をしているのだろうか。
身体をチェックしていた女性陣にも声をかけ、戦闘準備を整える。
「というか見えないんだけど、どこにいるんだラナ?」
「あの岩の陰よ。なんだか視線を感じるのよ」
ラナが指さす先には大岩が鎮座していた。
この草原フィールドにあって中々に異物感を放っている。
確かにアレならモンスターの3匹や4匹簡単に隠れられそうだが、俺の記憶にはそもそも隠れてこちらの様子を窺うようなモンスターに心当たりがいない。少なくとも〈ジュラパ〉には。はて?
しかし、注目を集めるのに慣れているラナが視線を感じるというのだから見られているのだろう。
もしかして人かとも思うが、今日は入ダンした学生はいないはずだ。いや、俺たちがFボスとやり合っている時に入った人だろうか? うーむ。
いや待てよFボス? そうかFボスだ!
「思い出した! モンスターの正体が分かったぞ。この〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の徘徊型フィールドボス、〈ジュラ・レックス〉だ!」
「っ——!! フィールドボス!?」
ラナがマジ? みたいな声と表情で俺を見上げた直後、ドカーンと岩を粉砕し巨大な影がその姿を現した。
この〈丘陵の恐竜ダンジョン〉で21層から29層までの道でランダムに徘徊している徘徊型フィールドボス。力強い二足歩行に巨大な頭を持ち、強い威圧感を放っているそいつこそ、このダンジョンで最奥に行く手を阻む者。名は〈ジュラ・レックス〉。
おいおい、21層に入って初めてのモンスターがまさかの徘徊型かよ。
3連続フィールドボス戦とか予想外だったんだけど!