#239 金曜日は選択授業の日。決まらないので相談。
金曜日だ。
今日は選択授業の決定日。自分がどの選択授業を受講するかを決める重要な日だ。
とりあえず先週の体験授業を踏まえ、めぼしいものをピックアップ。
今日も色々と体験授業を回って決めたいと思う。
「セレスタンは今日も一緒に回るのか?」
「はい。よろしければお供させていただきたく」
「構わないぞ。じゃあ一緒に行くか」
先週と同じくセレスタンは俺の従者として供に選択授業を回るようだ。
楽しそうな授業にめぐり合えるといいなぁ。授業が多すぎて中々決まらないんだ。
一度クラスへ集まり朝の朝礼を終えると、皆各々と選択授業へと向かう。
何故かサターン君たち4人が何かから逃げるように真っ先に出ていったのが印象的だった。どうしたのだろうか?
そういえば〈エデン〉の皆はもうどこを受講するか決めたのか?
今週はサターン君たちにかかりきりになってあまりギルドに参加できなかったから聞いていなかった、ちょっと聞いてみようか。
まず中央付近の席に座るラナに話しかける。
「ラナ、ちょっといいか?」
「あ、ゼフィルス! 最近全然ギルドに来てないじゃない! 何してるのよ、皆寂しがってるわよ!」
「あっと、悪かった。明日は朝からダンジョンだからちゃんとギルド行くよ」
ここ数日、というか今週の平日はギルドに行かずにずっとサターン君たちを鍛えていた。
ほとんどのメンバーとは教室で会えるし、ギルドに行かなくても大丈夫だろうと思っていたのだが、寂しがらせてしまったらしい。
明日は土曜日、一日ダンジョンアタックの日なのでちゃんとギルドを盛り上げようと決める。
「もう、絶対よ?」
「もちろんだ。なんと言っても明日は日曜日の続きだからな」
それを聞いて思い至ったのかラナから満面の笑みがこぼれた。
「楽しみね! 約束よ? 絶対だからね?」
「わかってるって」
俺だって楽しみなんだ。
土曜日は〈エデン〉でダンジョン。これ決定。
サターン君たちには自主練を言い渡しておこう。
「話は変わるが、ラナは選択授業どこを受講するのか決めたのか?」
そう聞くと、ラナはふふんと得意げな顔を作った。
「そんなのとっくに決まっているわ」
「お、そうなのか。ちょっと意外。どこにしたんだ?」
「意外ってどういう意味よ! もう。ゼフィルスには教えられないわ」
「えー。じゃあセレスタンに教えてやってくれ。俺は聞こえないフリしてるから」
「フリってことはバッチリ聞いているじゃない、どういうことよ!」
おお。ラナがツッコミを。珍しい。いや、俺がボケたからだけどさ。
どうやらラナは受講先を秘密にしたいらしい。
いつの間にかラナの後ろに控えていたエステルを見るが苦笑しているので本当に教えてもらえないようだ。
俺に教えられない選択授業か。ちょっと気になるな。
まあ、おとなしく諦めよう。
「じゃあ、お互い頑張ろうなぁ」
そう言って2人と別れると、もう教室には少しの人数しか残っていなかった。
皆移動してしまったようだな。しかし幸いにも教室を出て行くシエラとルルが目に付いた。ちょっと追いかけて聞いてみる。
「シエラ、ルルちょっといいか?」
「あら、ゼフィルス、それにセレスタンもどうしたの?」
「ゼフィルスお兄様です。おはようございます!」
「元気があってよろしい。ルル、おはよう。シエラもな」
「おはよう。セレスタンもね」
「おはようございます。シエラ様、ルル様」
ひとまず挨拶を交し合って、歩きながら話し出す。
「いや、まだ受講する選択授業が決まらなくてなぁ。ちょっと受けたい授業が多すぎるんだ。それで参考までにシエラとルルがどこに決めたのか知りたくてな」
「そういうことね。私とルルは〈芸術課〉関係ね。3コマは絵の関係の授業を受けることにしたの」
「あ〜、なるほど絵かぁ」
〈ダン活〉にはこういった芸術関係の生産職も当然のごとくあった。〈芸術課〉は主に【絵描き】や【工芸士】、【色変術士】などの職業が在籍する課だな。
ゲーム時代は、ギルドにいると勝手に換金アイテムを作ってくれたり、ギルド内の壁紙やインテリアなどを生産してくれたりといったサポートをしてくれる。
ただ、換金アイテムを作ってもらわなくてもダンジョンで稼げるし、壁紙やインテリアは攻略に関係ないため完全に趣味、オプション扱いだった。
まあ攻略に熱心なプレイヤーほど使うことの少ない職業群だな。
主にあまり時間がなく、ボス周回が満足にできないプレイヤー向けに換金アイテム専門の生産職として利用されていた。
つまり、芸術系換金アイテム生産→商人系職業で高値で売買→オークションで〈金箱〉産アイテムなどを購入→少ない時間で〈ダン活〉プレイ。
こんな感じのプレイスタイルの人がよく使っていたんだ。
絵は主にミールを稼ぐための生産職という扱いだった。
しかし、そんなところに行くということは換金アイテムを生産しよう、ということだろうか?
ちょっと聞いてみる。
「そんなわけないでしょ。趣味程度のものよ」
「ルルも趣味で絵を描くのですよ!」
どうやら売り物ではなく嗜み程度の範疇らしい。
なるほど、攻略とは関係なく趣味に傾倒しても良いわけだ。参考になるなぁ。
俺は今まで、攻略に役に立つという授業ばかり受けていたが、せっかくのリアル〈ダン活〉だ。
少しくらい趣味に走ってもいいかもしれない。
「ありがとう、参考になったよ」
「そう? 役に立てたなら良かったわ」
「ルルのも参考になりましたか?」
「ああ。ルルもありがとうな」
「あい!」
ああ。ルルの言動が可愛い。癒される。
「あとゼフィルス、明日はギルドに参加できるのかしら?」
「おうよ。土日は1日ダンジョンアタックだぜ! 平日参加できなかった分を取り返してやる!」
「了解よ。楽しみにしているわね」
平日はともかく土日は基本的に〈エデン〉に参加する予定だ。
そう言うと一瞬だけシエラが顔を綻ばせた。俺は見逃さなかったぞ。
すぐにいつものキリッとしたクールなシエラに戻ってしまったが、どうやら内心は楽しみにしてくれているみたいだ。
〈戦闘課〉の学舎を出たところでシエラとルルと別れる。
彼女たちはこれから乗馬の授業に出るらしい。
ルルはあの身体で乗馬するのか?
ちょっと見てみたい気もする。
それに俺も乗馬は興味有る。後で行ってみるとしよう。
まずその前に、今日行く予定だった授業から見て回るかな。