#234 フハハハ!見よ、これが【大魔道士】の力だ!
「フッハハハハハハ! これが我の力、【大魔道士】の力だ! 受けてみよ軟弱なゴブリンめ、『メガフレア』!」
「ゴビュ!」
高笑いをしながらサターン君がゴブリンを一撃で屠る。
「次は僕の番でしょう。あなただけに良いところは渡せませんよ。『三斬り』!」
「ギャギャギャ!?」
「は! 一撃で屠ってこそ強者の証! 故に斧こそが最強だ! うぉぉぉ『大斧割り』!」
「ビュッ!?」
「俺様を忘れるな! 俺様が敵を引きつけるからこそお前たちが安全に戦えると理解しろ! さあザコ共俺様の下へ来い、『ファイトー』!」
ジーロン君が〈ゴブリン〉を三連続斬りで切り捨て、トマ君が大きな振りかぶりからの一撃で屠り、そしてヘルク君が無駄に挑発スキルを使って残り1匹になったゴブリンを引きつける。
「はわわ。1組の戦闘課ってこんなに凄いんですか!?」
「いや。あれはただのアホだぞ」
全員MPの配分が出来ていない。
なぜゴブリンごときにああも大技を使いまくってるんだ?
どう見てもオーバーキルにしかみえない。
ヘルクなんてヘイトを取る必要も無いのに過剰に取っている。ほら、すぐにジーロン君にゴブリンが斬られて戦闘終了だ。最後の『ファイトー』を使った意味が無い。
しかし、ふむ。これがこの世界の普通の戦闘なのだろうか?
確かにこんな戦い方をしていれば中級ダンジョンで手をこまねいているというのも分かる。
いやいや、そんなはず無いな。スタミナ配分なんて初歩の初歩だ。
つまりこいつらがまだ職業を使いこなせていないだけだろう。
まだ職業に就いて一ヶ月だからな。
どうしようかなぁ。教えてやろうか迷う。しかし、どうせ学園の授業でも習うだろうし、俺が教える必要は無い。
でもなぁ。クラス対抗ギルドバトルなんかがあるからなぁ。クラスメイトが弱いとそのしわ寄せが俺たちに来るんだよなぁ。
俺がサターン君たちの事について思い悩んでいると、一仕事終えてきたといった風に髪をかき上げてサターン君が言う。
「ふっ、どうだったかな、我の戦い方は。何か参考になったなら嬉しいな」
なぜ俺が教わっている風なのだろうか? くっ、サターン君の顔がピエロとダブる!
いや、冗談は置いておいて、実際は結構参考になったけどな。こういう初心者がクラス内に多いかもしれないと分かったし。
とりあえず聞かれたので答える。
「サターン君は全くの初心者だな」
「な、なにおう!?」
まさか初心者呼ばわりされると思っていなかったのか、サターン君が目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。
自覚がなかったかぁ。
あれだけやっていて自覚がないとか相当だが、しかし高火力の職業だとよくこういうことがあるらしい。何しろ全部一撃だからな。自分がどの程度の強さなのか分かってないことが多いのだ。多分聞いたら、俺は最強だと答えるだろう。間違いない。
しかたない。少し教えてやろう。
「ゴブリン相手に『メガフレア』の連発しかしないし、というかINT凄く高いみたいだから『メガフレア』の2つ下の『フレア』で倒せるからMPの無駄遣いだ。もう8層まで降りてきているのに改めようともしないし、そんなんでは最下層に着く前にMP切れを起こすぞ。とても賢い攻略とは言えないな」
「な、な、なん、だとぉ!」
「あと後衛の【大魔道士】なのに前に出すぎだ。なんで前衛に近い位置にまで前に出てるんだ、もっと後衛にいろ。あと倒すばっかりに傾倒しすぎだ、もっと他のメンバーのフォローもしろ、パーティ戦だぞ。あとあんなに近くで撃っていたのに何回か外していたな。射撃の練習が足りていないぞ。遠くから撃って回避されるなら分かるが、サターン君のは狙いがズレている。調整した方が良い。まだあるぞ——」
少し教えてやるつもりが、言い出したら止まらなくなってきた。
サターン君は職業の強さに引っ張られすぎて戦闘訓練を怠っていた様子だ。
戦闘訓練なんかしていられるか、俺はレベルを上げるぞ、の精神だな。
その心意気は買うが、最低限の練習はした方がサターン君のためだろう。
ここは心を鬼にしてサターン君に直すべき場所を伝える。別にクラス対抗ギルドバトルの足手まといを減らしたかったというわけではない。
「う、うう。ううう——」
俺に改善点を言われている間、サターン君は妙に静かだった。
ふと我に返って彼を見つめると、何故か膝を地面に突け、顔面をのめり込みそうになるくらい強く地面に押しつけているサターン君がいた。
何をしているんだろうか? 何故かすすり泣くような声が聞こえてくる気がしたが、多分気のせいだろう。
「ふ、ふふ。お、おかしいですね何故か足に震えが」
「あんなになるまで説教するなんて、鬼かよ」
「ありゃひでぇ。凹みすぎて顔面が地面にめり込んでやがる。プライドへし折る気かよ」
何故か風評被害を受ける俺。他の3人からの何か恐ろしいものを見たような視線を受けた。
おかしいな。まるで俺がしでかしたみたいな言い方だ。
ちなみにモナは今さっき見つけた採取ポイントで採取している最中で聞いてはいない。
「さて、サターン君はこんなところだろう。——次は」
「「「次……、次ぃっ!?」」」
最初理解を拒むかのように俺の発言を繰り返し、その後意味を理解して驚愕する3人に俺は向きなおる。
ついでだ。これから1年間同じクラスなのだし、俺も彼らとは仲良くしたい。
〈ダン活〉については任せてくれ。誰よりも知識はあると自負している。
「君たちにも山ほど修正点があるぞ。教えてやるからよく聞いてくれ」
「「「いいっ!?」」」
その日、少年たちは成長した。俺のアドバイスのおかげだな!