#229 20層ボス戦! ちょ!奥の手使っちゃった!?
現在の階層は20階。
〈丘陵の恐竜ダンジョン〉では2体目のフィールドボスが出る階層だ。
ここで番をしているボスも、〈ジュラ・サウガス〉の時と同じく21層への入口で待ち構える守護型だ。つまり移動はしないので準備万端で挑む事が出来る。
「2体目のボスも守護型なのね。さっき言っていた徘徊型? のフィールドボスは出ないの?」
「良い質問だなラナ」
20層を最短距離でボスまで進む途中ここのボスを説明しようとしたところで、ラナから鋭い質問が飛ぶ。
「実は出ないわけじゃない。〈丘陵の恐竜ダンジョン〉にも徘徊型はいるぞ。ただ出てくる階層が21層から29層なんだ」
徘徊型は守護型と違い、倒しても転移陣が利用できるようになるわけではない。どちらかというと、そう簡単に最奥に到らせないための妨害担当という位置づけだ。
それ故に〈丘陵の恐竜ダンジョン〉では2つのフィールドボスを倒してやっと下層へ突入、もうすぐ最奥のボスだ、というところで襲ってきたりする。
ちょっといやらしいが、ゲームではこういうアクションはよくあるのだ。
ゲーム〈ダン活〉時代、これによってしばしば全滅させられることもあった。リアルではより注意しないとな。
「じゃ、話を戻すな、2体目の守護型ボスについてだ」
一通り徘徊型について説明し終えたのでもうすぐ遭遇するだろう守護型ボスについて説明する。
「次のボスは道中出た2足歩行型の〈トルトル〉のボス型で〈ジュラ・ドルトル〉。素早いステップに加え鋭い爪攻撃、そして遠距離からの飛びかかり、踏みつけや叩き付けなどを行なってくるな。厄介なのはこれまでにボスがしていなかった『ステップ』を行なってくる点だ」
「ステップ? ダンスのような?」
「いや、どちらかというと戦闘のステップだな。サイドステップやバックステップを多用してくるのでとにかく攻撃が当たりづらくなるんだ。聞くだけじゃ多分分からないと思うが、そうだなちょっとやってみるか」
俺は話の途中で立ち止まり有言実行するようにスッとサイドステップを踏んだり、ピョンとバックステップをしてみせる。
「こんな感じだな」
「なるほどね。確かに今までのボスと感じが違うわね」
俺のステップを見たシエラが思案顔で言う。
このステップが来るとしっかり分かっていないと結構攻撃が当たらなかったりするんだ。
相手が行動して、その行動先に攻撃する。そういう意識を持たなければいけない。
さらにいくつか注意事項を全員に通達したところで、とうとう見えてきた。
〈トルトル〉とは似ても似つかないほど大きな身体。大体3mはあるだろうか。
今まで道中に出たザコモンとは明らかに異なる大きさ、そして威圧感。
今がゲームならボスパートのBGMが流れていたところだ。
シエラが先頭になって進むと〈ジュラ・ドルトル〉がこちらを向いた。
「ギャン!」
「行くわよ、『オーラポイント』!」
シエラの挑発スキルと共に戦闘が始まった。
一直線にシエラに向かってくる〈ジュラ・ドルトル〉が一瞬のタメの後、大きく跳躍する。
飛びかかり攻撃スキル、『恐竜キック』だ。
助走が付いているので打っ飛ばし効果がある。直撃すればダウンを取られかねない一撃だ。
まあ、シエラにはボスの行動パターンは教えておいたので余裕で対処可能だろう。
正面からシエラをどうにかするには〈ジュラ・ドルトル〉では格が足りない。
さて、シエラはどう対応するだろうか。受け止めるか、受け流すか、はたまた避けるのか。
しかし、シエラはそんな予想の上を行く。
「『カウンターバースト』!」
シエラの選択は反射スキルの『カウンターバースト』だった。タイミングが厳しいが決まれば敵に大ダメージとノックバック効果を与える強力なスキル。それを初見の相手に使用するか。しかも、
「ギャンッ!?」
見事成功。確かに飛びかかりは予測しやすい攻撃だが初見の敵の、しかも初手で合わせに行くとかさすがシエラなんですけど。
シエラの反撃を受けて〈ジュラ・ドルトル〉が大きくノックバックして思いっきり硬直する。もちろん俺はその隙を逃さない。シエラが『カウンターバースト』を選択した時からこうなることを予想していたので問題無く対応可能だ。
「『勇者の剣』! 『ハヤブサストライク』!」
「ギャウアァッ!?」
〈滅恐竜剣〉の特効が加わった高威力の〈ユニークスキル〉を叩き付けたことで〈ジュラ・ドルトル〉がノックバックダウンする。大チャンスだ!
「総攻撃だ! 『ライトニングスラッシュ』! 『恐竜斬り』!」
「『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』! 『光の刃』! 『光の柱』!」
「アイテムは強いんだよ。これでもくらえ!」
俺の特効攻撃に加え、ラナの高威力魔法、ハンナのアイテムによる攻撃が刺さり、がっつりとダメージが入ったな。
そしてエステルだが、
「今日はこれで最後みたいなので使ってしまいますね。『姫騎士覚醒』!」
奥の手を発動しちゃった。
確かにこのボスで帰還する予定だったけど、そうだな。いつ使うの? って聞かれたら、今でしょっ! だよな。
ということで哀れ〈ジュラ・ドルトル〉。
ボス戦が開始されて早々、良いところ無しでダウンを取られ、MPを使い切る勢いのエステル本気攻撃の連打にあっけなくそのHPを0にしたのだった。
ええ、もう終わりなの!? と言わんばかりに目を大きく見開きながら、〈ジュラ・ドルトル〉は膨大なエフェクトの海に沈んで消えた。
エステル、またラナに叱られるぞ、絶対。