#023 初心者ダンジョン周回、ボス部屋の裏
「おめでとうゼフィルス君、ハンナさん。二人ともダンジョン合格基準を満たしました。これで今後は付き添い無しでダンジョンに挑めるわよ」
「「ありがとうございます!」」
〈初心者ダンジョン〉を無事無傷で勝利した俺たちはダンジョンの入口〈ダンジョン門・初伝〉に戻ってきていた。
そこで改めてフィリス先生にこれまでを振り返った評価をいただき、無事合格となった。
フィリス先生からは「ここまで評価が高い生徒は珍しいわ、さすがね」なんて言葉をいただきました。やったな。
ハンナとハイタッチをして喜んだ。
「私はこれから教職室に戻るけど、二人はどうするの? 一緒に戻る?」
「お気持ちはありがたいのですが、もう少しダンジョンで練習してみたくて」
「あら、さすが熱心ね。ハンナさんは?」
「私もゼフィルス君に付いていきます」
勧誘合戦はまだ続いているためフィリス先生が同行を提案してくれるが、俺はまだリアルダンジョンを満喫し足りない。
先ほどのはやはり授業だからか不完全燃焼だった。
俺は、もっと自分の赴くままにダンジョンアタックがしたかった。
フィリス先生は納得すると「頑張ってね、応援しているわ」と言って戻っていった。
フィリス先生に手を振って見送る。
いやあ、優しいし、心が広いし、美人だし、良い先生だったなぁ。
しかも19歳美人教師、もう一度言う19歳美人教師だ。
さすがゲームの世界。良い設定してる。
あんな先生に優しくお勉強を教えてもらっていたらさぞ捗るだろう。
フィリス先生が見えなくなるまで手を振り続けると、やっぱり今からでも一緒に帰りましょうと追いかけたくなった、が鋼の自制心でそれを止める。
横からハンナがじっと見ている。見ているだけだが、すごく見てる。目力が強い。
俺は何食わぬ顔でハンナに振り返った。
「さて、またダンジョンに挑もうと思っているけど。ハンナも来るか?」
「そのために残ったの。もちろん行くよ」
付いてくるのは決定らしい。
まあ好都合かな。
今後のこともあるし、ハンナもLV16までは上げたいと思っていた。
『錬金』と『調合』を育てると開放される『素材返し』は是非とも覚えさせたい。
現在の俺とハンナの職業は二人ともLV8だ。
初級下位ダンジョンは入場制限でLV10以上の人しか潜ることが出来ない。
そのため俺たちは初心者ダンジョンで後2レベ上げる必要がある。
今日中に上げる所存だ。
俺はレベルを上げるぞ!
「今日中にLV10まで行くつもりだから、まあ2周もすれば上がるはず」
「うん。ゼフィルス君に任せる」
「よっし。んじゃ周回といきますか」
俺とハンナはまた初心者ダンジョンの扉を開き、ダンジョン内に転移したのだった。
ぶよよん。
ぶよよん。
再びモチッコを斬り。
ゴツンッ。
ゴツンッ。
角無しのホーンラビットをハンナが撲殺し。
ベキッ。
スパン!
二人でウッドをへし折ったり斬ったりして。
ポカ。
ポカ。
コケッコー(ひよこ)を優しく殴った。
再び俺たちは最下層のボス部屋にやってきた。
「うん。楽しいけど歯ごたえが無いわぁ、これ」
「しょうがないよ。ここは初心者用だし、試練に合格するのが目的のダンジョンなんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどな。しかし、ここはちょっとお楽しみがあるぞ」
「?」
さすがに2度目ともなると道中ちょっと物足りなくなっていた。
だが、このボス部屋だけは俺は楽しみにしていたのだ。
「ゴッブ!」
扉を開くと先ほどと同じ並ゴブリンがいた。
勝敗は一瞬だった。
「さっきは使えなかった『勇者の剣LV1』を食らえーーーーっ!!」
「ゴブ――ッ!?」
ショートソードが青いエフェクトに包まれ、そのまま上段から斬り落とした。
ドバンッ! 衝撃。一閃した空間にエフェクトが溢れる。
一瞬でHPが0になって光の粒子になって消えるゴブリン、端から見たら絶対にかっこいいに違いない一撃だった。
「おぉぉ!! 爽快感すげぇ!」
ヤバい。必殺技ヤバい。
むちゃくちゃ楽しいぞこれ!
もっとゴブリンは居ないのか!?
残念ながらボス部屋のモンスターはゴブリン1体だけだ。そんなぁ。
ドロップの〈子鬼の角〉を回収してハンナの下に戻ると、何故か顔を赤らめてもじもじしていた。
「ゼフィルス君、何今の!」
どうやら『勇者の剣』がお気に召したらしい。
お目が高い!
「『勇者の剣』だ。まあ【勇者】のユニークスキルにして必殺技だな」
「すっごいかっこいいね!」
「まあな!」
いやあハンナもあの一撃のかっこよさが分かるか!
俺も嬉しいぜ。
く、なんでさっきの俺はフィリス先生の前で『勇者の剣』を格好よく決めなかったんだ。フィリス先生の興奮した顔が見たかった。
後悔が押し寄せる。
一通りハンナと今の一撃について熱く語り合い終わると、俺は本命に向かって歩き出した。
「さっき言ってたお楽しみって『勇者の剣』のことじゃないの?」
「ああ。あれは、まあ俺もこっちじゃ初めて使ったからな。あんなかっこいいスキルだと思わなかったつうか…」
「こっち?」
「いや、こっちの話。さっき言ったお楽しみってのは別だったんだ。まあ付いてこいよ」
俺が行くのはボス部屋の奥。
淡いピンク色の光が溢れる魔法陣がある。
ここはゲームと同じだ。〈ダン活〉ではこのピンクの魔法陣は転移ゲートだった。
ここに乗る事でダンジョン入口に転移して戻れる。
ちなみに一周目にも乗った。入口に戻った時は感動した。
だけど今はこいつに用はない。
俺の用があるのはさらに奥だ。